番外「七夕1」
このかわゆい人をお嫁さんにして守ってあげたいと思った事は人生で二回あって、どちらも子どもの頃の話でしかも元服前。
元服するまでは落ちこぼれ火消しにはなれないと思っていたので、かなり真面目に励みつつ、顔が良いし背もあるし、火消しだからか女が寄って来るので本気そうな女は避けて、自分の都合に良さそうな女を選んで、我慢出来ない時だけ遊んでいた。
それは無事に火消しになっても続いたけど、色にやかましい幼馴染がいたのでそれなりに地味になった。
ハッキリ言って、幼馴染にずっと惚れている友人を横目で眺めて「恋とか愛とかイマイチ分からない」と思っていた。
ただでさえ、父親がそこそこ立派だから比べられるので、仕事にあまり手を抜きたくないから影で必死だし、家族を背負うなんて気が重い。
しっかり者で家のことは何でも任せられるような女と、世間的にそろそろ結婚しないとマズいという年齢の時に縁結びで良いだろう。
あと数年は気ままな独身男、そう考えていたので、火事現場で窓を引き離した時に彼女と目が合った時は驚いた。
七夕生まれで、一年で一番祝われてきた日の夜に見られる天の川が一番好きな景色。
まだ春なのに、少し遅かったら炎に飲まれそうな女性の瞳の中にそれがあった。
火傷を負って俺の腕を爪が食い込む程掴むくらい傷が痛むのに、ずっと友人の心配をしているから、なぜ彼女の瞳に天の川があったのかはすぐに分かった。
火傷の痕が全身に残っても俺は彼女が良いし、守りたいし、彼女ならきっと親兄弟や友人を守ってくれるから安心だとも感じた。
普通に出会っていたら、俺は彼女の一番の魅力に気がつかなかっただろう。
押して、押して、押して、会いたくない、話してくれないところから始まり、なんとか半分恋人の座まで来たけど、あまり実感はない。
ミユはたまに思わせぶりな言葉を口にするから浮かれるけど、冷めた言動の方が多いから、俺のことは条件が良いから確保しておこうということだろう。
なので誕生日は教えないことにして、調べて気がついて祝ってくれるかどうか駆け引きすることにした。
毎日会いに行って、押しても、押しても糠に釘状態で、日に日に心にヒビが増えて、壊れそうなので、休日にデートに誘うこともしていない。
そういう訳で、明日は休みだけどミユとの予定はなし。
幼馴染の家に来て、長屋と長屋の間にある共同物の机と椅子を使って、友人二名と飲んでいる。
ネビーは灯りを使い、仕事用の本を片手に勉強をしながら飲みつつ、隣の席に十四才年下の妹を座らせて読書させている。
ガントはどんどん飲みながら、昔からの腐れ縁って言っていたのに、新婚になったら手のひらを返して惚気続けている。
俺は人選を失敗したと思う。
「兄ちゃん、この漢字はなんて読むの?」
「ん? 子ども向けなのに難しい漢字が使ってあるな。なかでよだ。つまり仲良し。仲間のなかで、良いのよ。どんどん覚えろ。ロカは覚えが早いから羨ましい」
「うん。あのね、びしょぬれの犬が助けてもらったの。最初はがうがう言うて、うなっていたのに仲良しになりましたって書いてある。なんで助けられたのにうなっていたの?」
助けたのに拒否された俺と重なるな、と気になって俺は向かい側に座るロカに、
「ロカちゃんは何の話を読んでいるの?」
と話しかけた。
「花咲おじいさんです。イオ君、知っていますか?」
「ロカ、イオさんだ。ルカは歳が近いからイオ君って呼ぶけど、ロカから見たらうんとお兄さんなんだからそう呼べ」
「別にイオ君でええけど」
「ロカは女官吏様になるから女官吏様風にしゃべるんだよな?」
「そうなのです。ロカはかわゆい春霞のソアレ様の付き人になるから、沢山お勉強します」
ネビーがうんと優しい眼差しで妹の頭を撫でたので「お前は父親か」と心の中で突っ込む。
「お前は父親か」とガントが代わりに突っ込んでくれた。
「まあ、半分そうじゃねえか? 元服少し前に産まれておむつを変えていたし、夜泣きをあやしたりもしていたから。母ちゃんが休まないと我が家の家事は終わりだった頃だ。ルカやリルが頑張ってくれてたけど」
ネビーは家事が壊滅的だから、妹二人に母親の家事の手伝いを任せて、彼が子守りを手伝っていたのは覚えている。
「ヤァドにコツを教えてやったらどうだ? あちこちに聞いているみたいだけど、色々下手でしょぼくれてる」
「そうそう。リンさんに邪魔って邪険にされたくない、捨てられるってたまに怯えてる」
「あいつは末っ子だしな。コツとか分からないけど、ちびを見たいから今度家に行ってみる」
「兄ちゃん大変。ポポがここほれワンワンって言うたらきんかとぎんかが出てきたって。犬をひろってこよう」
「あはは。これは良いことをすると良いことがあるぞっていうのを大袈裟に言うている話だから、犬を拾ってきても金貨や銀貨は出てこない」
ネビーはまた妹の頭を撫でて、お互い実に幸せそう。
「父ちゃんが稼ぐ分は手習代や学校代になるから、ちょっと贅沢する分は兄ちゃんが稼いでくる。明日もルル達と弁当を頼むぞ」
「うん。でも犬をかいたい。ロカも犬と散歩したい。ポポって名前をつけようよ」
ミユと夫婦になって娘が生まれて数年したらこうなるのかと思いながら酒を呷る。
その前に「イオさん、大好き」と言われたいと思って、自分がその「大好き」を言っていないと気がつく。
とんでもなく恥ずかしいけど今度言おう。
私は少しだけ好きですって言わないかなと妄想をしたら、私は好きではありませんと冷めた顔と声が浮かんで凹んだ。
「妹育てもええけど、お前は結婚して自分の子育てをしろ」
「何だ急に」
ガントにお酌をされたネビーが首を傾げた。
「イオが運良くミユさんと結婚したら後はお前くらいだぞ」
「そうか? 独身男はまだまだ周りにいるけど」
「それは二十才前の奴らだろう」
「親父と母ちゃんが大人しくなったら次はお前か。順番になんなんだ。頼まれたのか? 俺の人生なんだから俺の好きにさせろ。出世してお嬢さんがよりどりみどりになってから選ぶんだ」
そういえばミユの友人チエはお嬢さんなのに文通流しをされたけど、彼女はあのままあっさり引き下がるのだろうか。
「ノアがうるさい。お見合いしたくない。ネビーさんとお見合いしていないのに嫌だって。せめて一回出掛けてくれ。金が惜しいなら出すから」
「えっ? ノアちゃんがなんで?」
「妹の恋話なんて知らねぇよ。母さんとエルさんが話しているのを聞いて、お前の条件に合っていないと門前払い? って泣き出した」
「そのまま泣かしておけ。誰か寄ってくるから。ノアちゃんは妹みたいなもんだから嫌だ。逆ならどうだ?」
「逆なら同じく嫌だけど、俺みたいに一回くらい頼むって言うだろう?」
「言わねぇよ。拒否されているんだから諦めろって言う。諦めがつかないなら粘れとも言うけど。お前の人生だから、後悔のないように自分で決めろって」
一回会うだけ、お見合い席を設けて喋ってキッパリ理由を言やれて断られたら失恋の隙間に誰か入るから、とガントが粘る。
「お前の弟はリルを無視しやがっただろう」
「それはまあ、そうだけど。それもそうだな。お前のせいだって言うて縁談を持ってこさせよう。断固拒否の理由を教えろ。ノアの心がバキバキに折れて諦めるような何か。お前はいつも抽象的だ」
「分かった。指一本触れたいと思わないくらい全くそそられない。そう伝えてくれ」
「お、おう。ちなみに見た目? 中身?」
「両方」
「ちなみにお前がそそられる女って? まあ、付き合いが長いから多少は分かるけど再確認だ。男色家でも友情は続くけど、男色家に女は勧められない」
「兄ちゃん、だんしょくかってなに?」
「ん? 男の人は女が好きで、女の人は男が好きなことが多いけど、たまに男でも男に惚れたり、女が女に惚れたりする。男色家は男に惚れる男のこと。ちなみに俺は違う」
「ふーん。兄ちゃんはどういうお嫁さんがええの? アリサちゃんが言うてたよ。兄ちゃんのお嫁さんはロカの姉ちゃんになるんだって。楽しみ」
「おー。楽しみか。ロカはどういうお姉さんがよかだ?」
ふと、ロカ経由で攻めたらネビーを落とせる気がした。
チエに教える義理はなくて、諦める人のことを応援する気も起きないから、わざわざ言わないけど。 妹のために少し粘ったガントにはコソッと耳打ち。
「意地悪しない人。ルカ姉ちゃんやリル姉ちゃんみたいに優しくて遊んでくれる人がええ」
「そうだな。それは俺と気が合う。本当に優しい人はどこかにいるからいつか見つけるし、逆に俺を見つけてくれるかもしれない。だからいつか増えるロカのお姉さんはロカと仲良しになるし、うんと遊んでくれると思う」
お嫁さんはお嬢さんは耳にタコで、色白、タレ目、整った顔の美人よりは雰囲気がかわゆい凡々顔で痩せていない女が好みなのは長年つるんでいるから見ていれば分かる。
しかし「本当に優しい人」という単語は初耳だ。
「いつ? 明日?」
「あはは。明日は無理だな。家が建つ頃だから、ロカが大人になった頃。十六才で元服で大人だ。ロカはこの間七才になった。十六引く七はいくつだ?」
「えっーと、うーんと……十引く七は三だから……六増えて……」
両手の指を使って引き算をするロカを眺めながら、そういう計算の仕方なんだと、自分とは異なる発想に感心。
「九つ」
「ってことは、あと九回六月が来たら結婚してると思う」
「ふーん。アリサちゃんにそう言うとく。アリサちゃんの姉ちゃんはロカの姉ちゃんになりたいんだって」
「ロカが女学校に通う予定だから、そこの先生な気がする。子どもに好かれる人、生徒の為に頑張る女はええ女だからな」
また初耳情報確保。
女学生や女学校の先生を見かけてデレデレすることは知っているけど、性格的にもそういう人が好みってこと。
「だから沢山勉強して女学校に入って、兄ちゃんにお嫁さんを連れてきてくれ。ワンワン、ワンワン、ここほれワンワンの続きは読んだか?」
妹を女学校に入れたいからさっきのように話しただけか。
「ちょっと、やめてよ。つつかないで。あはは」
ガントの質問はどこへやらだけど、妹に話した内容は答えのようなものなので、ガントは何も言わない。
俺としては少し気になることが出てきた。
「おい、ネビー」
「ん? なんだ。酒をくれ」
世話焼きだけど気心が知れていると世話をされたい男になるから、こいつは俺には割と俺様男。
酒を注げというようにお猪口を差し出されて、最近あれこれ助けられているから文句は言わなくて良いやと素直にお酌。
「お前、ミユちゃんのこと結構好みだろう」
「なんだ急に。それならなんだ。俺がおっ、て少し思う女は大体周りの男が持っていくか既婚者だ。平家お嬢さんだから家が建っていなくても、一人暮らしを始めていたらちょっと考えるけど今は無し。そこにお前が突撃して気を引いたから縁無しだ」
「つまり、ミユちゃんにはそそられる?」
「ああ。友人の二人もかわゆいお嬢さんで目の保養だった。あのチエさんって子、十年待っててくれないかなぁ」
その気が全くないから文通流しをしたのかと思ったら気はあるのかよ! と心の中で叫ぶ。
「十年待っていてくれたらありならそう約束して待っててもらったらどうだ?」
「俺はこれから山程お嬢さんに会うんだぞ。絶対この人だって女がいるから約束するなんて嫌だ。裏切られるのもごめんだ。鉄は熱いうちに打てって言うだろう。会った時に準備出来ていないってことは縁なしだ縁なし」
「基本的には家を建てたら準備完了ってことか」
「そっ。具体的に建てるってなった頃でもよかだ。そうしたら君の好きなような家に出来ますって相手に言える。ルカと気が合わない女は無理だな。同居だから」
「お前は昔から色々計画だよな」
「ええ女が貧乏人の嫁に来るか。それなりにならないとそれなりの女は手に入らない。ええ男は他にいっぱいいるんだから。だから俺が断った女は皆、誰かと縁結びをする。あのかわゆい魚美人も強めに断ったから引いて、他の男と一、二年で祝言だ」
「お前はわざわざ文通流しなんてしたからな」
チエにはすっとぼけたけど、わざと文通流ししたことは聞いた。
俺の恋人の友人をつれなく袖振りは気が引けただけではなくて試したってことのようだ。
「俺好みの女が絶対に俺で、テコでも引かなくて、長屋で七人暮らしは楽しいからよかだって言うたら即祝言だ。あはは。そんな女は居ない」
昔々からの付き合いなのにらこういう話を聞くのは初めてだ。
ガントが「今のをノアに言うてもいいのか?」と口にした。
「俺好みから外れているから無しって言え。昔、よしよしって抱っこしていた子は無理。子どもの印象が強くて嫌だ」
「そうか? 俺はメグをよちよち歩きの頃から覚えているけど逆にそそられるけどな。ぺたんこ胸だったのにとか色々思う」
「お前はそういう好みってだけで俺は違う」
「俺も花組の子達はわりとダメだなぁ。ネビーと同じくずっと子ども感覚が強いから年上って思ってた」
「お前が年下に手を出すのは初だよな。イオ、俺だけまだミユちゃんに会ってないんだけどいつ会わせてくれるんだ?」
「ガント、その話があってお前も呼んだんだ。九月に結納してくれるって」
「へぇ、おめでとう。それならネビー、結納祝いの飲み会はお前が仕切れ」
「おう、分かった」
「めでたい話なのに浮かない顔だろう。辛気臭い。好条件をつきつけて火消しって仕事で釣ったから、あんまり惚れられてないんだってさ」
ネビーが愉快そうにニヤニヤ笑うので、腹が立って睨み返したけど無駄。
ガントも、
「惚れてもらえないなんて情けねぇ男。しかし、悲惨なのは好条件でも連れない時だ。マシな結果で良かったな」
と楽しげ。
「俺は相愛で祝言がええ。でもそんな我儘を言うて断ったら終わりだ。ミユちゃんと破談は嫌だ」
「この贅沢者。世の中には戦う武器がなくて泣く泣く撤退みたいな男もいるんだぞ。酷いと惚れた腫れたの前に文通拒否の門前払いだ」
ネビーの目が据わったのは、たまに愚痴るかわゆいお嬢さんとの文通を門前払いされた事を思い出したからだろう。
おそらく、ガントが先程、ネビーの過去の傷をほじくるような台詞を告げたせいでもある。
「もう三、四年経つのにお前は恨みがましいな」
「うるせぇ。俺はバカで忘れっぽいけどたまに記憶力が良くて陰湿なんだ。イオ、いっそとっとと祝言しちまえ。ロイさんは邪魔されるか、奪われるかってそれをした。祝言してから口説いた。あの人、リルのことだとめちゃくちゃだ。祝言時も貢いだのに、春にもすげぇ貢いだ」
「そうなのか?」
「誕生日祝いと結婚一周年って言うて高い反物をいくつも買ってくれた。ばあちゃんとルル達が仕立ててる」
誕生日祝いと聞いて、気分が落ち込む。
「あのリルちゃんの何がそのロイさんを狂わせたんだ?」
「知らねぇ。めちゃくちゃ大事にしてくれているからよかだけど。リルは喋るようになったしお洒落になったしどんどん勉強させてもらえてありがたい。別人みたいだけど話すとリルだ。変わってない」
「ねえ、兄ちゃん。リル姉ちゃんは今度いつ来る?」
「明日稽古で会うからロイさんに聞いておく。リルに手紙を書いたらどうだ? ロカはまだ字が書けないからルルとレイに頼んでみろ。何か言われたらルカやジン、俺に言え。代わりに書くから」
「うん」
「と、言うわけでそろそろ寝ろ。寝ないと成長しないからな」
「やだぁ。ロカは兄ちゃんと寝る」
分かった、分かったと告げたネビーは、ロカに聞こえないように俺達に「寝たら戻る」と告げて、ロカと手を繋いで去っていった。
「マジで父親みたいだな、あいつ」
「ロカちゃん、毎日世話してくれていたリルちゃんがお嫁にいってから赤ちゃん返り気味の甘えっ子って言うてた。ここにネビーに女が出来たら悪化するんじゃないか?」
「あー、それは確かに。少なくともそれが終わるまで女は後回しだな。周りは女盛りだから申し込みたい、早くだから噛み合わねぇ。これまでは縁談開始はまだかなって様子見されていたけど、最近は死屍累々って感じだよな」
「ほいほい人助けをして、あちこちで女の気を引くからな。その分軽症者が多い。幼馴染達は……長い分、もう無駄だって諦めがつくだろう。なあガント、とっとと祝言して後から口説くってあり?」
俺も本気そうな女は一刀両断して泣かせてきたから、こういうことは仕方ないと思う。
逆の立場になったから同情心は増したけど、だからと言って受け入れようとはならない。
「さあ? 入院費を出すから会え、とにかく口説かせろって言うたのと少し似ているからありじゃねぇ? でも九月に結納だから別に急がなくても」
「結納しますって聞いて浮かれて俺にベタ惚れになった? って質問したらなっていませんって冷めた顔で言われた。辛い。条件で決めるなら媚を売るとかないのかよ! いや、そこがええところだけど。ミユちゃんは自分に素直」
難攻不落のようでわりとすぐ気を許してくれたから口説き続けたらどうにかなる気がするけど、どうなのだろう。
デートの時に手を繋いでくれたのに、少ししたら嫌だと離されたし、どうやら入院していた病院で働く優しい先生に気があるようだ。
既婚者を勧めるわけにはいかないけど、俺とヤケクソみたいに結婚するのは良くない。
応援するとは絶対に言わないし俺は俺を勧める。
贈った簪を嬉しそうに見つめてくれていたけど、一度しか使っているところを見てない。
「お前はいつもバカだけどネビー並みにバカだな。ベタ惚れになった? じゃなくて十点中何点? みたいに聞け。二択でええ答えが返ってこなそうなのに二択で聞くな」
「俺がバカだった」
「ついでにウザいからそもそも聞くな。褒めちぎって口説いとけ。逃げないなら大丈夫だって」
「確かに逃げられていない。でも腑に落ちない。それで俺は惚れられて祝言がええ」
「少し好きって言われたって大はしゃぎしていなかったか?」
「言われた。でもあの後、後退した。身から出たサビだ。話したよな?」
「話してねぇよ」
そうだっけ? と首を捻って初デートの話をして、そのまま蜘蛛手紙男の事も教えて、捕まえたことまで教えた。
「お前がいなかったらどう近寄ったんだろうな、そいつ。お前がいなくても、他のお見合い相手に嫉妬して結局なんかしてそう。つまりお前は彼女を二回も助けたのか」
「助けたらストンって恋穴落ちしないのか? その時にそういう様子はまるでなかったのに、全然関係ない時に急に恋人になるって言うたり、助けてしばらく経ってから結納話が出たり、訳が分からん」
「前兆は無かったのか? 特に嫌いっていうか大嫌いな勢いから恋人になるって時に。半分って言うても毎日会いに行っても追い払われないって、半分は要らなくない?」
「前兆なんてなかった。あっ。真心があるって言われた。心当たりがないからある? って聞いたけど返事がなかった。全然違う話をされた」
「どんな話をされたんだ?」
「初めてのお出掛けはトランプ作りって言われた」
「トランプ作りって何だそれ」
話していなかったっけと思って話したら、初めて聞くような顔をされた。
そこにネビーが帰ってきて何の話をしていたと聞かれたから、トランプ作りの話だと伝えたら、ネビーにも話していなかったようで、なんだそれと問われた。
「お前は昔から老若男女に優しいから、子どもに優しいところを好まれたんじゃないか? トランプ作りの時に好感度が上がったんだろう」
「あれだけで? へぇ。そうだったのか。でも初デートの時にその好感度はただ下がりだ」
「腹を立てて帰っちまったのか?」
「いや。女に叩かれた後に一緒に病院に行って、皆でトランプ作りをした。その後、あまり大きくないけど地震があったから出勤」
「好感度は下がってないんじゃないか? その後も会ってくれてるんだろう? しかも結納話に発展。むしろなんかええ事をしたんじゃないか? お前が認識していないだけで」
「……そうなのか?」
「五日後は誕生日だから祝ってくれって言うてみろ」
ガントにそう言われてデコピンされて、ネビーにも、
「あんまり気持ちがない相手に対して引いても無駄だから押しとけ」
と髪をぐしゃぐしゃにされた。
その後、ガントが嫁を彩り繁華街に連れて行ったらすこぶる機嫌が良いという話をされたので、お店などの情報を入手。
引いても無駄なら、明日、朝からミユに会いに行って、後はその時の様子で動こうと考えながら帰宅。
水浴びをして爆睡して、朝、鍛錬後に風呂屋に行って、そのままミユの家へ押しかけた。




