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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
43/183

43:魔女VS軌跡の騎士



 通常、強さが二段階差もあると、ステータスの差は二倍になると言われる。

 魔術士ハルはその事が正しい事を良く理解している。

 知恵の女神アテナにより『全知の祝福』を受けたハル。

 その効果は全体意識の門が開き、何か物を見ただけでその情報が得られるという物。

 その物質が何と呼ばれているか、産地はどこか、どういった風な扱いを受けているのか。

 あくまでも人々の知識を覗きみる事ができる。


 そしてこの祝福の真価は別にある。

 それは人を対象として見た時、その者のステータスを見る事ができるのである。

 先ほどの鬼のステータスは以下の通りだ。


 名称:リュウラ

 種族名:ハイ・オーガ

 レベル:61

 魔力適正:8  魔力総量:488/488

 闘気適正:12 闘気総量:969/969

 状態:正常


 ハイ・オーガとして特にパッとする印象は無い。

 レベルに見合ったまずまずのステータスだろう。

 時間が惜しかったのでゲール殿には最低限の事だけ伝えたが、歴戦の戦士である彼なら一の情報から十を得るだろう。

 彼一人に任せても大丈夫な筈だ。


 次に現れたのは悪魔だった。


 名称:アラン

 種族名:上位悪魔

 レベル:92

 魔力適正:20 魔力総量:2324/2561

 闘気適正:9  闘気総量:713/713

 状態:正常


 魔力の量はさすがは悪魔と言った所か。

 だが闘気の量を見るに受肉して精々が50年。

 元々魔力の塊である悪魔は闘気が0で完全にステータスが魔力に偏っている。

 しかし受肉すると闘気も徐々に増え、高い魔力と共にステータスに隙が無くなり、手に負えなくなる。

 目の前の悪魔は高レベルで厄介だが、今殺すべきなのだ。


 どうやらルイト殿に因縁があるようで、悪魔は彼に任せる事となった。

 不安は残るが、彼は悪魔殺しの専門家。それにきっとゲール殿も追いついて来る。

 私たちは彼に任せてこの場から迂回した。


「次から次へと!」


 図り合わせた様に現れる新手に私は呟く。

 次に現れたのは紫色モーブの髪をした魔女だった。

 箒に乗って私たちを眼下に見据える。


「げっ。勇者に聖女じゃない」


「お前は……そうか。やはり紫髪モーブの魔女とはお前の事だったか」


 勇者は冷静に呟いていた。

 聖女は首元のブローチをぎゅっと握る。

 私はその間魔女のステータスを見ていた。


 名称:アルラ

 種族名:人間

 レベル:91

 魔力適正:19 魔力総量:2070/2250

 闘気適正:5  闘気総量:378/378

 状態:正常


「ッ……」


 負けている。

 魔法を扱う者として圧倒的に。


「ここは私が適任……でしょうね」


 軌跡の騎士ルテンが呟く。

 確かに魔術士には騎士を当てるのが定石だ。

 それに対バラン戦で私の力は必須。先ほどの悪魔が出合い頭に放って来た魔法も、私が抵抗レジストしなければ中々に不味い状況だった筈だ。

 残念だがここはルテン殿と別れざるを得ないか。

 私たちはルテン殿を置いてこの場を離れた。









「ふぅ。良かった。私じゃ勇者は手に余るものね」


 そう魔女は呟きながらも警戒は怠らなかった。

 目の前の人物が特徴からして軌跡の騎士である事は分かっている。

 未来視が可能などと言われる『運命さだめの祝福』。

 にわかには信じがたい事だが、そう言われてる以上はそうなのだろう。


「随分と余裕の態度ですね。魔王に与する魔女め」


 ルテンは考える。

 垣間見た未来で心臓を貫いていた赤髪の悪鬼。

 未来視は絶対ではない。未来に抗う行為をすればその分未来は変わる。

 今回はそこまで突拍子も無い行為はしていない。未来を知っていなかろうがこうした筈だ。

 つまり赤髪の悪鬼と相対するのは確実な為、逆説的にこの魔女に負ける事は無い……という事である。


「ふふっ。余裕の態度は一体どちらでしょうね」


「ふっ。言ってくれますね。私には見えていますよ。私の剣があなたの心臓を貫いている所が」


 その言葉に魔女は眉を顰めた。

 今のはルテンのブラフなのだが、軌跡の騎士にそう言われて動揺するなと言う方が酷である。

 魔法使いと騎士という相性もあり、ほぼ互角とも言える二人なのであった。

 そしてルテンの言葉が魔女の行動を慎重にさせ、その差は更に埋まっていく。


「ブラフかしら? いい性格してるわね」


 魔女は相手の立場になって考え、これが軌跡の騎士の常套手段なのだと看破する。

 もっとも、不安が消えた訳ではない。

 相手の騎士が余裕の態度である事は変らないのだ。それともそれもこちらの不安を誘うための技術なのか。


(また貧乏くじ引いちゃったわね)

 

 乗せられるようで癪だけど、ここは慎重に行くべきか。

 魔女は高度を約15メートルに上げる。相手を舐めて痛い目を見た記憶も真新しい。

 かと言ってこれ以上高度を上げると魔法が当たらなくなるだろう。

 この塩梅が重要なのだ。


 その上で魔女は雷属性の魔法を無詠唱で行う。

 魔女は前回の戦闘での経験を活かし、スピード重視の魔法の練習に勤しんでいた。

 雷属性は魔女が現状で行える最速の魔法だ。しかも無詠唱で極限まで自然に予備動作も無く行使された魔法。

 最早回避は不可能の筈だった。


 一線一光が轟く。

 しかし騎士はそれを避けてしまった。

 早速奥の手であり、最善手とも呼べるそれが不発に終わって魔女は動揺を隠す気も無く親指の爪を噛んだ。


(魔力の動きを読んだ……若しくはこれが『運命さだめの祝福』の力か)


 騎士ルテンは祝福が無ければ勝負は決していたなと考える。

 『運命さだめの祝福』の未来視には二種類ある。タイミングは分からないが情景がハッキリとしている物と、もう一つは直近で起こる感覚的な物。

 これは避けた方がいいとか、相手が何かしてきそうだとか、何となく分かるのである。

 超感覚とも呼べる、『何故分かったのか』と訊かれても、『何となく』と答える他ない力。

 今のもそう言った感覚を覚えて反射的に避けたが、本来は回避不可能に近い攻撃だろう。


 と、またも独特の感覚を覚えてルテンは走りぬける。

 適格な位置に轟音と共に落ちる雷。

 それをルテンは思考をなるべく働かせず、覚える感覚に任せて避け続けた。


(さて、避けてばかりでは切りが無いですからね)


 ここは報告書の“銀月の騎士”を尊敬し、投石の牽制でもしてみるか。

 ルテンは瓦礫の一つを取って魔女へと投げつけた。


(ま、そうなるよな)


 魔女は余裕の表情で結界にて投石を防いでいた。

 彼の“銀月の騎士”殿とまともにやりあったのなら、自分では太刀打ちできない。

 魔女の高度にも追いつけず、攻撃手段も無い。

 であれば自分にできる事はなるべく戦闘を長引かせて時間を稼ぐと共に、魔女を消耗させる事か。


 対して魔女は余裕の気持ちだった。

 相手は祝福を受けた騎士とは言え、所詮は若造。恐るるに足らず。

 攻撃は持ち前の祝福でか避けられてしまったが、未来視で分かったとしても物理的に避け様がないのなら当たる筈。

 であれば、すべきは範囲攻撃。


「『ファイア・ストーム』!」


 魔女は荒れ狂う炎の海を顕現させる上位の魔法を範囲重視で二重に行使する。

 ルテンはどこまで続くかも分からない視界を埋め尽くす炎の中を駆け出す。


「『ファイア・ストーム』!」


 その方向に合わせる様に魔女は更なる魔法を使って追い込む。

 ルテンは魔女に良いように追い込まれている状況はある意味当然だと割り切っている。

 これがレベル差と言うやつだ。

 魔女とは支援バフ効果や相性、特殊能力では差が埋まらない程自力が違う。


(ここで死ぬ訳にはいかぬしどうにか打開するのだろうが、まったく思いつかんな)


 熱気に息も儘ならない中、ルテンは考える。

 そして魔女は熱気に高度を上げながら、更なる追い込みをかけんと魔力を集中させる。

 だがその時ふっと自身を支える力が失われ、魔女は重力に従い自由落下を始めた。


(え? え、え。え? ちょ!)


 この感覚には見覚えがある。特定範囲での浮遊魔法を禁ずるアンチ・フロート・フィールドだ。

 炎の暴れる地面に激突する寸前、魔女は冷静に魔力を集中させてそれを発動させる。


「『テレポート』!」


 が、不発。


「ぐぅ!」


 地面に激突して魔女は喘ぐ。

 間違いない。アンチ・テレポート・フィールドだ。

 そしてこの魔法を使う者は一人しか知らない。

 魔女は炎を抵抗レジストをしながらふらふらと立ち上がる。


 居るんだろう。あの時の魔法使いが。

 約十年ぶりの再戦。

 あの時引き分けは自分の甘さが原因だった。不意打ち重視だったとは言え、魔法を二重で放つくらいはできた筈だ。

 勇者や聖女なんかより私にとってはよっぽど因縁がある相手である。


 さて、まずは厄介な妨害を行うその魔法使いをどうにかしたい所だが……


 魔女は荒れ狂う炎に埋め尽くされた周囲を見る。

 戦いはまだ、始まったばかりである。



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