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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第一章 王国滅亡編
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04:序列七位、“大悪魔”バラン



 あっしは一先ず空間転移で魔王国の首都であるアルブレまで戻り、魔王城を目指した。

 即戦力足り得るゴズはんではあるが、魔王軍の所属で見た時にあっしらの立ち位置は不安定だ。

 私兵扱いとはなるのだろうが、それとは別に住居問題がある。

 アルブレには巨人族ジャイアントなどの大型種に向けた地区もあるが、いずれにせよ相談は必要だ。


 魔王城の中心部を突き進み、上司である姐さんの事務室へと向かう。

 表向き軍とは不干渉にも関わらず、姐さんにも事務室を設けられているのを見るに、魔王国での実力主義が伺える。

 姐さんは強い。人間の使う基準で言う『A−』相当の実力はあるだろう。

 その上大幹部の一人であるアウラ様直属の部下ともなれば、それ相応の待遇にもなるだろう。


 まあ、アウラ様も姐さんも、ほとんど事務室は使っていないのだが。

 実際今も居ないみたいだし。

 あっしは扉の目の前まで来ても気配を感じない事務室を見て思った。

 とはいえ、一応はノックして中も伺ってみる。


 やはり居ない。

 またアウラ様からのお使いに大陸中を奔走しているのだろう。

 魔王城に住まう軍人多しと言えど、これほど事務室を無駄遣いしている人もそう居まい。

 一応は魔王城に私室や事務室を構えるなんて、魔王軍に従事する全魔族の憧れだろうに。


「しっかしどうしたもんかぁ」


 あっしは言いながら城内を歩く。

 あのまま放置して戦いにだけ駆り出すようじゃ、スカーレットの言った拡大広告も否めない。


「ま。面倒なことはやっぱ、マロン様に丸投げ……じゃなく、相談やな」


 そう結論付けて魔王城のさらに奥へと向かおうとした時。


「おお、これはこれは! 奇遇であるな! 道化のアドラー。アウラの子飼いの者よ」


「う゛ッ」


 あっしはその声を聞いて足を止めた。

 振り返るとそこには身長180は越える偉丈夫が居た。

 鼻から上を覆った黒い仮面。白い手袋をつけ、乱れ一つ無く着こなしたタキシード。濃い藍色の短髪。

 その立ち姿からだけでも気品と隙の無さが窺える。


 相変わらず完璧な気配の消し方でありながら、一度認知すれば気を逸らせぬ程の存在感だ。

 その存在感の大きさはアウラ様にすら匹敵する。

 アウラ様の事を呼び捨てにする事からも分かる通り、この方はアウラ様と同等以上のお方。

 魔王軍幹部の一人、序列七位“大悪魔”バランとはこの方だ。









 あっしが今の姿で顔見知り程度ではあると自信を持って言える人が、魔王軍大幹部の中にもお二方だけ居る。

 一人は当然だがアウラ様。あっしの上司の上司と言える言わば飼い主。

 そしてもう一人が今目の前に居るバラン様だ。


「ふむ。アドラーよ。未だ装備の呪いは解けていない様だな。その手袋が取れた暁には是非とも爪を1枚、いや10枚程欲しいものだ」


「本音への急降下が凄すぎません? もう少し取り繕ってくださいな」


 あっしは何度目かも知れぬこのやりとりに呆れながら返した。

 この方は生物学者としての一面もあり、言うなれば生物マニアだ。

 色々な種族の血が混じっているあっしの事を度々研究対象として見ているのである。


「にしても、前回の会議ではアルラ様がお世話になったみたいですなぁ。あんまりうちの上司をイジめてやらんといてくださいます?」


「ふむ。上司の事が心配である様だな。しかし安心するがよい。今回の戦地は貴殿も貴殿の上司も必然と同じ場所となるだろう」


「同じ? 王国との戦線は広がりに広がってる印象でしたが、そりゃ一体どういう事です?」


「ふむ。それもそうだが、戦争に参加する事自体に抵抗はしないのだな。アウラの子飼いの者である以上、駄々くらはこねると思っておったが。実際あの魔女は参加する気はさらさら無いみたいだぞ」


「ははっ。アウラ様らしいですな。まぁ、うちは上司がうるさいもので」


 アウラ様に拾われた以上、いずれ魔王軍と関わりを持つ事は覚悟していたから、戦いに参加する事自体に抵抗は無かった。

 にしても血気盛んな部下を持つのに自分のペースを崩さないアウラ様はさすがである。


「ふむ。まあ、よい。今回の戦場……と言うより作戦だが、少数精鋭による王都への奇襲へと決まった。我輩や貴殿を含める幾人かで転移を行い、王都を陥す」


「なっ」


 その作戦とも呼べない大雑把な説明は、されど国を一つ陥す事に対して軍の本気が伝わるものだった。

 圧倒的力さえあれば、余計な密偵で人員を割くことも、降伏を予期した軍備の調整も要らない。

 必要最低限の行動で国家という組織を機能しないようにするつもりなのだ。


「ふむ。貴殿の上司から何も聞いておらんか?」


「ええ、まあ」


 姐さん。こんな大事な話は言って欲しかったですわ。


「第一軍団が進軍したとの事でしたが、あれは?」


「無論、揺動だ。まあ、詳しい話は追々と行こうか」


 少数精鋭での王都奇襲か。

 それに選ばれた事は光栄な事だが、個人プレイを貫いてきたアウラ様陣営のあっしらが上手く混ざれるかは少し心配だな。


「して、貴殿がここらを彷徨くとは珍しいな。ここは各要人の事務室くらいしかない故な」


「ああ、少々野暮用でマロン様に……ってそうや!」


「ふむ。どうした? 上司からの無理難題で強力な魔物を仲間にしたは良いものの、行く宛ても無く困って居た所を丁度魔物好きで移住に関しても滞りなく済ませられそうなほど権限も持っている人物を見つけた様な顔をして」

 

「ハハッ、そんな具体的過ぎなぇぇええっ!?」


 内心をそっくり当てられて驚愕する。

 いや、違う。


「バラン様や、これを見越してましたね? 殺生な」


「フハハッ! アスラ王国王都陥落に向けての全権を魔王様より承った我輩ではあるが、さすがにそんな深慮な策謀などしておらぬよ」


 どうだか……

 呆れて思うあっしだった。



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