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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
37/183

37:リュウラ



 アスラ王都陥落の約五年前。

 魔王城内のとある事務室にて、その者、ドランは目の前の上司に報告をするべく参った。

 目の前の上司は魔王軍幹部が一人、鬼武神グラハス……の、腹心であるグランドだった。

 鬼系であるドランはグラハス同様額から角が生えている。


「どうやら北の大森林で主が決まったようです」


「ついにか。百年待ったかいがあったな」


 ドランの言葉に頷くグランド。

 魔王国の北に位置する大森林。独自の生態系が作られ、魔王軍はこの森に長年不干渉だった。

 いずれこの森を統べる程の者が現れるのを待っていたのだ。その後に魔王軍に勧誘、敵対する様なら支配してしまえばいい。

 そしてその時は満ちた。


「奇しくも鬼系の者か……ま、オーガは有力候補の一つだったからな」


「いえ、それが……にわかには信じられませんが、元はゴブリンだったなどという話もありまして」


「何?」


 その話を聞いて怪訝な表情をするグランドだったが、不意に声を出して笑いだす。

 珍しくて面喰うドラン。


「面白い! 私も行くとしよう。森を統べた者へ会いに」









 俺は発展した町を眺めて満足感に浸っていた。

 色々ヤバい時もあったが他種族を吸収し続け、いつしかこの森の半分以上が俺たちの縄張りとなった。

 手先が器用な種族から技術を貰い、力持ちな種族がインフラを整え、長命な種族が蓄えた知識で教養を上げる。

 腹心も増え、俺自身ゴブリンからホブ・ゴブリン、ホブ・ゴブリンからオーガ、オーガからハイ・オーガへと至っていた。

 この森じゃ敵なしだ。一体だけこの森には亜竜が住んでいるので、そいつだけは俺でもノータッチだ。

 そいつは存在だけで森の四分の一が縄張りになっているヤバいやつだが、別に森の覇権争いに興味はないみたいだし、主食もレベル差の感じ取れない動物である熊を主食としてるようで、俺たちへの影響はない。

 触らぬ竜に破滅なしだ。


「リュー様。お目通りを願いたいと申している者たちが」


 と、内政を任せている者がわざわざ知らせに来た。

 霊力の多い他種族を群れに入れた事で元ゴブリンだった者も知性を大幅に上げている。

 見た目も人間に近くなったし、皆んな喋れるようにもなった。

 妖精系の種族から教わったこの世界の共通語の識字率も徐々に上がりつつある。

 俺も戦闘特化のハイ・オーガに至って思考は随分クリアになったし、見た目も壮年の男らしい見た目へとなった。


 で、来客と言うのはどうやら南にあるという話の魔族の国、の将軍の一人が来ているらしかった。

 ついに来たかと言う印象である。知識豊富な精霊や妖精系から色々聞いている。

 いつか目立てばいちゃもん付けに来るかなとは思っていたが、とうとう来たようである。

 ともかく幹部を集めて準備だ。


「すぐに知らせて参ります!」


 と、会話での意思の疎通も可能となり、見た目も随分と可愛いらしくなってしまったポチ子が奔走して集めてくれる。

 正式に名前もポチ子となり、本人の希望で俺専属の秘書という扱いだ。優秀で助かっている。

 ちなみに相変わらずお互い独身だ。いつの間にか立場が大きくなって下手に決めれなくなった俺はともかく、ポチ子は本当に変わり者みたいだ。まぁ、仕事が好きなんだろう。女性の社会進出?ってやつだな。知んけど。


 ともかく来客用の建物へと向かう。

 椅子じゃなく座布団に座るのがここの文化だ。

 俺が上座に座り、左右に幹部が並び座る。そして正面にその者たちは座った。

 ポチ子は全員のお茶を用意したあと俺の側で控える。

 幹部は今までに吸収してきた種族の代表や歴戦の戦士たちである。協力関係にある妖精系もいる。


 使節団とも呼べる相手方は約十人。

 だが一人ひとりから感じる覇気は並みの物はない。

 過半数が俺と同等かそれ以上の力を持っている。特に中央に座るボスらしき者。そいつは次元が違った。直感だ。こいつは勝てない。俺と幹部全員でかかったって勝てないかもしれない。そんな力量の差を肌で感じた。


 その男はグランドと名乗った。魔王軍幹部の一人の腹心だと。

 これで更に上が何人も居るあたり、魔王軍の軍事力はとんでもないみたいだ。

 グランドは俺の町を褒めてくれた。高度な文明社会が作られていると。

 で、早い話は魔王軍の傘下に加わらないか? と。


「もし断れば?」


「敵対するようなら潰すが、別にここで好きに暮らす分には構わんよ。問題はここの土地だ。人間社会でここの土地は魔王国の物になっている。つまり統治権の話し合いに我々は来たのだ。我々の支配と加護を拒むのであれば、我らは相応の態度を取らねばならん。しかし参加に加わる事を了承するのであれば、この土地の平和と繁栄を約束しよう」


 ほぼ脅しともとれる内容ではあったが、あちらの出す条件は悪くないものだった。

 俺はこの町が残るならそれでいい。喧嘩して勝てる相手ではない。

 元々は自分の群れを覇権争いから守る為に大きくした訳だから。いつの間にか覇権自体を取ってしまった訳だが。

 ともかく俺はこの土地と群れが魔王国の一部になる事を了承した。

 ずっと支配する側だったので幹部の中には驚く者も居る。だが俺の決定に文句を言う者は居ない。

 俺の天下もここまでだろう。


「で、話は変わるが、ここには強い魔物が大勢いるな。どうだ? 私の部下になる気はないか?」


 と、話がひと段落ついてグランドは言った。

 これが本題か? そんなの答えは決まってる。


「その話、乗った」


 幹部たちがぎょっと目を剥く。

 これはいつかその日が来るとは思っていたことだ。魔王国がすぐ近くの王国や帝国とどんぱちやっている事は知っている。

 俺の本質は変らない。群れを守る事だ。王国や帝国の争いに巻き込まれる位置にこの森はある。であれば魔王国に協力する事は群れを守る事につながる。


「リュー様! であれば私も付いていきます!」


「俺もだ!」


「もちろん俺も! リュー様が行くならお供するのみ!」


 と、幹部たちが続く。まぁ、こいつらならそう言うだろうとは思った。俺の覇権争いに止めるのではなく、付いてきたやつらなのだから。

 という事で、特例ではあるが直轄の部下が既に居る状態で俺はグランドの部下になる事が決まった。


「うむ。では私直轄の部下となる以上は名をやらんとな」


「ん? リューって名前があるが?」


「ああ、知らんのか。魔王国には配下となる者に自身の名の一部をやる文化がある。私のグランドと言う名も、主であるグラハス様の名を頂いている」


「へぇー」


 まぁ、別に名前に執着ある訳でもないしいいか。

 という事で、俺はグランド様からの名を頂き、今後はそれを名乗っていく事となる。


「では、リュウラなど……どうだ?」


 こうして俺はグラハス様が配下、グランドの腹心、リュウラとして魔王軍に加わった。









「おい野蛮人。お前は目上に対する態度がまるでなってねぇ。今後この組織に居る以上はどうにかしないとな」


「お、おう。そうだな」


 早速新人いびりかと思ったが、彼は真面目で口下手なだけだった。

 名をドライス。俺の同僚にあたる。


「まぁ、組織に入る経験は初めてで大変でしょうが、一緒に頑張りましょう」


 そう言うのは同じく同僚のドラン。

 彼らから俺は慣れない魔王国での生活や魔王軍の規律の事などを学んでいく事となる。

 必然と仲は良くなり、お暇を頂いた際には一緒に俺の統治していた町へ遊びに行く事もあった。


 ドライスとドラン。彼らの名は忘れない。

 彼らと共にアスラ王都陥落作戦に加わった事はまた別の話だ。



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