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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
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36:魔物に転生



 朧げに覚えているのは事故で死んだ事だ。

 死を実感する間も無く眠りに付いたような感覚を覚え、二度寝三度寝と繰り返していた様な時間があった。

 そして俺は生まれた。魔物として。

 今思えば前世の記憶があまり無いのは幸運だったろう。恐らく俺の前世は人間で、なんなら魔物のような生き物が居ない世界だったように思う。

 もし記憶があったなら、受け入れ難かった筈だ。


 自身が最下級の魔物とされるゴブリンに生まれた事など。


 周囲には醜悪な見た目をした小さな鬼が居る。緑色の肌、汚らしい恰好、手入れなどされた事の無いだろう歯。身長は前世の尺度で言えば一メートルくらい。

 洞窟の中で暮らす数十のゴブリンたち。その中に俺も居た。

 ともかくこちらで新しい生を受けた事により、驚いたり戸惑ったりする間もなくこの集団の中で馴染んでしまった。

 それもそうだろう。赤子の時は目も殆ど見えなかったが、甲斐甲斐しく世話をされている事くらいは分かったし、その時から何となく記憶にあった生活と変わってしまったのは理解していた。


 前世の事で覚えている事など殆どないが、リュウマという名前であった事は憶えていた。

 なので名を改めこちらではリューを名乗る事とした。

 もっとも、ゴブリンたちに名前を呼び合う文化どころか知性があるかも微妙で、そもそも発声器官がそれ程発達していない様だった。

 みんな『グギャ』とか『グゲッ』とかって言い合っていて、独自言語があるのかと理解に勤めようとした時もあったが、まぁ無理だった。


 その様を見て思った訳だが、俺は他のゴブリンの仲間たちよりずっと知性が高いのは確実と言えた。

 前世が高度な文明社会を持つ人間であるからだろう。

 転生した以上は大脳もこいつらと同じになり、知性も低くなる筈なのだが、そもそも物質を介さずに転生をして前世の記憶がある以上、もしかしたら生物には脳とは別で記憶を保つ何かがあるのかも知れない。

 それが所謂魂ってやつかもしれないな。

 こうやって前世の記憶がある以上はスピリチュアルな事も受け入れられるというもの。


 とまあ、新たな生活が始まった訳だが、当然前世の記憶を活かさずには居られまい。

 先ず気になったのは衛生面だ。俺の元居た世界では医療関係はそれなりに発展していた。

 いや、知らないだけで多分めっちゃ凄いんだと思う。

 ともかく俺は群れの中で徐々に衛生面での改革を行っていった。


「ぐぎゃー」


 そう言って川に手を入れ、俺の手洗いをマネする子供の女ゴブリン。

 最初に教えたのは親ゴブリン同士の付き合いで何かと一緒に居るゴブリンだった。

 生まれた時期も俺の少し後と親近感も沸く。

 前世の感覚が抜け切れていない以上、ちょっとペット感覚だったりもする。故に勝手に俺は頭の中でポチ子と呼んでいた。


 何かを流行らすならきっと子供と女がいい。

 特に文化は女が受け継いでいくものだ。男所帯じゃ合理化が進んで文化は廃れていく。

 根気よく周囲に教え続けた事もあり、徐々に衛生面は改善していった。


 その結果は乳児死亡率の大幅低下、病気や傷口からの感染症による衰弱死を防ぎ、俺の居たゴブリンの群れは瞬く間に大きくなった。

 ゴブリンは一人の女ゴブリンから十人くらい産む。そこから成人というか、成ゴブリンになるのは三人が精々だったが、今じゃ五人は固い。

 平均寿命も倍となり、俺の体が成長しきる頃には群れの数は50を超えていた。

 ここらのゴブリンの群れでは一大派閥だ。よその群れを吸収したりもして更にその数は増えていく。


 ちなみに成長しきる頃とは季節が巡るのを見て計算したところ大体七年くらいだ。

 暦が元居た世界と同じかは不明だが、月や太陽があるなら大体同じだろう。

 特に月ってかなり特殊な天体らしいし。

 まぁ、いい。そこらへんの世界の謎を解き明かすのは人間として転生したり、こっちに迷い込んできたもっと主人公っぽい人がやればいい。

 俺たちゴブリンは日々生きるのに必死なんだ。


 俺は気づくと群れの中でもそれなりの立場になり、内政面ではトップのゴブリンとなった。

 それなりに小奇麗にはなった女ゴブリンからモテはしたが、如何せん前世の感覚が抜けきれずやる気が起きない。

 体がゴブリンだからか興奮する時もあったが、やっぱ気持ちが乗り切らない。

 本来子孫を残す事に躍起になるべきなのだろうが、俺は現状には満足していなかった。


「ぐぎゃー! ぐぎゃー!」


 幾人かの女ゴブリンが俺の周りに居るのを見て、ポチ子が憤っていた。

 そうだなポチ子、俺たちは誇り高き独り身だ。

 前世の記憶がある俺はともかく、何故かポチ子もその身を誰にも許していなかった。

 ポチ子もいい年だし、ゴブリンの中じゃ人気もあるのに。この子は相当変わり者らしい。

 ま、同じ独身がいればこちらとしても安心すると言うもの。


 それなりの年月を過ごして分かった事だが、ここは大きな森の中で、その森の中でも派閥争いが激しいようだった。

 もはや同じゴブリンの群れ程度相手ではないが、自力が違う他種族が大勢いるのだ。

 ともかく群れを守る為には自衛をしなければならない。

 何も七年の間に衛生面だけを改善していた訳では無い。ゴブリンたちの武器の改善にも狩の合間に勤めていた。

 ゴブリンの武器は木の棒とも呼べぬ太めの枝に尖った石を打っ刺してどうにか武器っぽくしたものや、何なら尖った石そのもので狩をしていた。

 群れの中で一つだけ錆びた短剣があったが、それは偉い奴か強い奴の物だった。

 中には紐っぽい何かで石をくくりつけたまぁまぁなできの物も何個かあった。恐らくそれなりに知恵のある奴が居たんだろう。

 後々になって分かったが、それは動物の腱だった。

 それに気づいてからは武器を量産していった。

 植物の茎も挑戦はしたが、なかなか難しかった。


 ともかく気づくと群れの武器は俺の作ったものに全て置き換わり、俺は狩を免除され、更なる文化水準の向上へと勤しんでいった。

 どん底から這い上がるこの生活は結構楽しかった。

 ある程度の暇ができた俺は周囲のゴブリンの群れに呼びかけ、吸収、やむを得ない場合は抗争する事もあったが、俺たちに負けは無い。

 群れの数は百を超え、俺はゴブリンの上位種であるホブ・ゴブリンへと至り、群れの長へとなった。

 身長は150を超える。

 一つだけの錆びた短剣も俺の物となった。


 これは後に知る事となるのだが、魔物と言うのは個々の進化とは別で群れの進化と言うものがあるらしく、結束の強い群れでは全体意識の門が開き、霊力の貸し借りをするのだ。

 俺は群れ全体から代表として少しずつの霊力を集め、進化をしたのである。

 この時は長年の努力の成果と思っていたが、本来個々の進化はそうある物ではないらしい。

 まぁ、群れを大きくしたのは俺の貢献あっての事なので、ある意味努力の結果だ。


 他にも俺の周囲の腹心と呼べる者も体が大きくなったように思う。

 俺のホブ・ゴブリンとは格が違うが、ちょっと人間っぽくなった。


「うがぁ~、ぎぃ~」


 ポチ子も発達した発声器官を試している。

 良かったな大きくなって。ますますポチ子はモテる様になった筈だが、むしろ最近は言い寄る男ゴブリンが減った気がする。

 なぜだろう? 俺と一緒に居るから独り身が板についたのかもしれない。


 まぁいい。同族の地盤を固めるのは一先ず十分だろう。

 ここからは第二フェーズに移る。

 つまりは他種族の攻略だ。

 目下の目標は近隣でも幾度か見かけた事のある豚頭の魔物。前世の記憶でもなんとなく存在と名前を知っている。

 こそこそと隠れて過ごし、仲間が連れられたりしても音を殺して見捨てる他なかった苦渋を嘗めた日々。

 今こそ反撃の時来たれり。

 待っていろ、オーク共。



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