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一話:新たなる力の源と新環境への第一歩

「ここでの任務においては、そなたらに特殊な力を授けよう。それによって、【ソロニア】なる秘密結社との戦いに挑むことができるじゃろう」


王様の言葉に、僕たちは興奮を隠せなかった。新たな力を手に入れ、冒険の旅が始まるのだ。いくら望んでいない異世界召喚に巻き込まれたとはいえ、起きてしまったことはもう覆されようがないのだ。この状況を甘んじて受け入れた方がストレスを軽減できて早く目標達成へと近づけるからだ。


「我々がここで詠唱を唱える間に、そなたらに【力の源】を少しずつ吸収させよう」


王様の指示に従い、僕たちは力が湧き上がる感覚を覚えながら、あそこにいる王様と側近っぽい宮廷魔術師達の詠唱とやらが終わるのを待っていた。


玉座のところで、一旦王様の近くへ合流した王女と魔導士っぽい女は王様と何やら話し合っていると、次は僕達の方に向き直って王女が口を開けた。


「言っとくけれど、私はまだあなた達を許すつもりはないですわ。さっきもお父様が止めてと仰ったからあの野蛮人と決闘する流れが中断されたけれど、次はないと肝に銘じておきなさい!では、不本意だけど仕方なくお父様のご指示に従い自己紹介させて貰いますわ。私はキャサリン・フォン・グダードです。現国王アルベルト陛下の一人娘であり、今年の月歴211年に入ってから16歳になったばかりの第一王女ですわ」


「「「?」」」


ほう?一人娘だと?道理であれほど高慢ちきな態度ができたものだ。兄妹のいぬ家庭環境で一人だけで十分だと錯覚し、自尊心が並々ならぬ程に高いのだろう。


「あのアマ…やっぱ環境に影響されての温室育ちな我がまま女か...その態度からしてもっと複雑な事情があるのかと思いきや、真実がそれならばがっかりだな!」

と、僕にだけ聞こえる声で意見を述べたエリック兄に苦笑しながらこう返す、


「まあ、世の中には個性的な『そういう人間』もいるってことだよ。同じ王族だからといって、必ずしも我がイギリスのカールズ国王陛下みたいに優しい方ばかりじゃないってことだよ」

「ふ~ん。そりゃそうか……」


納得したみたいで、それっきり声を発さなくなった兄。


「これにて私からの自己紹介は終了しましたわ。さあ、ミッシェル。あなたの番よ」


「承知致しました、我が姫様。異界から招かりし英雄の方々、良く聞いてくれ給え。我はミッシェル ・フォン・アロンゾなり!アロンゾ公爵家の長女にしてキャサリン姫様の直属な護衛たる近衛騎士師団に所属している総合戦略的魔導士、『雷帝のミッシェル』よ」


そう自己紹介した彼女は自身の頭に被った魔女っぽい帽子を取ると、優雅に会釈した。今まだ隠れていたけど、茶髪セミロングで三つ編みをしている彼女の容姿は目を奪われる程に美しいながらもどこか妖艶さも滲み出てきているようだ。


さっきは沈黙を決め込んだばかりだったため、寡黙でありながらもどこか物腰柔らかそうな印象もあったけど、帽子を取ったらいっそうとその美貌が際立って益々にセクシーな雰囲気の出る微笑がさらけ出された感じだ。


心なしか、スタイリッシュなお辞儀をしている最中のミッシェルからなんか悪戯っぽいウインクを僕の方に向けてきたかと思うと、その直後から気のせいだったかまるで舌なめずりをしているかのように見えたけど。

まあ、一瞬のことだったので本当に起きたことかどうか確認しようがないのだが……


「ミッシェルかぁ...さっきから俺とあの女の喧嘩だった時に黙々と眺めていただけで何もしなかった子か」


「エリック君、シー!その言い方、まずいと思うよー?しょ、初対面だし...」


「何でだよ?思ったままのことを口にしたまでだが?貶すつもりはないし、ただ事実だけを述べたんだが?」


「そうだけど...」


またも言い合いを始めてしまったエリック兄とエリン。まったく、こんな訳のわかんないところに飛ばされてきたというのに元気だな!


「ミッシェルさんか。初めまして。僕はー」


「全員の名前は国王陛下様から既に拝聴してきたわ。冷静君である君はジョッシュア君でしょう?それで、さっき姫様と喧嘩したばかりの短気君はエリックで、おどおどしながら俯いていたばかりの子はエリンで間違いないはず」


「なるほど」

そう返した僕だったが、ふと思い出してみるとさっきの国王様からも僕達のことをはっきりと『 ジョンソン家の兄弟とエリン』と呼んだけど、一体全体どこから僕達に関する情報を手に入れてきたのかな?


(というか冷静君って何だよ~~!)

小声でそうつっ込んでみようとしたけど心の中で留めた。


「ちなみに、我は騎士師団の魔導士だけじゃなくて公爵令嬢という身分も持っているわよっ~?もしジョンソン兄弟君達が社交ダンスを習いたければ気軽に言ってきてくださいね~?相手になるわっ~。ふふふ...」


「というか、そもそもなんで俺達の名前や家名まで知っていたんだよー?まさかとは思うが、俺達がお所望だから召喚しやがったというのかぁー!?偶然じゃなくて」

自分も公爵令嬢だと主張したミッシェルの社交ダンス勉強への誘いを苛立った表情の兄が無視した。代わりに僕らに関する情報をなんで彼らが知っているか不審に思ってならないようだ。まあ、無理もないけど。


「またも吠えてきましたわよね、そこのチョコ肌の単細胞君!まーーむふっ!むふっ!#$%~~!」


「お前が突っかかっていくと会話の邪魔に成るから少し黙っておれー!」

またなにか罵倒してきそうだった王女を、今度は彼女のお父さんである王様に口を手で塞がれた。兄ではないけれど、今度ばかりは『ざまーー!』と言えなくもないんだね、えへへ……


「それについては何も言えないけれど、必要になる時が来れば国王陛下様から直々にお教え賜われることになると思うわ」

そう来たか……まったく!任務だの使命だのと勝手なことばかり押し付けてきたくせに、肝心なところだけはぐらかすつもりのようだな、ここの城の者は!

まあ、異議を唱えても仕方ないけど……


「悪いのう、異界の勇者共よ。遠路はるばる来てもらったのにそなたらに関する情報をなんで知っていたかまだ理由を明かせないで……」


「あんたらが何を隠していたか分からないが、これだけは覚えておけよー!俺達は望まずして、ここへと引っ張り出されてきた。国王だか王女だか知らんけど、俺達が真に忠誠を誓っている王族はどこの世界にいてもたった一人だ。それは俺達の国、イギリスの現国王であるカールズ国王陛下のみ!」


グダード王国のアルベルト国王に対してきっぱりと言い放ったエリック兄!


ナイスだった、エリック兄!そうだ、僕らはイギリス人であり、グダード人ではないのだ。だから、同じ王族系だからといって、関係のないこの国における王に当たる人物に対してまで首を垂れる義理も筋合いはどこにもないはずだ。


でもやっぱ、かっこいいな、僕の兄って。カッとなりやすい性格だけど毅然とした態度を然るべき時に見せられるのって偉いことだと思うんだよねーー!特に縁もゆかりもない者から指図される場合に限って。


僕は場を和ませることに関してだけ長けていると前々から学校の友人達に言われたので、こういう場面において刺々しい意見に聞こえながらも言いたいことをストレートに発言できた兄の存在も必要だと感じた瞬間だった。


「良かろう。確かに我々は許可もなく無関係なそなたらをこの世界へ呼んできた負い目があるんじゃ。お詫びと言っては何だが、ここの国での滞在につきそなたら3人にはそれぞれ3000枚の金貨を授けよう。任務が全て完了する日になるまでに使うといいぞ?」


「へえー?気が利くじゃねえか?ならこちらからも文句は言わねえぜ」

やったーー!これで短い間だろうと長くなるだろうとこちらにいる限り、僕らは『お金持ち』のステータスを手に入れられたと言っても過言じゃないね(実際の金貨の価値はまだ教えてもらってないけど...)


「じゃ、こちらはまだそなたらに吸収させたい現段階における必要最低限の【聖魔力】の指定量にまで達しておらぬ。よって、暫くそこで待つといいぞ。なに、もう直ぐ終わることになるんじゃから長い間も突っ立っておる必要もないのじゃからなぁ、ほほほ…」


それだけ言うと、何やら口を塞いでいた自分の娘と再び内緒話に興じようとする王様。王の斜め前にある壁際の横に視線を移せば、一列を成した魔術師っぽい人達が詠唱を唱え続けるままだ。


で、彼らのことばかり注視してみると、


「そうだ、エリン!さっきはお見苦しいところを見せてしまって悪かったな。滅多に怒らないと決めたのにあの女との口論で激怒状態だった俺が怖かったのかな?」

エリック兄からの声が聞こえてきた。どうやらエリンに謝罪をしていたようだ。


「いえ、いえ、それ程でもないわ。ただ、エリック君にもそういう一面があるとは、初めて見たので少々びっくりして……なんというか、...そのぅ……ちょっとだけ...」


「やっぱ怖かったんだったな?済まんな、エリン。もっと自分の感情に対して律することが出来れば、お前にまで困らせることはなかっただろう……」


「まあ、エリック兄、事は済んだし、これからは僕らの内に宿るようになったこの不思議な感覚について気を引き締めながら王様達からの指示に対して『ある程度で』対応するだけを心掛けた方がいいんじゃない?」


「それもそうか。何でもかんでも指示に従う訳にはいかないからな。勝手にこちらの事情を無視して召喚してきた癖に何でも従ってやる義理もねえんだよなー!エリンもそう思うだろう?」


「あ...はははは。否定できなくもないけど、反発するのを程々にしてよね?トラブルばかり起こしたら、悪目立ち過ぎて、なんかうちに帰れなくなる気がするのよね...」


「お、おう!それについては追々努力していくつもりだから安心しな、はっはははは!」


屈託なく笑い始めた兄だがそれでこそいつもの優しい兄に戻ってくれて一安心した。


さっきは口論が決闘に発展しそうな流れだっただけに、今の落ち着くようになったエリック兄に戻ったことに対してはありがたい気持ちで一杯だ。


ん?なんか兄の顔を見てみたら、照れくさそうにエリンの顔を見ているようだけれど、やっぱり前々から察していた通りに、兄はエリンのことが好きなのかもしれないなぁ。


詳しく聞いたことがないけど、兄のエリンに対する世話を焼きたがる態度は頻繁にあることから、恋愛感情があると推測した方が早いだろう。


僕といえば、確かにエリンは僕達が7歳の頃からずっと遊んできた幼馴染同士なんだけど、エリック兄ほどに彼女に対する気持ちは『好き』というよりは気の置けない【女性の親友】と言った方が正しいのかもなぁ……


「じゃ、体内に流れ込んだ不思議なオーラをもう感知できたことじゃろうー?そうだったらもう今ここでやることがなくなったんじゃ。そなたらの身体に宿るようになった新しい力の源、【聖魔力】について詳しく説明するのは明日になるのでこれからは侍女達にそなたらの私室へと案内させるんじゃ。それぞれ与えられる部屋が気に召したならば休むなり自由に王城を散策するなりしていっても構わぬぞ、ほほほ!」


いきなり柔和な態度に切り替わった王様は気さくな口調になり、僕らをここの生活で寛げさせようという魂胆が見え見えした。


「但し、翌日に備えての準備も怠るでないぞ?なにせ、明日にはそなたらの初の訓練試合があり、我が娘キャサリンと模擬線をやってもらう予定だ。よって、初日の今日だけはそなたら3人に対して町への外出を禁じよう。どうか王城内だけで散歩を楽しんで欲しいのじゃ。じゃ、また会おう!」


右手をヒラヒラさせた王様につれられ、丈の長いメイド服を着ている侍女達が行くべき方向へと一緒に来てと丁寧に手招きしてくれた。


ってー!さっき決闘する寸前にまでなった原因の一端であるキャサリン王女とこうも早い段階で模擬線をやることになるなんてー!


能力全般に関する知識も十分把握できていない僕らに対してハードル高すぎないかー!?


僕は兄ではないからまだ良いとしても、喧嘩して犬猿の仲になったばかりのエリック兄ならピンチ状態になるのではないかな?


というか、今になって考えてみると兄も兄で、召喚された初日ばかりでよく能力がまだ開花してない時点でさっきの王女に勝負を挑めたものだ。


つくづく実感できたなぁ、エリック兄の負けず嫌いの底知れなさって。


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