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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
54/183

54:神の正体



「バランはそう遠くない内には討たれると思っていた。これは力量の強弱とはまた別。それぞれ持つ死期というものかも知れない。……まぁ、言ってしまえば感だ」


 と、魔王様が先ず触れた部分はバラン様の事だ。


「だがもう終わった事だ。何よりバランは神界の勢力を引きずりだすと言う十分すぎる置き土産を私にくれたからな」


 バラン様や『崩壊コラプス』の作戦で戦死した者の弔いはもう済んでいる。

 この場でその話は程ほどにするようだ。


「今回幹部を呼んだのは他でもない。今後は神界の勢力が本格的に干渉してくる事を見越しての情報の整理と、どの敵にどの味方をぶつけるかの話し合いだ。未だ天使共に止めを刺した者が現れないのは残念だがな」


 と、一瞬あっしの方に魔王様の視線が向いた気がしたのだが、気のせいだろうか?

 大丈夫だよな? 何もないよな?

 もう『不凋花アスポデロス』も除隊して魔王軍と関わるつもりはま~ったく無いが、面倒ごとに巻き込まれないよな?


「そうだな……せっかくだ。少し昔話をしよう」


 魔王様はそう前置きして、とある神話を話し出した。









 数千年以上前の事。

 英雄王ガリウスと北の魔王が争った時代よりも前。反旗を翻し堕天した天使たちと神界の者共が争った時代よりも更に前。

 まだ神が決まっていなかった時代の事。

 神の座を賭けて、全ての種族が争った。


 それに勝った種族が今の『神』と呼ばれる種族である。

 ではその正体は何なのか?


「それを話すには、全ての種族に備わった究極の進化について説明しなければならない」


 そう魔王様は言って少し話は逸れる。

 全ての種族の魂は以下の七種に分類される。

 人間の魂。

 魔族の魂。

 獣人の魂。

 妖精の魂。

 悪魔の魂。

 天使の魂。

 竜の魂。

 例外は一切ない。全てはいずれかに該当する。


「まぁ、竜はちょっと特別なんだけどね。今は関係ない」

 

 魂の説明でそう零していたが、話は続く。

 全ての種族に共通する事としてレベル限界が99で訪れる事だ。

 それは本来どうしようもない生物の壁。

 だがこの壁を取っ払ってしまう方法が各魂の種族によって存在する。

 それが魔王様の言う『究極の覚醒』。一般に知られる事ではない為、名前がないらしい。

 この『究極の覚醒』を行えば肉体は再構築され、レベルは99を越える事も可能となる。

 ではそれは具体的には何なのか? 答えは魂の昇華である。


「魂の格が上がる事により、肉体の格の上限が取り払われる。魔族の魂を宿す我々魔族の場合、その方法は二種類だ。一つは単純。他者の魂を破壊し、自身の魂のレベルを上げるのだ。そしてもう一つは群れを作る事。所謂“群れの進化”だ。群れを作る事で全体意識の門が開き、自身の限界以上の霊力を借り受ける事ができる。この場に座る魔族は必ずどちらかの覚醒が行われている事だろう。そしてその両方の条件を満たした者が魔族としての最高峰の種、各種族の頂きの一つ。“魔王”となるのだ」


 “魂の昇華”の果て。国家単位による“群れの進化”の果て。そして種の進化その物の果てである“魔王”が誕生する。

 聞いていてこれが伝説級の話であると理解した。魔王に覚醒する条件など聞いたこともない。

 とんでもない場に居合わせたものだ。


「そしてここからが本題だ。言った通りこの覚醒は人間にも存在する。人間も覚醒は二種類だ。一つは魂までも管理下に置くほど練度の達した者。所謂仙人と呼ばれるのがこれだ。あまり居ない。私も見たのはアウラくらいのものだ」


 魔王様の視線がアウラ様に向く。

 アウラ様は気にせず優雅に紅茶を飲んでいる。

 そうか。仙人っていうイメージとは違うが、人間であるアウラ様は種族的にはそうなるのか。

 アウラ様がレベル限界を超えていなっての方が違和感のあるところだ。


「もう一つが神聖力による魂の昇華。レベルが上がるのとは別だ。人間は神聖力による魂の格が上がる事で覚醒の条件を満たす。所謂聖人がこれにあたるな。そして“仙人”と“聖人”、その両方を満たした者こそが、人間として最高峰の種、各種族の頂きの一つ……つまりは――」


 一拍置いて。


「“神”だ」


 そう魔王様は語った。









 その話に動揺を示す者も少なくない。

 あっしもその一人。

 つまりはその話で言えば神の正体は人間という事になる。

 そしてそれを肯定するように話は続く。


「まぁ、つまり、神の正体は元を辿れば人間なんだよ。人間の言う全知全能のこの世界の創造主などでは決してない。この話を聞けば、我々の成そうとしている神殺しが如何に現実的な話かも見えて来るだろう?」


 と、そう魔王様は我々に問いかける様に言う。


「かつて神の座を争った神代の時代、この完全なる覚醒に達した人間が九人も居た。私が九人居ると思い給え。その者達は今で言う神界を拠点としていた天使達と手を組み、神聖力に満ちるその場所にて存分に力を振るった。そしてその者達の勝利として、神代の争いは終結したのだ。その後その九人は自らの優位性を絶対の物とする為、自らがまるで天地創造の神であるかのように民衆へと教え込んだ」


 それはまさに神話だった。

 ただし都合の悪い、神々自身によって隠された神話だ。


「また少し話が変わるが、この覚醒へと至った者が子を成すと必ず死ぬ。まぁ、皆もそうだから分かっている事か。我々はレベル限界という生物の理を越えた存在。レベルとは成長であり、成長とは老いだ。完全なる覚醒を終えた私はレベル上限が完全に取り払われた存在であり、つまりは成長をいつまでもし続ける寿命の無い存在。その者は生物として完全であり、子を成す必要が無い。その存在が子を成した時、殆どの力を子に与えると共に、搾りカスとなって寿命に縛られた存在となる。今までの反動かの様に約十年という短い生のみが許された存在としてな。……まぁ、大分私見も含まれてはいるがな。そこら辺の知的好奇心を満たす論議はまたの機会としておこう」


 言われてみれば魔王様と大幹部の者達で子供が居るなんて話は聞いた事が無い。

 覚醒した者は子を成すと寿命に縛られる、か。

 やはり都合の良い事ばかりではないものだ。


「ともかく神を名乗った者達もそうだった。時が経ち、その九人の内八人が子を成した。神同士の子だ。人間とは比べ物にならないゆっくりとした周期で繁殖を繰り返し、神を名乗る種族は増えていった。現在一人を覗いて天上に居る神々は全て最初の八人の血を引いている」


 段々話を現実に落とし込めてきたと同時にぎょっと驚く。


「ふっ。私の様な存在が何万も居る様に思ったか? だが世の中そのように甘くない。いくら血統が良くても、産まれてくる赤子はレベル1。繁殖を繰り返す度血は希釈化され、何千年も天上で引きこもっている神共には霊力が循環せず、次第にステータスは落ちていった。それでもただの人間と比べてしまえば高いステータスだろうが、今や実行部隊である天使共の方がよほど脅威である。ただ一人を除いてな」


 やはり大幹部の者達はそこら辺の道理を理解していて動揺はないようだった。


「その者は周囲が子を成し寿命に縛られる中、嘗ての戦友も、その子、孫、その子孫たちまでも死にゆく様を一人眺めて生きる事を選び続けた者だ。現代まで生きる唯一の神代の神。神々の座を賭け争った時代を勝ち抜いた、私のただ一人にして最も警戒する男。最強の神。神々の王、全能神ウラノスだ」


 人間社会など関わった事のない身でも聞いた事のある神の名に生唾を飲み込む。

 まさに神話の中の遠い存在が現実の中に落とし込まれ、その存在感は星の様に大きい。いや、まさに目の前の魔王様と同じ様な存在。

 そして魔王様は端的に宣言してのけた。


「私はいずれ、この神を殺す――」


 ……と。



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