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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
35/183

35:スカーレット



 魔王軍幹部の一人。アリシア。

 魔王とは友達付き合い程度の関係であり、今回も頼み事を聞く程度の気軽さで北西部戦域での手助けをしていた。

 かと言ってアリシアは自ら動く気は無かった。自身とその子供たちだけで王国を滅亡させる事はできるが、あまり目立ちたくはないのだ。

 魔王に協力している理由はあくまでも自身と子供たちの生活の保障。はっきり言ってそれなりに良い暮らしができる。

 アリシアに大した野望は無い。なんなら人間の町で冒険者として暮らすのもありだと考えている。だが自分だけならともかく、子供たちの中には人間の姿の維持が難しい者も居る。結局暮らしやすさで魔王国を選んでいた。


 アリシアたちが少女の管理する迷宮へと訪れてから早半年。

 魔王軍は王国軍の要塞を駐屯地とし、戦線は進んでいた。

 迷宮の利用価値は無いと判断されるも、アリシアたち魔王軍とは独立した勢力からすると中々立地の良い休憩所へとなっていた。


「ってぅおい! あんたらいつまで居るんじゃい!」


「まぁまぁ、いいじゃない。減るもんじゃないんだし、人も来ないんだしさぁ」


 憤る迷宮管理者の少女をアリシアが宥める。


「そうカリカリすんなよスカーレット。つか他の迷宮持てばよくね? どうせここ立地悪いだろ」


「簡単に言うなよなぁ。つか別にその名前認めてないからな!」


 いつの間にか張られた蜘蛛の巣のベットで寝るアシッアに応じる少女。

 今この場に居るのはアリシアとアシッアの二人で少女にとっては一番嫌な組み合わせだった。


「ていうかアーリさんは?」


「ん? アーリなら駐屯地に居るけど。あの子は優秀だから事務系のやり取りを任せてるんだ」


「はぁ。あの人が一番まともなのに」


「そろそろ戻るんじゃないかな? 足音も聞こえるし」


 そんなやり取りをしていた頃、青髪の少女のアーリ、白髪の美女のシア、そして末妹であるアリアがやって来た。


「ママー!」


 そう言ってアリシアに飛びつくアリア。

 薄いピンクの金髪。見た目は人間で言う十歳にも満たない少女。

 知性に芽生えたアリシアの子では一番若い子である。


「お帰りアリア」


「ただいまー!」


 至近距離で笑顔を向けるアリア。

 これでも王国軍を蹴散らしてきた後である。


「スカーレットさんも、ただいま!」


「お帰り……って、違わい! ここは家じゃないわい!」


 危うく認めそうになってしまう少女。


「おいこら、アリアに当たるなよ」


「いや、元はと言えばお前なんだが」


 アシッアに呆れた目を向ける少女。


「す、すみません。毎度お邪魔していまって」


「アーリさん。貴方からもなんか言ってください」


「そうしてるんですけど……き、聞くような人達じゃないので」


 この中じゃ唯一常識的なアーリに同情の目を向ける。

 勝手をする母と兄妹たちのしわ寄せが来てそうである。

 最後にマイペースな速さで歩いてきた白髪の美女。このシアと言う子が長女であり、この中でアリシアに次ぐ実力者であるらしい。

 滅多にしゃべらず少女は苦手にしていた。半年も経てば慣れてしまったが、この慣れていまった状況が非常にマズいと思う少女。

 このままでは迷宮を乗っ取られてしまう。

 もうほぼそんな状況なのだが。


「ありゃありゃ、また戦線の後退があったのかぁ。ここが戦線になる半年前に逆戻りしそうだねぇ」


 と、アーリから手渡された資料を読むアリシア。


「はい。先の騎士によって壊滅的被害が出ているようで」


「はぁ。またヘーベルって騎士かぁ。祝福も持たない人間なのに、彼はとんでもないねぇ」


「目が効く者によると、既にヘーベルのレベルは60を超えているそうです」


「うへぇ。要マークだね」


 そうやり取りをする二人。


「なにがレベル60よ。あんたならイチコロじゃない」


「まぁねぇ。ただ私は出たくないんだよ。顔が割れて過ごしたくはないんだ。人間の事は嫌いって訳じゃないからねぇ」


「ふーん。変なの」


 アリシアにとってBランク程度の人間を殺すことなど造作も無い事だが、人間社会の結束が時にどれだけ大きいのかも理解していた。


「魔王さんも本当は人間を滅ぼそうなんて気持ちで戦争してる訳ではないからねぇ。このまま向こうに動きが無いようなら致し方なく王国は滅ぼす事になるだろうけど……。私はその役は御免だね」


「え? どういう事? まるでわざと拮抗状態にしてるみたいな言い方じゃん」


「そりゃ魔王軍の戦力があれば王国なんて本当はあっという間に滅びるよ」


「じゃあ何で? そもそも戦争を起こした理由は?」


「……色々あるんだよ」


 その返答で満足する訳が無く、少女は視線を向け続けた。


「さ。目下の問題は騎士ヘーベルだ。こういった大粒を殺す事こそが我々の存在意義と言える」


 と、話を流したアリシア。

 思うところありつつも自身とは何ら関係の無い話なので気にしない事にした。









 その後アリシアの子達を総動員し、王国軍に仕掛ける事となった。

 Dランクの蜘蛛約20匹。

 Eランクの蜘蛛約200匹。

 Fランクの蜘蛛約2000匹。

 これら意思の待たぬ蜘蛛はアリシアの指示に従い動く事となる。

 強さの基準としては一兵卒でEランクの強さがあると言った具合だ。

 私兵としては十分すぎる戦力である。

 アリシアが意思を持った子らの経験値を刈り取る収穫行為を行っていればさらに倍の戦力にはなっていた。

 もっとも、産卵はそれだけで体力を消耗するのでアリシアがしたかは別だが。


 収穫行為をしていないからと言って、悪い事ばかりではない。

 当然、成長をした粒ぞろいの子らが居る事にもなる。

 四人の意思を持つ子らで二番目に生まれた子、アシッア。強さはC+。

 三番目にして次女、アーリ。強さはB。

 末妹のアリア。強さはB-。ただし図体がデカいので対人戦は苦手。

 そして長女のシア。強さはA-。


 魔王軍に加わり北西部戦域の王国軍を潰す。

 四人の姉弟はヘーベルを討つ為に動く。

 シアがヘーベルを相手どり、アーリはできればそのサポートを。でなくても周囲の大粒を殺す。

 アシッアも同じく周囲の大粒を殺す。特にアリアの討とうとする粒戦力をだ。

 アリアは図体を活かして暴れていれば周りが勝手に死ぬ。

 四人はヘーベルの居る戦域で暴れる事となる。


 結果王国軍は退き、また戦線は魔王軍が押し上げる事となる。

 王国軍は痛手を負い、戦力の立て直しに時間が割かれる事となった。









 いつもの迷宮にてアリシアは一人奥へと進んでいた。

 いずれいつもの談笑をしていた最奥へと着いた。


「ってぅおい! また戻って来んのかよ! もう戦線もずっと奥でここに用ないだろう!?」


 そういつもの元気さで文句を言う管理者の少女。


「って、今日は一人か。珍しいな?」


「死んだよ」


「え?」


「全員死んだ」


 その言葉を少女は理解できない。


「し、死んだって……」


「四人ともヘーベルに討たれたんだ。まさかレベル60そこらの人間にやられるとは思わなかった。普通ならありえない。普通じゃなかったんだろうけど。それでもとにかく四人は討たれた。同格やそれ以上が居たのに。同時に。もはやヘーベルのレベルは軽く70を超えるだろう」


「そんな事聞いてんじゃないっ! な、なんで……ちゃんと見とけよ! お前が親だろうが! つか、つーか」


 少女は涙を拭い、続く言葉を引き込めた。

 迷宮を管理する自身も同じ事をしてる様なものなのだから。


「ああ、私の責任だ。もう辞めるよ。戦争ごっこは。私には向いてなかったし、そんな責任感もなかったんだ」


 そう淡々と話すアリシア。

 そして視線を下げる。


「その……色々と、すまなかった」


 漸くまともに聞いた謝罪。

 こんな形で聞きたくはなかった。


(クソッ……! なんで私がこんなに悔しいんだ!)


 拳を握る少女。


「もう……来ないよ」


「ぁ、ぇ」


 少女が何か応じる間も無く、少女がずっと望んでいたようにアリシアはこの迷宮に背を向けた。

 数歩進んで、一度振り返った。


「やっぱり……たまに来るよ。じゃあ、また……スカーレット」


「別に、その名前……」


 俯いて言葉を止める少女にアリシアは前を向いて歩きだした。

 そのまま姿が消える程歩を進める。

 少女は鼻から大きく息を吸った。


「魔王軍なんか、大嫌いだよー! お前、あ、アリシアみたいなへまは私、絶対にしないからー! それでいて、もっと迷宮も大きくするんだ! 強い子達を揃えるんだ! 人間にも魔王軍にも負けない迷宮を作るんだーー!」


 その大声が迷宮中に響き渡った。

 だからその後のすすり泣く声は小さく聞こえて、きっと届かない筈なのだ。



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