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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第一章 王国滅亡編
14/183

14:阿鼻叫喚の夜会



 空間転移で華やかな夜会会場のど真ん中に出るやいなや、バラン様は声高らかに口上を垂れた。

 あの役すげー気持ちよさそう。

 役得だろうな。


 恐怖に慄く者が大半の中で、バラン様の口上が終わりきるくらいから動く者が一人いた。

 赤銅色の短髪の騎士。特徴からして国王の近衛騎士ヘーベルだった。

 へーベルはあっしでも目で追うのがやっとな速度でバラン様へと急接近。直後に剣を振るい、しかしそれはバラン様の腕に止められた。

 腕に当たったとは思えぬ金属音が響く。見るとバラン様の前腕に結界が張ってあった。


 攻撃を止められたヘーベルは下がろうとするが、その背後には既にバラン様配下の悪魔二体が回って居た。

 凄まじい移動速度。いや、違う。空間転移だ。

 たった一メートルそこらを移動する為だけに、転移をしたのだ。これ程近距離の転移は寧ろ難しい筈だが、その二体は何の予備動作も無くやってのけた。

 ヘーベルを殺す為だけに、全力を尽くしている。凄まじい殺意である。

 AランクオーバーとAランク代二体に囲まれて逃げ場を無くしたヘーベル。その心臓をバラン様の手刀が貫いた。

 王国最強の騎士のあまりに呆気ない最後。


「おっと」


 と、思われたが、ヘーベルは心臓を貫かれた状態で剣を振るった。

 その剣先はバラン様の顔を掠め、耳を切り離してしまった。

 だがそれを最後にヘーベルは絶命したようだ。


「ふむ。我輩に傷を付けるとは……見事なお手前であった」


 バラン様は腕を抜き、ヘーベルだった死体は倒れて血だまりを作った。

 後に知ることになるのだが、この時ヘーベルは背後に回った悪魔二体により各種妨害魔法(デバフ)を掛けられていたようだ。

 その上であの動き。真っ先に潰して正解である。


 ここまで一瞬の出来事である。

 急に悪鬼共が現れ、ヘーベルが動き、そして死んだ。恐怖に慄いていた者も漸く動きだし、会場は阿鼻叫喚の様へとなった。

 一斉に扉に向かい、逃げ惑う人々。それを仕事の早いグラハス様配下の鬼が背後から切り捨てて行く。


『な、なんだ! 扉が開かない!』

『どけ! 俺がやる! ……クソッ!』

『開いてぇ! 開いてよぉ!』


 出入り口の方で人が溜まっている。それもそうだろう。現在この会場はバラン様の結界により出入り不可だ。

 ベランダの方も半透明の壁に阻まれ皆半狂乱で手を打ち付けている。


「ヘーベル……今まで、ご苦労であった」


 そんな中ただ一人、逃げる事もなく立ちすくむ初老の男が一人。


「これはこれは、国王陛下。最後に、言い残す事は?」


「くたばれクソったれ共」


「フハハッ! お見事!」


 次の瞬間、国王の首は飛んだ。


「なんか、呆気ないものやなぁ。見学ばっかしてないで、あっしも仕事しますか」


 そう呟いて逃げ惑う群衆に向かおうとすると、行く手を阻む様に騎士たちが立ち並ぶ。

 要人たちが集う夜会なだけあって、十人以上も居る騎士の全員がCランク代のようだ。

 この王都の中でも精鋭達だろう。歴戦の戦士と言った風貌の者たちだ。

 現在バラン様配下のBランク代である三名の悪魔は王都に分かれて魔物共を召喚している。

 故に残るはあっしとアラン様の二人と言う事になる。


 これは厳しい戦いにはなりそうやな、と思いつつアラン様と共闘した。

 アラン様は刃渡り前腕程もありそうな赤い爪を手の甲から出して戦っていた。悪魔族特有の物だ。

 あっしは相変わらずの素手である。手袋付きだけど。


 次第こちらの戦況に気づいたらしいグラハス様配下の鬼が集う。

 気づくと無理なく騎士たちは掃討してしまった。


 余裕ができて辺りを見ると、バラン様配下のAランク代の悪魔はそれぞれ一対一と、一対二で騎士と戦っていた。

 かなり激しい戦いだ。おそらく相手の三人はBランク代だ。

 騎士のほとんどがCランクな上、Bランクまで複数人忍ばせていたとは。

 要人の集まる夜会とは言え中々の戦力を集めていた様に思う。


 と、戦況は一気に動いた。単騎で挑んでいた方の騎士は頭を掴まれ潰され、もう一方は様子を見ていたバラン様と同時に胸を貫かれた。

 その戦いが終わると一気に静かになった。まだ生き残っている要人は大勢いるが、泣き声が聞こえるほか目立たぬようにか叫び声などはない。


「さてこちらの被害は……む? グラハス殿からお借りした者が一人亡くなってしまったか。これは是が非でも勝利を得なければな」


 バラン様の言う通り、鬼の一人が倒れ伏していた。

 今戦っていた悪魔はそれなりに消耗はしているようだが、他に傷が目立つ者も居ない。先ず先ずの成果だろう。


「では皆殺しと行こうか」


 バラン様がそういって群衆に向くと悲鳴が至る所で起こった。


「もうお辞めください。我々は降伏します。なので、どうかその矛を収めてください」


 と、その時少女の声が響き渡った。決して大きかった訳ではない。可憐ではあるが、特別通る声と言う訳でもない。

 しかしこの地獄と化した会場で、尚も自分を忘れずに、芯の通ったその声は人々を引き付けるだけの力があった。

 恐れず踏みよるのはまだ齢15程度に見受ける少女だった。ドレスを身に纏う青髪の美しい少女である。


「む? 其方は確か第一王女の……。ふむ。やはり有力な血を積極的に取り入れてるだけあって、潜在的な力を秘めているようだな」


 バラン様は顎に手を当て、まじまじと少女を見ていた。


「そうだ! ちょうど我輩のしもべに受肉をしたがっている奴が居たな。土産に其方の体を持ち帰るとしよう!」


「なっ。い、一体貴方は何を言って」


 少女がその言葉を言い終えることはなかった。何故ならその前にバラン様の手刀が胸を貫いていたから。


「あーあ。容赦ない」


 あっしは思わず呟いた。


「外交の手段にはしないようですね。徹底的にこの国を亡ぼすつもりのようだ。まぁ、分かっていた事ですが」


 隣のアラン様が応じた。


「にしても、この様な時にまで私的欲求の為にあのようなことを……。あの方の我儘はいつも私にしわ寄せが来るのですよ」


「ハハッ。あっしもそんな感じですよ。我儘な上司を持つと、お互い苦労しますな」


 そう今度はあっしがアラン様に応じた。

 なんだか話が合いそうな方である。


「うむ。よくよく考えればこの騎士たちも貴族たちも勿体ないな。よし、後で悪鬼共の餌としよう」


 そう何の感慨も無いようにバラン様は王女の胸から腕を抜き、群衆を見渡した。


「さぁ、皆殺しの再開だ! 首から上はなるべく残し給えよ。戦線の王国軍への土産だ。奴らの君主の首を並べ、士気を落とすのだ」









 その魔女は箒に乗り、王都を眼下に飛行していた。

 王都からは所々煙が上がり、有事であることは一目瞭然であった。


(これで予定の魔物は出し切ったわよね? にしても、連続の長距離召喚で魔力の三分の一も使っちゃったわ)


 魔法のみでAランク代の力を有するその魔女の魔力は絶大だ。竜すら優に上回る。

 と、その時東の方から赤竜が現れ、結界を突き破って王都へと盛大に着地した。


(あれがバラン様の言ってた竜ね。さすがにあんなの召喚しろと言われたら厳しかったわね)


 竜の体はあまりに大きく、王都を闊歩するだけで何軒もの建物を破壊した。

 さらには炎を吹き、辺りを火の海にする。


 と、その時だ。こちらに向けて何かが飛んでくるのに気づき、その魔女は反射的にそれを避けた。

 頬を掠め、血がつーと垂れた。上空へと真っ直ぐに飛んで行ったそれはきっとナイフであった。


 魔女は眼下を見下ろし、今しがた刃物を向けた不敬な者を探して目を凝らした。

 それはすぐ見つかった。隠れもしない、視線と巨大な威圧感を向け続ける騎士が一人。

 王城の庭園に居る。青髪に青い鎧。長槍を携えた男。

 ここから分かるのはそれだけだ。


(いいじゃない。上等よ。どうせ大粒を殺すのも任務の内。向こうから来て好都合じゃない)


 そう魔女はほくそ笑んで、その騎士に向けて降下しだした。









 その騎士は上空に漂う魔女を見上げていた。

 先ほどから強力な魔物共を各地に召喚していっている魔女。

 危険だ。今しがた結界を破壊して入って来た竜と言い、この国はどうせもう亡ぶ。

 だがああやって一人空中に浮かび、観察者気取りは気に食わない。


 石を投げると魔女はこちらに気づき、降下してきた。

 見たところ完全に魔法使いタイプ。

 絶大な魔力を感じるが、相性はこちらにとって最高。

 確実に殺れる。


「失礼しちゃいますわ。不意に女性へと刃物を向けるなんて」


「これは大変な失礼を致しました。何せ魔族共の文化には疎く、相手が気づかぬ内に殺してしまうのが魔族流の挨拶かと思いまして……。次からは、魔物を目の前に召喚すれば良かったですかな?」


「ふふっ。殺す」


「言ってろクソアマが」


 こうして魔女と騎士の戦いが始まった。



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