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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
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47:破邪の儀



 音を立てて結界が砕け散り、二つ目の結界にひびを入れてその槍は止まる。


「『エクスプロージョン』!」


 至近距離での小爆発を受けて翻るスイエル。

 アルラは膨大な魔力と詠唱省略による不意打ちでスイエルに応じていた。

 一撃でも受けたら畳みかけられるのを分かっているので、意識を集中してスイエルを翻弄する。

 決定打に成りうる攻撃は無いが、相手はダメージが蓄積していく上、いずれ飛ぶための魔力は切れる。

 地道だが勝利は見えた……ように感じるが、その後も問題だ。

 魔力が切れても相手は恐らく2000の闘気が残る。負けはしないが勝ちも遠のく。

 アルラは冷静に考えたい時なのに相手がそれを許してはくれず困った気持ちになる。

 いつもなら霧を発生させて姿を隠す所だが、相手も飛んでるようじゃあまり意味が無い。


(どうしよう……打つ手なしじゃない)


 思わず弱気になる魔女。

 いや、今までだってお使い中に自分より速度のある飛行系の魔物に追われる事くらいは幾度とあった。

 その時は逃げる事が多かったが、そもそもどうやって逃げたのか。

 今はそれを不意打ちへの応用をすればいい。


 アルラは一度逃げに徹し、自分の行使できる三つの魔法の枠すべてを集中させる。

 かつてない集中力が必要となる。例え同じ三重術者トライ・キャスターだろうが上澄みも上澄みの使い手にしかできないだろう事をアルラは挑戦している。

 自分の限界かその先への挑戦。

 一つは当然自身の体を押し上げる繊細な飛行魔法。二つ目は。


「『テレポート』!」


 緻密な調整が必要な瞬間転移でスイエルの背後へと回る。

 そして溜め込んでいた三つ目の魔法を開放する。


「『ハイエスト・エクスプロージョン』!」


 アルラはスイエルのその無防備な背中へと荒ぶる爆発を放った。









 決して遠くはない場所からの大爆発にヘルンたちは少なからぬ動揺を見せる。

 耳が遠くなり、レベルの低いミティアは鼓膜が破裂し気絶する。

 自身でもくぐもって聞こえる声で名を呼びながら、ヘルンはミティア庇うように立つ。


「サモン・ウォーター」


 この場の殆どの者が聞こえていない詠唱を唱えてハルはミティアの顔に水を掛ける。


「ふあっ」


 そう声を零して起き上がるミティア。

 今ヒーラーが倒れたらパーティは全滅する。

 バランとの戦いは天使二名を入れてもぎりぎりの戦いだった。

 対峙する全員が肩で息をしている。


「『インフェルノ』」


 その呟いたバランの魔法にまたかとハルは絶望的な気持ちになる。

 天才的な魔術士であるハルがもってしても、バランのインフェルノは抵抗レジストできないでいた。

 それもその筈。バランはインフェルノを三重で行使している。それは最早インフェルノと呼べる魔法ではなく、地面すら溶け出す超高温となる。


「『アイエスト・フロスト』」


 しかしアラマエルの魔法により超冷却され、熱は逃げる。急激な温度差に地面が割れた。

 大魔法を地上のヘルンたちに影響がないように制御する素晴らしい技量だ。

 悪魔と天使による魔法のぶつかり合い。

 ハルだけなら疾うに全滅いていただろう。


 終わりの見えない戦闘の中、ヘルンは仲間と戦う感覚を徐々に思い出す。

 忘れていた頼り頼られる感覚。


(カリバンよ、無茶をさせたな)


 ヘルンは少し軽くなった気持ちで聖剣を労わる。

 それに呼応するように青白く輝く聖剣。

 極限の戦闘場面だと言うのにヘルンに不思議と緊張はない。


「む?」


 バランは受け止めたヘルンの剣に違和感を覚えて体ごとそれを避けた。

 血が滴る手を見る。黒光りする鎧の様な鱗を切り裂いていた。

 剣に宿る神聖力が増している。

 一つ一つの斬撃に神聖力が込められ、バランの爪や鱗を削っていく。

 しかもそれは徐々に力を増していく。


 パラシエルは考える。

 今回の戦い、戦局を左右するのは聖女ミテェアだと。

 やる気も実力も十分ではあるが、経験が伴っていない。

 我々がサポートすればバラン打倒は十分現実的と言える。


「聖女ミテェア。聞こえるか? 我々三人で破邪の儀を執り行う。協力してくれ」


 両耳に手を当てて治癒を行うミティア。

 本来はスイエルとの三人で行う予定だったが、あちらはあちらで忙しそうだ。

 ミティアは緊張の為か無言でぶんぶんと首を縦に振る。

 ともかくこの三人でどうにかバランを囲った状態で儀を行いたい。

 勇者ヘルンと魔術師ハルがバランの気を引く中、その儀はミティアを要に行われる。

 剣舞を行うアラマエル、集中して儀により生じた力を制御するパラシエル、ごっそりと神聖力が抜けるのを感じ続けるミティア。

 周囲に神聖な気が溜まる。

 そしていよいよ儀の完成も間近となった時。


「また妙な画策をしよって」


「ぐはっ!」


 腹から突き出したバランの手に、パラシエルは胃がきゅるきゅると痙攣して血を吐き出す。

 空間転移は警戒していた筈が、最後の最後気が緩んでしまった。

 この儀なしでは勝てぬと言うのに。自分が行動不能になってしまえば最早この儀の成功は絶望的だ。

 パラシエルはこの状況を打開し得る何か可能性はないかと模索するが、そんなのは意味の無い事だった。









 スイエルは受け身を取ったものの、大爆発を受けてかなりのダメージを負っていた。

 翼のダメージが許容量を越え、最早飛行はできない。


「どうやらその翼ではもう触媒として扱えないみたいね」


 アルラを見上げて否定も肯定もしないスイエル。

 スイエルは翼無しの飛行が行える程飛行魔法の練度は高くない。

 手放してしまった槍の代わりに腰の剣を引き抜くスイエル。

 闘気は有り余っているが、それを活かせる体の状態にない。

 どうしたものかとバラン戦の方を見る。


 アルラは浮遊しながらどうするかを考える。

 先ほどの一連の動きで大量に魔力を使ったとは言え、まだまだ6割近くある。

 相手も弱ってる。このまま追いつめるのは簡単そうだ。


「『ファイア・ストーム』!」


 アルラはいつもの魔法を放つ。

 あまり細かい事を考えなくてもいいし、範囲攻撃であるこの魔法は箒の上からでもほぼ確実に当たるのでこの魔法は好きだった。

 上昇気流が熱くて横に避けなきゃいけないのが難点だが。

 そう、そして敵を見届けられないのも難点、いや欠点である。


 スイエルは灼熱の炎に絶えず身が焦がされる中、剣舞を行った。

 ぎりぎりに意識を繋ぎ止めて、肺が焼けぬよう無呼吸で舞に没頭する。

 決して有終の美を飾っている訳では無い。

 バラン戦を行うパラシエルたちの破邪の儀を行っているのだ。

 振るう手足を焦がしながらスイエルの意識はただ儀を続けることのみに集中する。









 そして儀は完成する。

 誰一人完成を確信できぬ間に。


「む? くっ、何故だ、何故技が発動するっ」


 漸く余裕を崩したように零すバラン。

 生涯でも受けた事の無いような神聖な力が身を滅ぼすべく群がる。


「これで終わりだ! バラン!」


 声高らかに聖剣を掲げるヘルン。

 バランは移動をしようとして息を飲む。貫いた腹の向こうでパラシエルがしっかりとその手を捕まえていた。

 一瞬生じる隙。だが焦りの中でもまだ間に合う。


「『テレポート』」


 使い慣れた魔法だからこそ一秒程度の時間で発動を可能にする。

 その空間転移を。だが魔法は妨害される。

 アルラによっていいようにやられるも、命を繋いでいたとある女の魔法使いによって。

 アンチ・テレポート・フィールドだ。

 本来ならその上で転移を可能とする技量のあるバラン。だが反射的に発動した今その対策はなく、更なる時間の猶予を勇者に与える。


「『プレア・スラッシュ』!」


 ヘルンのレベルより遥かずっと高み斬撃が、果てしない程の神聖力と共に放たれた。



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