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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第一章 王国滅亡編
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01:道化のアドラー



 あっしの名はアドラー。

 見た目は出来の悪い道化師だ。

 不幸にも呪いの装備に当たりに当たりまくって今や見える体の部位は青髪だけだ。

 顔は笑顔の仮面で隠れ、体型も随分と大きく見える様になり、青髪だって呪いの影響で変色したものなのだから最早別人である。

 どうせならもうちょっとカッコいい装備ならいい物を、趣味の悪い物ばかり集まってしまった。


 口調の方はそれに合わせる様におちゃらけた物にしている。

 その甲斐あってか魔王城で付いたあだ名は“道化のアドラー”。

 まぁ、悪くは無いと思っている。

 そもそもあだ名とは言え、将軍でもないのに魔王軍で二つ名が付くのは大変光栄な事だ。


 そう、あっしはこれで魔王軍に勤める身。

 正確には協力関係にある、と言った方がいいのか。

 いや、本当に正確に言うなら『協力関係にある人物の、その弟子の、さらにその使いっ走り』である。

 要は、まぁまぁな小物だ。


 とは言え、自惚れではなく単体で一つの町くらいなら陥せる。

 ま、それでもさすがに魔王軍では色褪せると言った所だ。


「って、聞いてるの!? 今回の戦争は私たちも参戦する事が決まったのよ!?」


 で、目の前でぴーぴー喚く女性があっしの上司。

 背中まで流れる美しい紫色モーブの髪と紫水晶アメジストを思わせる紫の瞳を持った女性で、正直見惚れてしまいそうになるほどの美人だ。

 見た目は人間の20歳程と若く見えるが、そう見えるだけだ。

 実際は若返りの霊薬を飲んでいて、実年齢は100歳近い更年期も二週してしまっていそうなクソバ……超後期高齢者だ。


「貴方、今何か失礼な事を考えていたかしら?」


「滅相もございませんや」


 たまに感が鋭いのが油断ならない。

 ちなみにこの若くて美人で性格も優しい姐さんが先の説明で出た『協力関係にある人物の、その弟子』に当たる。

 名はアルラ様。

 つまるところ中間管理職である。


「しっかし、姐さん。あっし等の面倒を見てくださってるアウラ様は戦争には不干渉の筈では? それがなんで急に」


 先の説明の『協力関係にある人物』とは今出たアウラ様の事である。

 つまりは姐さんの師匠であり、あっし等二人の主人と言う事になる。

 そして魔王軍幹部の一人、“水銀の魔女”アウラとはその人の事だ。


 だがアウラ様は自身の研究にしか興味は無く、魔王軍とも研究の資金援助を受ける為の利害関係でしかない筈。

 今までもこれからも戦争には干渉しないと思っていたが。


「そうだけど、今日の下部会議でバラン様に煽られて……。リオウ様の所の奴も見てる手前……っ」


 その場を思い出した様に悔しげに言う姐さんを見て、あっしは呆れた気持ちになる。

 そういやこの人、負けず嫌いだったなと。

 詰まる所、主人であるアウラ様を差し置いて勝手に頷いちゃったのだろう。

 アウラ様も多少フォローすればいい物を……。まぁ、あの方は研究以外マジで何も興味が無い。


 ちなみに下部会議とは一位から十二位ある魔王軍幹部の中で、七位から十二位の幹部だけが集まった会議だ。

 『下位幹部会』の略でそう呼ばれている。

 幹部はそれぞれ一人だけ従者を連れて行く風習があり、当然アウラ様の従者は姐さんとなる。

 何故なら……


「もうそこら辺は過ぎた話だからいいのよ! 問題は私達の陣営と呼べる様な人は私と貴方しか居ないって事でしょ!?」


 つまりはそう言う事である。

 アウラ様は完全に個人プレイタイプの方だ。人材確保にあまりに力を入れていない。

 そもそも魔王軍の起こしている戦争とは不干渉で戦力を集める必要も無いのだが、そこら辺を含めてプライドの高い姐さんは上手く煽られたのだろう。


「と言う事で、アドラー。貴方どうにかしなさい」


 どこら辺が『と言う事で』なのだろう。

 きっと姐さんの中じゃ『面倒な事=アドラーがする事』と言う証明不可な方程式が成り立っているのだろう。


「具体的にはそうね。7日以内に貴方と同じくらいの戦力にはなる者を連れて来なさい。無理は無しよ」


「そんなご無体なぁ」


 こうなったら聞きやしないんだろう。


「話は以上よ。分かったらさっさと行きなさい!」


「へいへい」


 こうしてあっしは上司に無理難題を押し付けられ、あっしと同じ憐れな犠牲者どうりょうを探しに出かけるのだった。









 魔王軍は現在西の隣国であるアスラ王国と交戦中だ。

 だがそれももう次期終わる。今までの小競り合い──少なくとも魔王軍にとっては──は終わり、これから領土も文化も犯し尽くす侵略が始まる。

 恐らくそこに高度な戦略も、政治的意味も、文化的背景も無い。

 ただただ圧倒的な力で侵略するのだ。圧倒的強者にとってはそれらを持つ意味が無い。そこにあるのはただの気まぐれだ。


 断っておくがあっしは特別魔王軍に陶酔している訳ではない。

 ただの事実なのだ。

 魔王軍の力はどこまでも圧倒的。

 すぐにアスラ王国は滅亡し、その次はその隣の国、その次は更に隣の国、ゆくゆくはこの大陸全土を支配し、陸地の全てが領土となるだろう。

 そしてその次は……


「おおっと」


 考え事をしてるとつい油断をし、あっしは軽い足捌きで狼の嚙みつきを避けた。

 狼と言っても背丈だけで人間の成人男性を優に超える。


「い~、よいしょ!」


 勢いを付けて殴り、首の骨を折る。

 狼は痙攣しながら倒れた。

 どうせなら手刀なりで心臓を突いてやりたいところだが、手袋があるのでやりづらい。

 それに汚れちゃ嫌だ。

 こう言った薄情な部分はやっぱあっしに悪鬼の血が多分に含まれているからだろうか?


「これで強さはDランクって所か。世間じゃ十分な強さな筈なんやけどなぁ。姐さんは満足せえへんやろなぁ」


 そうあっしは呟く。


「さて、どんどん奥へ行きますか。本日のメインはここのボスやからな」


 今はアスラ王国に存在する迷宮の一つへと来ていた。

 姐さんへと言い付けられてから丸五日間、あっしはアスラ王国の広大な土地を練り歩き、未開と思われる迷宮を見つけては少し覗いて程度を見ていた。

 そして姐さんに言い付けられてるハードル分は乗り越えられそうなレベルの迷宮を遂に見つけ、六日目の今日それを攻略中である。


「罠は無いな。兄弟の迷宮が立派なんやろなぁ。まだ成長途中って感じか」


 そう呟きつつ洞窟の様な道を進む。

 にしてもこの迷宮は期待できる。

 まだ深さは分からないものの、Dランクの魔物がごろごろ居る。

 ボスが居ればCランク以上は期待できる。


「ここがボス部屋かいな」


 そして大きな扉の前に立ち止まった。









 中は一見ただの広い空間だった。

 今までもそうだったがただの黒い岩肌。

 青白く光る鉱石がまばらにあるが、本来ならとてもじゃ無いがそれだけでは暗くて見えない。

 あっしは夜目が効くからどうにかなったし、迷宮の魔物も夜目の効く種類が集められている様だった。

 であればボスもそうだろう。


 警戒しながら進んでいた時、ハッと身構えた。

 奴はずっとそこに居たのだ。

 気づかなかったのは壁に同化していたのと他に、気配を感じぬ程に相手が気の扱いに長けていたからだろう。

 だが一度その存在に気づけば肌に張り付く威圧感に意識が外せない。


牛頭族ゴズか? いや、サイズ的にケンタウロス……でも、無いな」


 そいつは座禅を組んでいた様で、立ち上がると見上げていた首を更に上げざるを得なかった。

 獣の様な頭。筋骨隆々の体。肌は暗い藍色。山羊のような角を持つ。

 二足の脚にケンタウロスの線を消した訳ではなく、それと比べたってデカかったからだ。

 その高さ八メートル近い。


「化け物やな。こりゃまさかBランク帯に足踏み入れて……るんやろなぁ」


 これは骨が折れる。



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