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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
46/183

46:魔女VS力天使



 アルラは自分に匹敵する存在が近づいている事を敏感に察知する。

 高密度のエネルギー。翼が生えた種族を目視で確認。

 今作戦の部隊に翼を持つ種族の者も居るが、状況的に見てもそれではないと分かる。

 第三勢力か? にしても種族と目的が不明である。


「姐さん! そいつ天使ってやつらしいですわ。ここは強力プレイって事で」


 と、転移の気配と共に現れたアドラが地上からそう声を張る。


「りょーかい。でもアドラ気を付けなさい。軌跡の騎士がどっかで様子を窺ってる筈よ」


「うへ。ほんまですか」


「そっちは頼んだわよ」


 アルラは逃げに徹していた“軌跡の騎士”をアドラに任せ、向かってくる天使とやらに意識を向けた。

 因縁の魔法使いとは既に決着がついた。さすがにレベル差があり過ぎて油断と容赦の無い今のアルラでは相手にならない。

 生死は不明のままだが地べたに転がっている。

 そして“軌跡の騎士”はこちらの消耗を狙っているようで逃げに徹し、ぎりぎりを演出されたアルラは実際に多少の消耗をさせられている。


(まぁ、それでも七割以上魔力はあるけどね)


 アスラ王都の時と違い、召喚での魔力消費は無い。

 逆に言えば言い訳もできないが。


 相手の天使。長槍を得物にして宙に浮かぶ。更に腰には剣を差している。

 空を飛ぶ者同士の戦い。それも相手は接近タイプと見ていい。

 こちらは魔法使いで浮遊は箒の触媒ありきだ。

 こちらがかなり不利な状況である。


(いや、向こうは翼ありき……あの翼が空間魔法の触媒だな?)


 アルラは敬愛する師さながらの観察眼でその天使の特徴を見抜く。

 アルラにその自覚は無いが、一目見ての看破など相当に卓越した魔法使いであると共に知識もないとできない。

 その考察通り、天使は翼を触媒とする事で空間魔法を安定させている。

 まったく動かしていない事からもそうだが、人の体重を支える得る翼の大きさではなく、そして飾りにしては大きすぎる。

 何よりその翼に魔力が籠っている事をアルラは見抜いたのだ。


「お初にお目にかかります。私は偉大なる創造主様よりスイエルの名を賜りし、神々の忠実なる僕でございます。あなたを殺す者です」


「あら、まぁ。思ったよりご丁寧です事。ではわたくしも……。水銀の魔女アウラ様の忠実なる僕であり、弟子であり、家族であり、アウラ様がどうしてもと言うなら恋人もありよりのありな者。アルラよ。ささ、さくっと殺してあげる。人間より躊躇なくやれそうだわ」


「ふっ。こちらとしても神に背く者などなんの躊躇もない。私が主に変わって天誅を下してくれよう」


 そう槍を構える天使スイエル。

 ただでさえ槍使いにいい思い出の無いアルラとしては顔が険しくなる。

 どう対応をすべきか、いやそんな考える隙を与えてくれないから接近戦は魔法使いの苦手とする領分だ。

 騎士と魔法使いじゃ基本騎士が勝つ。攻防への速度が速いからだ。そして相手は魔法騎士とも呼べる様な存在。隙が無い。

 思えば“銀月の騎士”もそんな存在だった。ほぼ完敗だったあの戦いの二の舞になる可能性は正直高い。


 プライドさえ無ければ逃げ出したい状況の中、スイエルが動き出し、アルラは結局上空へと高度を上げて逃げた。

 というより、槍を避けるにしてもこうする他ないのだ。


「おや、早速逃げの一手ですか……まぁ、賢明でしょう」


 それを理解しているスイエルはアルラを追う。

 アルラは飛びながら考える。自身の残り魔力は割合から考えて1700は固い。

 成竜は最低1000以上の魔力を持つが、それを考えると人の身に宿る魔力として膨大な量が宿っている。

 相手は恐らくレベル的にも大差ない。そして向こうがバランス型のステータスなのは得物を居るに間違いない。

 相性は悪い訳だが、それは寧ろ魔力量で言えばこちらが勝ると言う事。

 で、あれば魔力量は精々が1200や1300。このまま飛行を続けていれば向こうは魔力切れを起こして必ず勝てる。


(……と、向こうは考える訳だ。どうやらかなり魔力量に自信がおありのようだ)


 そうアルラの思考を正しく読み取ったスイエル。

 飛行のスピード自体はこちらの方が高いが、届きそうになると風魔法や火の弾の牽制、ダメージは無いがかなりうざったい土属性魔法の土をかけられ邪魔をさせられる。

 それらの魔法で魔力量が埋まるとも思えず、スイエルはこちらも魔法で対抗するべく風属性魔法でアルラの行く先に風を発生させた。


「わっふぅ~! やっぱ私の方が魔法が上手ね! ほら! やっほ~う!」


 箒を中心にくるくると風に乗って回転するアルラ。実に楽しそうに空中飛行を披露する。

 どうやら風に乗るのはアルラの方が得意らしく、風魔法は妨害すると同時に自身のスピードも上げていた。


 最初こそ余裕のある気持ちだったスイエルだが、このままでは打つ手が無くなる事を察する。

 いや、既に無い事を理解した。

 まさか空中という戦場において、天使である自分をこうも翻弄する者が居ようとは。

 認めねばならない。目の前の魔女は強いのだと。

 脅威だ。召喚の要と言う当初の理由以上に目の前の魔女は脅威足り得る。


(こうなっては乗ってくるか分からんが……)


 スイエルは目下で戦闘をする悪鬼と騎士に視線を向けた。









 その騎士、ルテンは最早弱いフリをする必要もなくなり、目の前の悪鬼を全力で殺しにかかった。

 ルテンは若返りの秘術を用いる事により、実年齢よりずっと若い姿へとなっていた。

 そのレベルは82。

 見た目の若さとはかけ離れたレベルの高さだ。


 魔女との戦いは本当に成す術が無く、一応弱いフリだけしといたのだ。

 そして今は悪鬼との戦いに勤しむ。

 悪鬼は手袋を取って爪で応じる。

 ルテンの剣技に悪鬼は両手の爪で必死に応じていた。


(クッソ。こいつめっちゃ強いやんけ)


 アドラは回りを見る余裕もなく、ルテンの相手をしていた。


「え?」


 と、アドラは思わず呟く。

 気づくとアルラと戦っていた筈の天使がこちらに来ていた。

 さすがにこの化け物二体は死んじゃう。


(あ~も~、嫌らしい事するわね!)


 渋々高度を下げるアルラ。

 計画通りと迎えるスイエル。

 アドラも助けに来たつもりが自身の存在がアルラの動きを制限してると気づく。


(これは姐さんの為にも早く片付けんとな)


 とは言え気を抜けば首が飛びそうだし、祝福の効果か妙にしぶとい。


「姐さん! あっしの事は気にせず魔法ぶっぱしていいんで!」


「りょーかい! 『ファイア・ストーム』!」


 アドラに応じてアルラは自重なしの魔法を放つ。

 現れた嵐のように荒れ狂う火の海にまじで容赦ないなと思いつつ、アルラの餞別だと理解しアドラはここを離れる。

 あの天使とは離れないとアルラが好きに動けない。

 最悪“軌跡の騎士”が残ったってアルラには何もできない。同じく炎を全力で避けたあたりそうもいかないだろうが。


(これはさすがにあっしが相手する他ないか)


 そう思うアドラが逃げた先はバランと勇者達が戦う近くだった。

 位置的にアルラの戦う場所との間くらい。

 あまり踏み込まないようにしないと巻き込まれてしまう。

 それ以前に戦いの邪魔をするなど言語道断。それが上司の物など考えただけで恐ろしい。


「ま、逃がしてはくれへんよね」


 当然に火の海から逃れてやって来た“軌跡の騎士”。

 それぞれの相手が整い生まれた三つの戦場は波紋を作り、互いの戦闘へと影響を及ぼしていく事となる。



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