結納小話「膝枕」
「お見合い結婚しました」のおまけに投稿したのでイオミユ部分だけこちらに。
夜勤が終わったーと、イオが朝から来てくれた。忙しかったようで、朝食後は父の部屋で寝ていた。
昼過ぎに起きたので昼食を一緒に食べたら、読書をすると言ってまた父の部屋へ去った。
私たちは、婚約してからの方が距離が出来た。婚約したらあれもこれもする。そんな言動をしていたのに、「途中で止まる自信が無い」と言い出して、やたらと離れられている。
居間で縫い物をしながら、寂しいなとため息を吐く。
(知り合った時は大嫌いだったのに変なの)
自分の瞳の中に、イオがこの世で一番好む天の川が宿っているとはなんなのか、全く分からない。
優しい女性はこの世に沢山いる。私の優しさなんて、そこらの人たちと変わらない。
毎日のように褒められるから、鏡を見て、ブサイクではないかも? と思えるようになったけど、イオの口振りだと私は世界一の美女である。
イオという男性は謎過ぎる。イオこそかなりの美青年。なのに中身は変人だ。美形が台無しとは彼のこと。で、私はその変人なところこそ好んでいる変人だ。
(誰にでも親切なところも好き……って言ったら騒ぐからなぁ。静かにして欲しい)
今みたいに静寂の中で過ごすことが幸せ。それなのに、うるさいイオが恋しい。
「……」
静かに暮らしたいけど、静かな時の大切さは、喧騒あってこそ身に染みる。なんて。
「イオさーん!」
寂しいなら呼べば良い。イオなら、呼んだら来てくれる。
「呼ばれて飛び出る俺はイオだ! じゃじゃじゃーん!」
想像よりも早いしうるさかった。満面の笑みで腕を広げて近寄ってくる。危ないと言う前に抱きしめられた。
「針を持っているのに危ないでしょう! 状況を見て動いて下さい!」
「怒らないでミユ。君になら刺されたい」
ぎゅっと抱きしめられたのは嬉しい。でも——
「きゃあ! 針が刺さってます!」
「うん。刺さったみたい。自業自得」
「笑ってないで針を抜いて下さい!」
「嫌だ。ミユがおいでーって呼んでくれるなんて初めてだからこのままがええ」
「バカなことを言ってないで離れて針を抜いて下さい!」
動く場所が頭しかないから頭突きしたら、離れてくれた。イオは針を抜いて机に置くと、肩をすくめた。
「こんな細い針、別に大丈夫なのに。心配は嬉しいけど」
「針を抜いて、続きをしたらええだけです!」
怒りたいわけではないのに、怒る流れになってしまった。こうなると、どうやって甘えれば良いのか分からない。
悩む間も無く、イオが膝の上に頭を乗せた。ニコッと笑って白い歯が見える。
「抱きしめて下さいイオ君って言うたら続きをする」
「言いません」
「ちぇっ。まあ、これなら安心安全。危うく襲うところだった。イオさーんなんて、初めて言われた」
「たまに呼びますけど」
「呼び方が違かったってこと。頭撫でて」
「はいはい」
自分で言ったのに、横向きになったイオの耳は桃色。そこからさらに赤くなった。
見た目は猫っ毛なのに、そうではないしっかりとした髪に指を通そうとしてやめた。振り回されることが多いから悪戯しよう。耳たぶをツンツン、ツンツンつついたらイオの唇は尖った。
「撫でてって言うたの。襲うぞガオー」
「コンコン、イオ狐だコンではなく?」
「今だけイオ虎になる」
と、言いながらイオは何もしないので、思い切って頬にキスしてみた。すると、イオは顔をこちらに向けた。目は閉じている。
「もう一回どうぞ」
どうしようか悩んだけど、勇気を出して。そのはずが、途中で目を開いたイオと視線がぶつかったので固まった。私たちは二人とも、しばらく笑い続けた。
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