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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
39/183

39:不凋花



「えーと。スカーレットはんは魔王軍に与する者と言うことでいいんですか?」


「違わい! だ、誰が魔王軍なんかとぅ! この、このぉう……うぅ」


 興奮したせいか息が荒くなるスカーレット。

 背中を摩るアリシア様。


「彼女とは個人的な付き合いさ。魔王軍との関わりもないよ」


「そうですか」


 変わりと答えてくださるアリシア様。

 まるで母親だな。

 と、スカーレットも次第落ち着いて泣きはらした目をあっしに向ける。


「ご、ゴズっちが、死んだそうだな……。くっ、こんな事なら、お前なんかに」


「それは……すみません」


「すみませんで済まされるかぁ!」


「まぁまぁ」


 アリシア様が背中を摩って落ち着かせる。


「彼は戦いに生きる宿命だったんだよ。それは君が日々生み出してる魔物と同じさ。何も彼が無理やり連れてった訳でもなんだろう?」


「わ、分かってるよ……。やってる事は、同じなのは」


 アリシア様に諭され、スカーレットはぽつりぽつりと話し出した。


「で、でも、無理やり召喚して、利用して、死なせちゃったなら……それに怒ったり、悲しんだりするのが私の役目なんだ」


 そう涙以上に憂いの籠った瞳で呟いたスカーレットの姿に、あっしも漸く彼女の事が分かった。

 彼女は優しすぎるのだ。迷宮管理者ダンジョンマスターとして致命的なまでに。


「スカーレットはん……」


「何だよ?」


「あっしはゴズはんを戦場に出した事に後悔はありません。彼は一人の戦士でしたからね。死を嘆き悲しんだのはあっしも同じです。ですが後悔をするのは彼の生き様を否定する事になる。ですからあっしらがせめてできる彼への手向けは……」


 あっしは気づくと滑る様に言葉が出てきた。

 何も先を考えてなく、そこで言葉は区切られた。

 それに話を聞くうち顔を下げたいたスカーレットは再度顔を上げ。


「彼の誇り高き魂の輪廻を……願う事でしょう」


 そう言ったあっしの言葉に、スカーレットの瞳が揺れる。

 アリシア様は瞳を閉じ、黙祷を捧げた。

 仮面越しながら真っ直ぐに瞳を逸らさないあっし。

 次第にスカーレットの瞳は潤み、『うわあぁぁんっ』と声を上げて泣きじゃくった。









「その……すまなかった」


 三人で出た事務室の前でスカーレットは言った。


「いえ、こちらこそ」


 あっしもそれに応じる。

 何も自分の行いを全て正当化するつもりは毛頭ない。人によっては受け入れられない価値観なのは理解している。

 しかし我々にできる事は今更ない。であれば生きし者としてできる事は彼を誇りに思う事だろう。


「すまないね。アドラー君。彼女も割り切れなかっただけなんだ。許してやってくれ」


「いえ、そんなことは……。それに、誰がなんと言おうが。スカーレットはん、貴方は立派です」


 その言葉と視線にスカーレットは視線を下げ、恥ずかし気に頬を掻くと、漸く少し笑った。


「うん。そうだね。であればここはありがとうと言っておこう。改めて私はアリシアだ。あまり権限は……と言かまぁほぼ無いが、顔くらいは……魔王さんにしか効かないけど。とにかく、私にできそうな事なら相談するといい」


「おお、これは心強い相談相手ができましたな」


 差し出された手を取ってあっしとアリシア様は握手を交わす。


「ほら、スカーレットも何か言う事あるんじゃない?」


「ん……迷宮の保護の件は感謝する。口約束とは言え守ってくれた事はな。だから……ありがとう゛!」


 目をぎゅっと閉じて、色々込めたような力強くお礼を言うスカーレット。

 その様にあっしとアリシア様は苦笑いする。


「では、あっしもこの辺で」


「うん。またね」


 あっしはアリシア様へと一礼する。


「おい、アドラー。その趣味の悪い恰好覚えたからな? 何か迷宮にあったらお前に文句言ってやる。精々偶に様子を見に来る事だな。あ、もう魔物はくれてやらんからな?」


「素直じゃないんだからぁ」


 そう最後はアリシア様の嗜める声と、スカーレットの腕を組んだ気の強い態度で見送られた。









 アスラ王都陥落から三か月以上が経った。

 魔王軍は戦線を押し続け、とうとう周囲三か国すべての元国境線へと踏み入った。

 そしてその間に魔王軍は特別奇襲部隊の編制を終え、次の贄となる神聖国の情報の共有、作戦の立案、承認、改善を終え、本作戦とその部隊は最終調整へと入る。


 首都アルブレにある駐屯地にて整列した60名の隊員。

 軍隊から抜擢された者で構成された40名の部隊は中隊や小隊に分かれ、主にグラハス配下の鬼系統の者が部隊長となる。軍隊側の最高指揮官はグラハスの腹心、グランドが務める事となった。

 その他の20名で構成された遊撃部隊。アウラ陣営から2名、グラハス陣営から1名、バラン陣営から4名、軍隊から抜擢された者が12名とバランを加えて20名となる。最高指揮官は当然バランだ。この部隊の総大将でもある。

 幹部側の戦力として期待のされていたグラハス配下は軍隊側に持っていかれてしまい、数の足りなくなった幹部側は軍隊出身の者を補給する事となった。

 元々そうなる事ではあったものの、半数以上がそうなってしまって最早幹部部隊とは呼べない。

 故に軍隊部隊と遊撃部隊と言った仮名がいつしか定着し、今はその名で区別されている。


 40名の軍隊部隊の内、Aランク代1名、Bランク代9名、Cランク代30名。

 20名の遊撃部隊の内、Sランク代1名、Aランク代5名、Bランク代14名。

 最早遊撃部隊だけでアスラ王都陥落作戦の部隊より強いだろう。

 30名のCランク代の者も一人一人が上位の猛者たちだ。そもそもCランク代と言うだけで100人の騎士が居れば1人が達する程度の狭き門。


 魔王国での巨大すぎる軍事力から希少性が薄れているが、人間の国家では凡人が達しうる最高位の強さだ。

 しかし人間は体の衰えが早く、せっかくCランク代に達してもそれをパフォーマンスできる期間は少ない。

 これが人間と魔族の差だ。


 人間でも極々一部、凡人には耐え難い修行の日々と、本人の類まれなる才、そしてある程度の運を兼ね備えた者はBランク代に達しうる。

 そんな事は大概不可能なので、Bランク代の人間は『祝福』のドーピングによりその手助けを受けた者が多いのである。

 いや、実際の所は一割以下なのだろう。しかし『祝福』持ちは成長が早い。故に肉体の衰えが追いつくのがずっと遅く、結果的に比率は多く見えるのである。


(ん? あれってサードマレナとか言う心臓が三つある種族だったか? 珍しい)


 と、部隊員の一人を見て思うアドラ。

 魔族と言えども臓器の数が違う種族は珍しい方である。

 なんだかちょっと気分が上がる。


「我らを穢れた存在だと宣う神聖国への粛清を! それが穢れの証だと言うのなら、奴らの崇拝する聖地を我らの血により染め上げ、忌み地へと変えてくれようではないか! さぁ同志よ怒りに吠えろぉ!」


 グランドの演説に雄叫びで応じる両部隊。

 作戦開始予定は10日以上先だと言うのに既にこの熱気だ。


(やっぱ軍隊出身は熱気が違うなぁ。幹部側は個人主義が多くてこんなノリには成り切れないからな)


 そう周囲で叫ぶ部隊員を見ながら思うアドラ。

 仮面で見えない事を良い事にアドラは適当にこの場をやり過ごしていた。


「うおおおおぉぉぉぉーーーー!」


(って、めっちゃ姐さん叫んでるし……。意外とこういうの好きなのか?)


 隣で盛り上がってるアルラを見て若干引くアドラ。

 そう言えばアウラのお使いで日々を忙しく送り、祭事などを楽しむ余裕がないのだろうと察する。

 イメージが無い以上、もしかしたら経験すらないのかも知れない。


 と、檀上ではグランドに変わってバランが前へと出た。

 まぁ今はいいいかと、アドラは思考を振り払う。


「聞け! 皆の者! 我輩からは多くは語らん。この場では漸く決まったこの魔王軍参謀本部直轄特別奇襲大隊の部隊名、及び今作戦での作戦名を伝えるのみとする」


 そうバランは声を張って部隊を睥睨する。


「部隊名は『不凋花アスポデロス』。アンデットや悪魔には馴染み深い者も居るだろう。冥界に咲く花の名だ。我々は人間にとっての“死”の象徴として、奴らに手向けの花束を贈るとしよう……。そして作戦名は――」


 一拍置き、バランは言った。


「『崩壊コラプス』とする」



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