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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
45/183

45:力天使《ヴァーチュース》



「……と、そうであった。今は語れんのだったなぁ」


 と、そうバランは呟く。


「なぁ、ハウリアよ」


 そう視線で射抜かれるヘルン。

 瞳のずっと奥を覗かれる様な感覚を覚える。

 ヘルンとミティアの主神である女神ハウリア。

 まるでバランの言葉は女神ハウリア本人に向けた様な口調であった。


(な、何なんだこいつは……!)


 得体の知れなさ、不気味さを誤魔化す様にヘルンは聖剣を振るった。

 それに余裕を持って避けたバランは空中へと浮かぶ。


「何も、そちらに合わせて地を這う理由も無いのでな」


 バランは地上7メートル程の高さに上がり、蝙蝠の様な漆黒の翼を広げた。

 更に光沢のある黒い鱗で覆われた尻尾が現れる。

 本来の姿を現したのだろう。


「聖剣カリバンよ、応えてくれ」


 ヘルンは剣を眼前に祈りを捧げる。

 バランの高さはヘルンが全力で飛んでもギリギリ届く程度。

 青白く光る剣を携えてヘルンは駆け出し、ハルへと目配せする。

 それだけで意図を酌んだハル。

 ハルも駆け出し空中へと結界を張った。

 空中へと飛びあがり、その結界を足場にしてバランへと迫るヘルン。


「うおぉー! 『プレア・スラッシュ』!」


 バランは避けない。

 その先ほどよりも神聖力の籠った攻撃を。

 鋭い金属音が響き渡り、バランはその剣を受け止める。


「なっ。くっ……!」


 まるで鎧の様な黒い鱗に覆われた手で剣を掴むバラン。

 ヘルンは空中で丸まり、バランを蹴って剣を引き抜いた。

 受け身を取り地面に着地する。

 全力ではなかったとは言え、まったく効いた様子が無い。

 いや、考えてみれば当たり前だ。反動が無い程度に抑えると言う事はレベル以上の攻撃ではないと言う事。

 そして本来レベル72程度の雑魚が相手取っていい相手ではない。

 相手のレベルは優に100を超えるのだろう。


「弱々しい神聖力だ。まったくと言っていい程祝福と聖剣を使い熟せていないな」


「なんだと?」


 いや、ヘルンも分かっていた。

 まだ使い手として足りていないと。

 感情によって魔力や神聖力は動きが活発になるが、神聖力が最も活性化される感情は愛と庇護欲などと言われる。

 今のヘルンのそれはあまりに少ない。

 この精神状態では祝福と聖剣の力を引き出せないのだ。


 と、バランが視界から消える。

 空間転移だ。


 ――不味い……!


 ヘルンは焦る。

 自分のすぐ近くに居る気配はない。

 ミティアかハルに向かったと言う事。

 まるで二人が眼中になかった。まるで一人で戦っているかの様な感覚になってしまっていた。


 ミティアのすぐ背後に転移したバラン。

 そして鋭い爪の手を心臓に向けて振るう。


(ダメだ……! 間に合わない!)


 動きながらヘルンは察してしまう。

 ハルこそ無理がある。

 また失うのか? 俺が無力なばかりに……

 加速する思考の中で、その代償を支払うかの如くゆっくりと光景を見せつけられる。

 まるで愚かさを痛感させられるかのように。









 ――時間は少し遡る……


 女神デメテルは閉じていた瞳をゆっくりと開けた。

 その瞳は髪と同じ濃い緑色。まるで彼女の豊穣の属性を現してるかのようだ。

 ここは白く清潔な神殿の中。広くは神々の住まう神界である。

 用意された円卓に座る四人の麗しき男女の中にデメテルも居た。


「私のところの者がやられました……それもたった一人の者に」


 デメテルは静かに告げる。

 それを聞き動きだす者たちが居る。

 神界は今慌ただしい。男神アポロンの祝福を授けた者を経由して得た情報によると、敵は祝福や加護の掛かった魂を集めている。

 由々しき事態。

 女神アルテミスが祝福を掛けた者の魂が神界へと全く帰って来ない事から半ば予想はされていた。

 明確な神々への敵対行為。


「ああ、騎士レフト……おいたわしや」


 そう呟くのは長い金髪の女神アルテミス。

 実に悲しそうな顔をする。

 下界の人間に情が入りがちな女神である。


「僕の所の子は善処はしてるみたいだけど、さすがに相手が悪いね」


 そう笑う優男は男神ヘルメスだ。


「むう。本当にあの程度の兵で落とせるのか心配だな。やはり今からでも王に具申すべきか」


 そう語る偉丈夫はアポロンである。自身の祝福を掛けた者があっさりと悪魔にやられて気が立っているのだ。


「我らが父の手を煩わせる程でもあるまい。まぁ、敵が真なる魔王に覚醒した者であるならば、父も放ってはおかんだろうが」


 そう応じるヘルメス。

 この中では唯一となった戦場との繋がりがあるヘルメス。

 ヘルメスは目を閉じ意識を集中した。









 上空から目にも止まらぬ速さで地面へと突き刺さった槍により、バランの攻撃は阻まれた。

 状況に追いつけずも慌ててヘルンに駆け寄るミティア。

 皆が上空を見上げる。


「フフッ、フハハハハハッ!」


 と、それを見てバランは高笑いを響かせた。


「ついに! ついに戦場へと出て来たか! 天使共よ!」


 そう歓喜に満ちて言うバラン。

 上空には大きな純白の翼を広げて浮かぶ三人の天使。

 祭服の様な着物を着てそれぞれ得物を手に睥睨する。

 神界からの援軍である。


「て、天使、だと……?」


「あれが、天使様」


 呟くヘルンにミティア。

 何と尊いお姿であるかと。


「大悪魔バラン。400年前の清算の時だ。主に変わって我らがお前を滅ぼしてくれよう」


 長い銀髪の天使はそう上空から言う。

 伝説上のその存在を目の当たりにミティアは混乱で思考が儘ならなくなる。

 ハルは現実離れした光景に不思議な気持ちになりつつも、その三人の天使のステータスを見た。


 名称:パラシエル

 種族名:力天使ヴァーチュース

 レベル:93

 魔力適正:18 魔力総量:1248/1314

 闘気適正:17 闘気総量:2520/2590

 状態:正常


 名称:スイエル

 種族名:力天使ヴァーチュース

 レベル:91

 魔力適正:16 魔力総量:1054/1114

 闘気適正:18 闘気総量:2210/2210

 状態:正常


 名称:アラマエル

 種族名:力天使ヴァーチュース

 レベル:89

 魔力適正:18 魔力総量:1513/1586

 闘気適正:15 闘気総量:890/890

 状態:正常


 強い。

 全員A-相当のレベルとステータスがある。


「待ちわびたぞ羽虫共。貴様らの飼い主は未だ引きこもっているのか? 貴様らが戦場に出ない限り我らの進撃は止まらぬと伝えておけ」


「我等が主の御手を煩わせるまでもありません。あなた程度我等で十分。それから羽虫と言うのはそっくりお返しします」


「ふん。必死に用意した最高戦力が何を言う」


「精々そう勘違いしてればいい」


 そうやり取りをするパラシエルとバラン。

 一触即発の雰囲気を醸し出す。


「スイエルはあの魔女の元へ。奴は野放しにできん」


「はっ」


 パラシエルの指示で先ほどルテンと別れた方向へと向かうスイエル。


「アドラーよ。来い」


「ここに」


 と、バランの呼びかけに応じて突如現れた悪鬼。

 まるで出来の悪い道化師の恰好をした男だ。


「貴殿の上司が目標の一つのようだ。行ってやれ」


「御意に」


 空間転移かまた唐突に消えた。

 一瞬過ぎてステータスを見る余裕は無かったが、今のも高位の存在だとは分かる。

 バランは再度浮かび、パラシエルはアラマエルの持っていた槍を受け取る。

 天使が二人と、勇者、聖女、魔術士の五名で戦いは本番を迎える。



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