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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第一章 王国滅亡編
3/183

03:ダンジョンマスター



 地響きを起こしてそのボスは倒れた。


「ふぅ……この装備さえ無ければもうちょい楽やったんやが」


 そうあっしは呟いた。

 目の前には倒れ伏す迷宮のボス。

 死んではいない。ダーク・ウェイトと言う魔法で動きを封じている。

 触れる度に体が重くなり、ついには動けなくなる。接近戦が得意なあっしにもってこいの魔法だった。


 闇属性の魔法ゆえ、時間経過で解く以外には聖属性により浄化するか、同じく闇属性で同調するかしか無い。

 状態異常とは少し違うため、各種耐性のありそうなボスでも有効であった。

 種族柄闇属性に縁がありそうだが、同調を行える程魔法技術に長けてはなさそうだ。


 とは言え、もって五分か。

 一応殆どの魔力を使ったのだが、この魔法は燃費が悪い。

 さらに相手は巨大な体である為相性も悪い。


「さてと、さっさと管理室を探すか」









 止めを刺してないのは無論、仲間にする為だ。

 だが今は迷宮との繋がりがあり、本来の彼とは言えない。

 その繋がりを絶ち、漸く仲間にする為の勧誘ができるのだ。


「ここら辺……かな?」


 言って殴った壁が崩壊し、新たな空間が顕になった。

 半径五メートル程の空間。その中央に鎮座する白い水晶の様な六角柱が幾つも伸びた物体。

 高さと直径は一メートル程。

 これがこの迷宮の本体である。


 これをぶっ壊せばこの迷宮を支える力は無くなり、物理的に無理な構造だった場合は当然崩れる事となる。

 そして迷宮に属して居た魔物達は繋がりが断ち切れ、自由な、野良の魔物へとなる。

 とは言え、地層の一部になるのが嫌だと言う理由以外にも、特別ぶっ壊す理由も無い。

 この本体に接触し、ボスとの繋がりだけ断ち切ればいい。


「精神干渉は、一応悪魔の十八番なんでなぁ」


 そう呟きながら、管理室へと踏み入った。


「ん? 盛大にファンファーレですか? にしても地味な演」


 あっしは言いかけた所で、この耳に響く音と地面の揺れが、背後からの足音であると気づき振り返った。


『グオォォ──!』


「なっ!」


 ボスがこちらへと雄叫びを上げながら向かっていた。

 まさか、もう同調したのか!

 ボスはこの数分間で新たな学びを得たらしい。

 そんな事は今は考えても仕方ない。

 一瞬逃げる事も考えたが、出口は真逆。

 水晶に触れれば一瞬で繋がりが断ち切れると言う訳でも無い。

 だが今はそれしか無いだろう。


「クソッ! 間に合え……!」


 あっしは水晶へと手袋越しに触れると、意識を集中させ──


『待て』


 その時少女の声が聞こえた。

 まるで気配を察知できていなかったあっしは慌てて奥へと飛び、身構えた。

 気づくと、いやたった今急に減速した様にボスもその場に立ち止まった。

 穴が開いた壁の向こうに足だけ見える。

 あっしは辺りを見渡すが人影は無い。


「いや、そうか。まさか」


 あっしは恐る恐る水晶へと触れた。


『そうだ。お前に話しかけている』


 聞こえたのでは無い。直接頭に響く様な声だ。

 そうだ。こいつは。


『私の可愛い迷宮ダンジョンを乗っ取りにでも来たのか? クソ野郎』


 ダンジョンマスターだ。









 迷宮はそれ自体が生き物だ。

 そしてより霊力を効率的に取得する為に、迷宮の管理を他の知性ある生き物に任せる事がある。

 それがボスとは別のダンジョンマスターだ。

 まぁ、これだけの規模の迷宮でありながら居ないって方が不自然だ。


「こりゃどうも。ご丁寧に挨拶とは恐縮ですな」


 あっしは水晶に触れたままそう話しかけた。


「あっしはただここのボス君と腹割ったお話がしたいだけですわ。そんな迷宮ダンジョンを乗っ取ろうだなんて大層な事致しませんよう」


『……』


 おお、水晶越しにも伝わるご立腹なご様子で……


『クソ野郎。お前も魔王軍の一員か?』


「おや? 特別その様な振る舞いはしたつもりはありませんが……。にしても、『も』ってからには、先客でも居たって事でっか?」


『……そこじゃ無いが、な』


 やはり兄妹迷宮が幾つもありそうだな。


「そりゃ大分迷惑掛けたみたいで。すんまへん」


『……はぁ』


 沈黙の後、色々と飲み込み諦めたかの様な溜め息が伝わって来た。

 先程から怒気が含まれては居るが、中々可憐な声音である。


『お前を殺せば解決する問題でも無さそうだし、ここは慈悲深い私が一つ恩を売ってやろう』


 おおっ。これは光が見えて来た。

 本当は魔王軍と関わりがあるか微妙な立ち位置なのだが、あっしのそこそこの強さもあってかそれなりの影響を持つ者と勘違いしてくれてそうだ。

 実際はあっしがここで死んだ所で敵討ちに来てくれる様な者は誰も居ないのだが。


「そりゃありがたい事ですわ。そうだ。お礼に魔王軍のお方々にこの迷宮には手を出さない様、口添えしときますよ。何せ半年後にはここも魔王国領土内でしょうからな」


『なに?』


「ああ、魔王軍は本格的にアスラ王国を侵略する事に決まったんですよ。魔王軍が本気になった以上、この国は半年も持ちませんわな」


『まるで、決まってるかの様な物言いだな』


「ええ。そりゃもう……」


 人類に、勝ち目など無いからな。









「と言う事で、刺激的で新鮮な生活が君を待ってるって事なんや。どうです?」


『オオウウゥゥ』


「おお、そうか!」


 あっしは迷宮の影響から解かれたボスと話し、勧誘に成功した。

 ボスは案外話の分かる奴で、喋れないものの意思の疎通は十分にできた。


「と言う事で、話しは纏まったからボス君の解放よろしく!」


 あっしは管理室の水晶に手を付けて声を張った。


『はぁ……たっく、随分な拡大広告に聞こえたけどな』


「いずれそうなりまっせ」


『ふん。まぁ、魔王軍の軍事力のヤバさは分かってるつもりだけどな』


「おや、そうでっか? ちなみに以前関わった魔王軍の方とはどんな方で?」


「……アリシアと言う奴だ」


「アリシア?」


 さすがに名前単体で言われても、軍隊と関わりの無いあっしではぴんと来ない。


『知らないのか? 三番目くらいに強いみたいな事は自分で言ってたが』


「はははっ。まさか」


 それで言うと上位大幹部という事になってしまう。

 魔王軍幹部の一位から六位は上位幹部と呼ばれ、幹部の中でも特別視されている。

 一人を除いて公な情報が無く、謎の多い方々だ。


『くそっ。そいつを配置するのに一体どれだけの力が……』


 と、あっしが考え込んでいる間、何かブツブツとは聞こえたが、水晶の力の流れを見るにしっかりとボスとの繋がりは断ち切れた様だ。

 これで晴れてボス君はシャバの身だ。


「まぁまぁ。これからの時代、魔王軍とは良き付き合いをした方が良い時代へとなりまっせ。長い物には巻かれろですよ」


『……チッ』


 おお、怖っ。


『まぁ、いい。ゴズっちを頼んだぞ』


「え、ご、ごず?」


『ん? ああ。その子の名前だ。かわいいだろう?』


 クソだせぇ。


「ま、まぁ、よろしく。ゴズはん」


『オウゥゥ!』


 元気良く応じるゴズはん。

 本人が喜んでるなら良いか。

 何はともあれ、これで姐さんからの言い付けは達成したろう。

 この巨体を移動させるのは骨が折れるが、一度顔合わせはしておかなくてはな。


「ああ、そうだ。最後に名前だけでも聞いていいですか? ちなみにあっしの名はアドラーです。以後良しなに」


『……』


 ん?

 予想外の沈黙に訊いちゃダメだっかと思っていると。


『スカーレット……』


 そうぽつりと彼女は答えた。



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