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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
30/183

30:魔女VS勇者



 当時のアルラのレベルは79。

 人間として素晴らしい高めへと至っている。これもアウラの霊薬のお陰の一端である。

 そもそも魔法使いと呼ばれる職は肉体の衰えに左右されにくく、現役の期間が戦士職よりも長いのは言うまでもない。

 魔法使いはまともな戦力として成長するまで最低でも五年は掛かると言われる。

 その間に魔物との直接戦闘を経てレベルを上げ続ける戦士職とは差が開き続ける一方だ。

 だが生き物と言うのは成長ある限り衰えが付き物である。戦士職のレベルアップによるパフォーマンスに衰えがギリギリ追いつく頃、つまりは戦士職としての最高の肉体状態は30~35歳の間と言われる。

 無論、レベルによってはそれ以降にもそれ以前にもなりうる。

 だが生物に寿命が付き物である以上限界は必ず来るのだ。

 そしてその限界は魔法使いの方がずっと後に来る。故に長期間に渡って見た時、最終的なレベルが高いのは魔法使いである事がしばしばある。

 グラフで見た時にどこかで魔法使いが戦士職に追いつくのである。

 最も、戦士職の方が母数が圧倒的に多いので、結局は戦士職の方が高レベルが多い。

 だが高レベルを条件に人を集めた時、魔法使いの方が平均年齢がずっと上なのである。


 つまりは何が言いたいかと言うと、魔法使いの強さは年の功に比例するという事である。

 そしてその魔女、アルラの年齢は――


「ん、んッ!」


 私はこちらを睨む若き勇者を眼下に、一つ咳払いをした。

 今一度私のレベルの事や世論的にもどれだけ優位性を保っているかの思考を繰り広げたのだが、大丈夫。考えすぎる必要はない。

 私のレベルから換算した時の強さは『B+』。

 本来レベル50以上、Bランク帯に至る者など大国でも数年に一度の英雄扱いだ。

 子供など相手になろう筈もない。


「お前……そうか! 魔王軍だな!」


「好きに捉えたら?」


「何が目的だ! 言え!」


「目的ねぇ……。ああ、その子の付けてるブローチに用があるのよね。少し貸してくれる?」


「魔王軍の言いなりになどなれるか!」


「あっそ。別その子に直接訊くからいいわよ」


 私は高度を下げていく。直線距離10メートルと言ったところか。

 聖女の少女は聖女らしく魔法使いと思われる女に治癒魔法を施していた。

 女の火傷が癒えていく。

 10歳程度の小娘でありながらあれ程の治癒を行えるとはさすがは『聖杯の加護』を受けた聖女である。

 だが一命を取り留めたものの、魔法使いの女は戦闘不能とみていいだろう。


「ねぇ。聖女ちゃん。ミティアとか言ったっけ? そのブローチがね、私興味があるのよ。だから貸してくれる?」


「だ、ダメです! このブローチは、とっても大切な物なのです! そ、それこそ、私の命なんかより、ずっと重宝されてきた物なのです!」


 聖女はそう一生懸命に言っていた。


「素直に渡せばいいものを……。あなただって借りてる身なんだから別にいいじゃない」


「おい! 魔女! 何を好き勝手言ってるんだ! お前は魔王軍! 俺は勇者! ならば戦うのみ! 尋常に勝負しろ!」


 と、まったくこちらに気負う事無くそう叫ぶ勇者。


「あなたねぇ……勇ましいのはいいけど、もうちょっと状況ってのを見たらどう? あなた達に勝ち目はないのよ。だからここはなるべく相手を刺激しないようにすべきなの。分からない? 分かったならそのブローチを早くちょうだい」


 何か言い返そうとした勇者だったが、聖女に腕を掴まれて止められる。


「や、やっぱり、ここは相手の言う通りにしましょう」


「何を言ってるんだ! 命より大切な物なんだろ?」


「む、無駄死にするようでは意味がありません」


 そう聖女は説得にかかっていた。


「ふふふっ。聖女ちゃんの方は賢明なようね」


「……ダメだ」


「ん?」


 俯いていた勇者が不意に顔を上げる。


「可能性を棄てていては、人類など救えない! お前は俺が討つ! そして魔王討伐への足掛かりとする!」


 青い刀身の剣を引き抜いてそれを向けると言った。

 片手両刃の剣。子供が持つには大きく、腰の鞘も地面に付きそう程だ。


「本人がいいって言ってるのに……。言ってる事はかっこいいけど、ブローチと自分の命も天秤にかけられない訳?」


「勝てば何の問題も無い」


「……蛮勇ね」


 据わった目を見て戦闘は避けられないと察する。


「その威勢も、どこまで続くかしらね!」









「ッ!」


 手始めと放たれた直径50センチ程の火の球に、ヘルンは走りぬけてそれを避けた。

 着弾した先には大きな火柱が立つ。魔法によって作られた太く大きな火柱だ。

 あれに当たろうものなら一溜まりもない。

 続けざまに来る火柱を作る火の球と、切り裂く様な風圧の攻撃、頭くらいある岩石が着弾し、鋭い逆氷柱を作る氷結の魔法、予備動作を見なければ回避不能な落雷まで。絶えず降り注ぐ様な強力な魔法の群れが襲う。


「あっはは! ほらほら、防戦一方じゃない。そこからどうしてくれるのかしら?」


 その魔法を放つ本人はこれ程の事をして無理をした様子は無い。

 明らかに魔法を放つ頻度が速く、二重で魔法を使っているのが分かる。いや、空間魔法も居れたら三重か。

 行使する魔法はどれも中級魔法。一つ一つが当たってしまえば即刻行動不能に陥るだろう威力だ。

 それも詠唱一つなく行っている。

 魔法に詳しい訳ではないヘルンだったが相手がとんでもない事をしてのけている事は分かった。


「クソッ!」


「うっふふ。焦ってるわねぇ~。そこからじゃどうにもなんないもんねぇ~。降参しとく? ねぇ、『参った』しとく?」


「うるせぇ!」


 楽しそうに魔法を放ち続ける魔女に悪態をつくヘルン。


(でも魔女の言う通りだ……。こうなったらあれしかねぇ!)


 走りながら邪魔な鞘を前方に放り投げ、剣の刀身を額に近づけ祈りを捧げるヘルン。


「聖剣カリバンよ……応えてくれ」


 その祈りに応える様にその刀身は輝きだす。


「なんか嫌な予感」


 見ながらこれは警戒しなければと思う魔女。

 そしてそれは眩い光と共に放たれる。


「『プレア・スラッシュ』!」


「ッ!」


 目を閉じつつも反射的に斜めに高度を下げた魔女。

 その声高らかな技名と眩い光、そして轟音にも関わらず衝撃が来ない事から避けられたのだと確信した。

 実際避けられていた。

 が。


「うぎゃ!」


 直後に顔面へと見舞われた衝撃。

 完全な油断もあって箒から転げ落ちた。

 箒を触媒とする弊害である。箒に乗る感覚の安心感を得る代わりに、それを失うと途端魔法が安定しなくなる。

 魔女は箒を手放し、地面へと激突した。


「ぐぅ~、ったい~!」


 一緒に鞘が落ちた事からこれを打つけられたのだと察する。

 あの明らかな大技すら陽動とするとは。対人戦闘の経験の差がここで出たと言える。相手は子供とは言え、すでに訓練を積んでいるのだ。

 すぐさま立ち上がり箒の元へ向かう魔女。

 その動きを読んで向かうヘルン。


「くそぅ!」


 だが間に合わずヘルンは悪態つく。魔女は箒を取るとすぐさま浮かび上がって空中で腰掛けた。


(うへへっ! あっぶねぇ~! って、なんかまたヤバそうなんだけど!)


「『プレア・スラッシュ』!」


 咄嗟に防御結界を二重で展開した魔女。

 先ほどよりは随分と勢いが落ちた様に感じる光量と音量の斬撃に、何とか二つの結界で耐えきる事ができた。


「えっへへ! バーカ、バーカ! 弱っちくて届きませ~ん!」


 余裕ができた途端に高所から揶揄う魔女。

 ヘルンは息を切らしてその場で膝を突いた。

 心臓が全力で稼働をしているのが分かる。


「あら? 技の反動かしら? そりゃそうよねぇ。レベルに見合った攻撃じゃないもの。じゃ、遠慮なく~」


 魔女は火の球を勇者へと見舞う。

 それを体に鞭打つ思いで避ける勇者。


(やはりトロい。次で当たる)


 そう確信する魔女。間入れず更なる魔法を放つ。

 と、予想外な事にそれも勇者は避けた。


「何? 動きが速く……ああ、聖女の支援魔法バフね。この距離で支援魔法とはさすが聖女と言ったところか」


 勇者は息を切らした状態で魔女を見上げる。


「もうヘトヘトじゃない。動きやすくなったところで、疲れが取れた訳ではないでしょう? もう降参なさいな」


「……次こそ、届く」


 ヘルンは呼吸の合間に言ってみせた。


「次なんかないわよ。……ま、ちょっと舐めてたのは認めるわ」


 そう言って魔女は高度を上げる。

 そして。


「だからね、とっておきの魔法見せてあげる」


 そう楽しそうに笑っていた。

 


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