第1話 転移
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高校からの帰り道。私、鈴原朱莉はため息を吐いた。
また、アイツらが尾行してきてるのか。本当に嫌な奴らだ。
私をイジメて何が楽しい。しかも直接何かしてくるわけでもなく、私に悪戯をして、私に嗤い声が聞こえる場所から観察して、私が引っかかれば薄汚い声で大げさに嗤う。陰湿で馬鹿みたいなイジメだ。
今日も足元に注意して帰らないと。
ただ、おかしい。今日はいつもいる筈の主犯、志摩絢香がいない。
アイツは、私の前ではさも友達かのように振る舞うし、関わってくる。
でも、私は知っている。アイツが、私をイジメてくる奴らに指示を出していることなんてことは。
そんなことを考えながら十字路の左右を見回す。やっぱり、いない。
…と思ったが、左から誰かが自転車を異常なほどのスピードで走らせてきた。
絢香だ。
それに気づいた時には、私はもう追突されていた。しかも、運悪く向かい側から大型トラックが…。
ここで復讐しよう。
私はすぐに自転車の前カゴを掴み、自分の方向に引っ張った。
私が追突されたエネルギーもあってか、それほどの力を使わなくても自転車を引っ張れた。
「ちょ、巻き添えにする気!?」
ざまあみろ。これでお前も一緒に死ね。最後に復讐できてよかった。
最後の私の視界には、夕日にしては不自然な光が広がっていた。
*
私が目覚めると、そこに絢香がいた。
なんでお前は地獄じゃないんだ。そう思ったが、ここは天国でもなさそうだった。
目の前の玉座には、1人の王らしき人物が鎮座していた。
「あなたは誰ですか?そしてここは?」
「貴様らがそれを知る必要はない。必要な物資と聖剣は用意してある。さあ行け、勇者たち。呪詛王ヴァーダンを倒す旅へ!」
「勇者って、私のことですか?」
「いや、勇者はそちらの金髪の者。貴様はただの荷物持ちだ」
「え?ウチが勇者?おっさんマジウケるww」
私が、荷物持ち?つまり、イジメの主犯だったコイツ、校則違反ばっかりで、髪も金色に染めて、耳にも唇にもピアスをして、カラコンもして、こんな異常者が勇者で、私は荷物持ちで、私は戦いでも立場でもコイツに勝てない。悔しい。これはきっと異世界転生、あるいは異世界転移。なのに、コイツの所為でそれも台無し。
私が復讐してやろうなんて考えたばかりに…。
私のことを見下して、嘲笑って、散々見えないところで小馬鹿にして。
私が知らないつもりなんだろうけど、私に見せるその偽りのヘラヘラした顔が憎たらしい。本当に消えてほしい。
そうだ、ここは異世界なんだ。人1人殺しても、もとの世界よりはマシな筈だ。
自分自身、真面目に生きてきたつもりだ。忘れ物も遅刻も指折り数えくらいしかないし、成績も良かった方ではあるし、高校の受験の時だって首位で通過した。
これだけ人よりは真面目に生きてきたんだから、異世界に来てまで真面目にする必要はないよね。
私は絢香の肩に手を置いた。
「絢香、早く行こう」
「朱莉、そんな急がなくたって大丈夫だって」
その手を振り払った絢香の目は、「その汚い手で触るな」と言っているようだった。
汚い手はどっちだよ。お前、5月に1人濡れ衣で退学させてるだろ。
今の私は荷物持ち、きっと1時間後には<勇者様殺し>。
今は、荷物を持ってさっさと人気のないところに行ってやる。
*
「いや~、まさかウチが勇者なんてね。なんかゴメン」
「いや、別に」
今すぐそのヘラヘラした不愉快な顔面は叩き切ってやりたいが、森の中までは我慢だ、私。
「やっぱ怒ってる?」
「いや、むしろ嬉しいくらいだよ」
「ウチのお供になれるから?」
「そうじゃない」
「じゃあ、私が偉大になったから?」
勇者に任命されただけで偉大なんて勘違いも甚だしい。
「いや、お前を遺体にできるからだよ!」
私はすかさず、さっき護身用と言い訳をして買ったダガーを鞘から引き抜いた。
絢香は反応が遅れ、聖剣を鞘から引き抜く途中で私に首を刺された。
血が噴き出す。微かに高揚する。
そのままダガーを強引に振り、首を半分切り、聖剣を奪い取って胴をズタズタになるまで切って刺してを繰り返した。
*
我に返った時には、目の前には血だまりの上に少しの布を纏った数個の肉塊が転がり、辺りは薄暗くなっていた。
私は後ろにあった月明かりに照らされた水たまりを覗き込んだ。
あの王らしき人物の言ったことが本当なら、私の瞳と髪の先数センチは紫色になっているはずだ。
本当になっている。
カラコンをしたことも、髪を染めたこともない私からすれば、不思議な感じだった。
ただ、こうなっているということは勇者を殺した代償の呪いが発生しているはずだ。
とあるアニメで見たことのあるように、視界の隅にHPゲージらしきものや色々なゲームの表示のようなものがあった。その中の1つ、『コンディション』の項目に光が点灯していた。
そこを押すように空中で手を動かすと、そこには<呪い:不信世界>と書いてあった。
タップすると、そこには『全世界の人間から敵と認知され、友好関係を築くことが不可能になる』と書かれていた。
現実になってから考えてみると、これは意外と重い呪いだったかもしれない。
全世界の人々から敵扱いされるってことは、この呪いを祓ってもらうことすらできないわけだ。
さて、どうするか。
考えながら表示画面をスワイプしていると、一番下に『この呪いは<呪詛転換>で<絶対服従>にすることができますが、転換しますか?』と表示されていた。
私が<Yes>を押すと、その呪いは消え、代わりにスキル画面に<絶対服従>が追加された。
これってもしかして、私には呪いが効かないってこと?