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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第二章 神聖国崩壊編
27/183

27:謁見前



 あっしは軽く伸びをしながら魔王城内を歩いていた。

 侵略開始の宣言から一月足らずで一国を滅ぼした訳だが、魔王国内の様子は大して変わっていない。

 強いて言うなら連日首都アルブレがお祭り騒ぎだった事くらいか。

 まぁ、増えた分の領土を活用するのはまだまだ先だろうな。


 あっしの方は相変わらず適当に過ごしている。

 魔王軍の隊員と言う訳でもないので義務も無いし、普段思い出した様に無理難題を突き付けて来る姐さんも一時ダウンしていた。

 まぁ無事本調子を取り戻して今日も元気そうだったが。


 そんな暇人なあっしが何故魔王城に居るかと言うと、これから魔王様から直接お褒めの言葉を頂く謁見があるからだ。

 先の作戦で直接王都に乗り込んだ者全員である。

 何気にちゃんと魔王様のご尊顔を拝するのは初めてである。


「あ、居た居た」


 と、後ろからのそんな声に振り返ると、こちらに踏みよって来る一人の少女が居た。

 輝く様な金髪をショートにした可憐な少女だ。瞳は紅玉ルビーを思わせる赤色。小柄で背も小さい。服装は人間の冒険者風なショートパンツにシャツとかなり軽装だ。

 はて、この様な人物に知り合いは居たかと思っていると、その少女は目の前まで来た。


「君でしょ? 道化のアドラー君って。一目で分かったよ」


「如何にもそうですが……何用で?」


 あっしは気負う事無く話しかけたその少女に若干警戒しながら応じた。

 あっしとした事が、魔族に対して見た目で判断をしてしまっていたらしい。

 魔族は見た目での年齢や強さが判断しずらい。

 あっしが見た事ないと言う事は、もしかしたら魔王軍の将軍か、その娘と言った所なのかもしれない。


「いや、ちょっと一目見とこうと思ってね。なんでも、君が上に掛け合ってくれていたそうじゃないか。元アスラ王国領土にある、とある迷宮の保護を」


「あ、ああ~。確かに、そんな事もしましたっけ。まぁ、ちょっとだけ話した迷宮管理者ダンジョンマスターが居たもんで」


「うんうん。あの引きこもりも少しは社交性を身に着けた様だねぇ~」


 その少女は腕を組んで頷いていた。


「ま、とにかくありがとう。もしかしたらまた話しに来るよ」


「はぁ」


 と、それだけの為に話しかけたらしく、その少女は手をひらひらと振って去って行った。

 一体何者だったのだろう?


「あ、アドラー様。聞きましたよ~、任務ご苦労様です!」


 と、そう元気に話かけて来たのはマロン様だ。

 魔王様直轄のメイドにして部下。緩く波打つ金髪が特徴の小柄な少女姿をした淫魔だ。

 人当たりが良く、立場もあってか人脈の広いお方だ。


「マロン様。なんだか久しぶりですな」


「ですね~。この前の会議じゃ給仕に徹してたもんで」


 マロン様は幹部会などの給仕役をする事が多い。それなりの立場のある雑用係といった印象だ。


「それより、先日の任務じゃ結構活躍したそうじゃないですか~。魔王城内に事務室を構える話も出てますよ~」


「えぇ!? あっしが!?」


 と、ぐいぐいと肘で突っつきながら言われたそれに驚く。

 それは恐らくアウラ様が銀月の騎士を討った功績をあっしと姐さんに押し付けてるからだろう。

 あっしに事務室なんて必要ないし、それをされるといよいよ逃げられない気がする。

 アウラ様に拾われてから覚悟もしてたし、個人的に魔王軍に加担する理由が無い訳でもないのだが……


「いや~、出世ですね! 二つ名も今回を機に大分定着したみたいですし」


「ハハッ……あんま目立ちたくはないんですがね」


 謁見も本当は行きたくないが、お二人の顔に泥を塗る様な事はしたくない。

 まぁ、多分気にしないんだろうけど。


「あ、そうえば準備の途中なんだった! じゃあまた! 失礼します!」


「ほいー」


 慌てて去って行くマロン様。

 謁見の準備で忙しそうだ。


「これはアドラー殿。先日はどうも」


 と、突っ立っていると今度はアラン様がやって来た。

 この主要人の事務室が固まる区間じゃ良く人と会う。


「アラン様。お怪我の様子は?」


「すっかり良くなりましたよ。王都の死体を食い漁りましたからね」


 そう笑って応じるアラン様。

 あの作戦を機に会うと雑談するくらいの仲にはなっていた。

 アラン様はバラン様陣営の上位悪魔二体の死亡により、現状バラン様陣営で一番強い悪魔となったらしい。

 バラン様の地獄に残した悪魔達の管理も任され、正真正銘バラン様の副官と言える。


「ところで、先の作戦の事を魔王様はとても気に入っておられるらしく、精鋭だけを集めた特別奇襲大隊の編成を考えているそうです」


「そりゃまた物騒ですな。そんなのに入った日には命が幾つあっても足りなそうです」


「ハハッ。確かに」


 特別奇襲大隊か。話が本当なら恐らくは参謀本部直轄だろう。軍隊の方から選ばれる筈だから、あっしとは関係のない話だ。


「噂では、次の標的はヘルミオ神聖国だとか」


「ほう」


 あの神聖な地を穢れた悪鬼で血に染める訳だ。

 悪くない。


「ちょっとアドラ! 変にうろちょろしないでよ!」


 と、アラン様と話し込んでいると姐さんがやって来た。

 姐さんはつかつかと遠慮ない足取りで来ていたが、アラン様に気づくと途端しおらしくなる。


「あら、これはアラン様。ご機嫌麗しゅう」


「これはこれは。アルラ様。本日も見目麗しい」


 そうローブを摘まんでお辞儀する姐さんに、手を胸にお辞儀を返すアラン様。

 この場面だけ取ればどこぞの貴族同士に見えるところだ。


「ほほ。嫌ですわ様づけなんて。私め程度の者など気軽にお呼びください」


「そう言う訳にもいきません。何せあの水銀の魔女、アウラ様のお弟子様でございますからね」


「ふふ。バラン様の副官であろうお方が何を仰いますか」


「なるほど。では今後はアルラ殿と」


 そう普段からは信じられないおしとやかさでアラン様と会話する姐さん。

 あっしが本当はそっくりさんなんじゃと疑っていた頃、視線はあっしの方に向けられる。


「ところで、うちのアドラに何か御用でも?」


「いいえ。偶然会ったもので話し込んでいただけです。では私はここらで失礼しましょうかね。アドラー殿、また謁見の時に」


 と、アラン様はお辞儀して去って行った。

 あ~あ、もうちょっと話したかったなぁと思いながら姐さんとお辞儀して見送る。

 いずれ廊下を曲がって見えなくなった頃。


「もう! どこ行ってたのよ!」


「暇だったものでぷらぷら」


「これから謁見なのよ! 心ぱ……不安になるでしょう! 待合室に全然来ないし!」


 あっしは姐さんに連れられ廊下を歩く。

 この方向は姐さんの事務室か。姐さんは人見知りしないタイプかと思っていたが、さすがに同じ陣営の人が居ない空間は窮屈だったか。


「要は緊張して一人じゃ寂しいって解釈でOK?」


「うっさい!」


 少し揶揄うといつもの睨む様な目を向けられる。紫水晶アメジストの綺麗な瞳だ。

 そう言えば、些細な事だが変わった事が一つある。


「いい、アドラ? あなた魔王様に謁見するのは初めてだったわよね? 分かってると思うけど、くれぐれも粗相の無い様にね? 黙って跪いてればいいから」


「いえっさー」


 それは姐さんからの呼び名が愛称に変わった事か。まぁ、またアウラ様の影響か何かだろう。寧ろ今までそうじゃなかったのが不思議だ。

 にしても、一体いつから愛称に変わったんだっけなぁ~。

 まぁ、いいか。


「ふぅ。やっぱ自分の事務室が一番落ち着くわね」


 姐さんの事務室に入り、向かい合ってソファーに座る。

 と、姐さんがこちらをじろじろと見ていた。


「にしてもアドラ。師匠も言ってたけど、随分大きくなったわね」


「おかげ様で」


 頬杖を突いた姐さんに何となく応じる。

 お二人と会った頃を思い出す。


「そういえば、姐さんとアウラ様の出会いってどんなものだったんですか?」


「ふふっ。知りたい?」


 そうこちらを見返す姐さん。

 無言の視線で肯定をすると。


「教えな~い」


 そう言って姐さんは無邪気な笑顔を作っていた。



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