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私は静かに暮らしたい  作者: あやぺん
本編

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10/43

彼の欠点

 何度も自覚のようなことが起こるし、イオが食い逃げ犯捕縛を手伝いに行った時からドッ、ドッ、ドッとやたら心臓の音がうるさいから、流石に自分は彼に惹かれていると認めている。

 しかし、兄が何やら悪い情報を仕入れてきたようだ。


「シノさん、どのような話を知ったんですか?」


「母さん、彼には恋人が三人いるそうです」


「……」


 結婚したいなんて言って親も含めた話も始めておいて、私は四人目なの⁈


「顔が良い火消しさんですからねぇ。性格も良いように感じますし。何もない方が不思議です。でも三人はダメ男です」


 母が怒らないでちょっと困った人、みたいな軽い雰囲気を出したことに兄がまたしても頬を引きつらせた。


「母さん! ええ年をしてうんと若い娘の縁談相手に先程うっとりして、次にこの発言とは何を考えているのですか!」


「うっとりなんてしていません。恋人が三人は間違えで、恋人のように見える方がいるということではないかと思っただけです。見ていたのなら分かるように、私にでさえあの調子ですもの。気をつけてミユさんには触りませんでしたよ」


 それは多分、私の大嫌い発言と今日ネビーに念押しされたばかりだったからだろう。


「いいえ、母さんはオババのくせにうっとりしていましたー」


「なんですかその口のきき方は。中等校に入れれば良かったわ。あっ。頭が足りなかったんだっけ」


「うぐっ。息子にそういう言い方をしないで下さい。おかげでミユの学費がありました」


 兄も若干騒がしい側の人間なので、結婚して私と姉が嫁いでいなくなるまでは近くの長屋で夫婦で暮らすと出て行ってせいせいしているけど、会うとこんな。

 お嬢さん風なんて無理だし勉強もそんなにと小等校を拒否して寺子屋だけで写師見習いになった姉といい、この兄といい、私とはかなり異なる。

 上二人がうるさいから私は静かになって、代わりに兄や姉からの理不尽に抗うために勝ち気になった。

 玉の輿になるからか、顔が気に入っているのか、性格が好みなのか分からないけどイオを庇う母と、妹を女にだらしのない男の嫁にさせるかというような兄が言い合いを続けていく。

 そこへイオがやってきて、私達の様子を確認して兄の前に着席した。


「お待たせしました」


「いえいえ。あのようにお子さん達に接して感心です」


「お母さん、ありがとうございます。それで俺の何をというか、女関係ですよね? 何がどういけませんか?」


 これまでの会話の流れで彼の恋心は私に対してが初めてで君だけみたいに言っていたのに、恋人は三人もいたのが問題だし、さらにこのように開き直るの⁈


「コホン。父と母から聞いた話では、恋人はいなくて一般的な独身男性くらいの女性関係だとうかがっています。ご両親と貴方からそう聞いたそうです。ですよね、母上」


 さっきまで母さんと呼んでいたのにこれ。

 平家奉公人だから火消しよりも格下なのに、格上風に上から目線で良いのだろうか。


「いえ。この通り顔がええので、モテる独身火消し並みくらいだと話したと思います」


「恋人が三人いるという噂を聞きました。話が違うので説明して下さい。我が家や親戚は平家の中でも安泰の分類ですので堅実を望んでいます。父は娘に無理をさせて高望みさせる気はありません」


 その父がここに居ないけど、兄は父と先に何か話しをしたのだろうか。


「恋人はいません。他人から見たら恋人に見える女がいるんでしょう。心当たりはあります。でも三人では済まないと思うんですよね」


「……」


 サラッと告げられたこの言葉でこの場の空気が凍りついたと思ったし、私の体もすうっと冷えていった。


「ほら、言ったじゃない。言動や振る舞いで相手の女性が勘違いしたり、周りが誤解しているだけって」


 母が胸の前で手を合わせて嬉しそうに笑うと、兄は母を睨んだ。


「そうそう。恋人にはしないとか、恋人にするのは嫁候補だけってしっかり言うてます。そうしてきました。だから恋人がいたことは一度もありません」


「はぁぁぁぁあ⁈ それならユウリさん、ミサさん、ロウラさんはどこのどちら様ですか? 同時並行だという噂は知りませんが恋人はユウリさん、恋人はミサさん、恋人はロウラさんと、それぞれ何人かから聞きました」


「全員、俺の追っかけです。基本は無視というか他の区民と同じ扱いをしているけど、祭りではしゃいで宴会中で結構酔っている時とかに、あっ、ていう時があります」


 あっ、て何。


「あっ、とはなんでしょうか」


「お兄さんにはないですか? 酔ったり昂って花街みたいなこと。追っかけ達は酔った俺には花芸妓代わりです。花芸妓に会ったことはないけど」


「……。いえ、ありません」


 今の()は何。


 お金を払うとある程度まで触らせてくれる、花街内でしか働かない特殊な芸妓が花芸妓。

 普通の芸妓はお触り禁止で、男性とは喋らないこともある。

 彼女達は家族の宴席に華を添えてくれたり祭り等に関与するので、若い人から年寄りまで幅広くて全くの別物。なにせ芸妓の最高峰は神職だ。

 私はもう元服して約一年半が経過しているから、教養として必要な色花春知識を有しているので、今の会話の内容は理解出来る。


「新婚さんらしいからありませんでした? の方でした。結婚前に何一つしていませんか?」


「……」


 兄は視線を泳がせた。

 甘いような、絶対に兄ではない香の匂いをさせて深夜に帰宅したり朝帰りしたことは何度もあるので、答えはいいえしかない。


「ありません。そのような事はないのが普通の一般的な男です」


 兄は嘘をつくことにしたようだ。


「一般的じゃなくて金無し、女嫌い、男色家、色欲無し、潔癖症、独自の理由があってかなり理性的。そこら辺です。それは一般的ではないですよ。そのどれかですか?」


「そこに入っているかなり理性的です。かなり理性的ではなくて、それが一般的な男性です」


「それなら理性を保つ理由を説明出来るはずだからその理由を教えて下さい」


「夫婦とは貞節を誓うものです。格上達の政略結婚なら話は別なんでしょうけど」


「いや、だから俺はお兄さんが独身の頃に何もしなかったと言うからそれはなぜですか? と問いました。何かしたっぽい雰囲気は横に置いておいて。全身未使用だったぞと主張する理由を聞いています。恋人がいたからってサラッと言えないってことはいなかったんですね」


 お見合いして結婚に至るまで兄に恋人が出来たことは無かったのでイオの指摘通りだ。


「恋人くらい居たことがあります! 未使用って、そ、そのような話を妹の、若い女子(おなご)の前でしないで下さい!」


「元服後で色話も知っているはずだし、そういう話を始めたのはお兄さんじゃないですか。恋人くらいって結婚したい女が恋人なのになんで別れているんですか。しかもくらいって失礼ですよ」


 イオが若干嫌悪みたいな表情で兄を見据えた。

 彼としては非常識な物言いだったようだけど、恋人が居たことはないのに嘘をついた挙句にそうなるってどうなの。


「そもそもお兄さんと呼ばないで下さい!」


「それはそれ、これはこれで話をズラさないで下さい。独身時代に全身未使用品だった理由を述べて下さい」


 兄は薮蛇という感じで気圧され気味。


「……だから当たり前の一般常識です!」


「恋人が居なかったら元服だー! って花街に乗り出すのが一般的でしょう。そんなしょうもない嘘をついてどうするんですか。どうせ筒抜けですよ。お母さんは呆れ顔、ミユちゃんはこの嘘つきっていう軽蔑の目でお兄さんを見ています」


 こう言われた兄は、母と私を見て顔を赤黒くしてイオを睨みつけた。


「花街にいる女も種類がいるんで一概に可哀想ではないです。主に自ら希望してなる短期登録者は興味本位、お小遣い稼ぎ、色好き、俺らみたいな人気職食い狙いなど色々で貞淑そうなミユちゃんは知らなそうな世界です」


「世間知らずではないので、そういう同級生もいたので、話くらい知っています」


「危ないのに区立女学生らしき子もたまにいるもんね。知ってても行ってないよね?」


「ええ、まぁ。一回、コソッと見学はありますけど何もないのに怖くて逃げました」


「……あなたは何をしているの!」


 母はこれに関しては怒るらしい。イオがあけすけなので、つい口が滑ってしまった。


「何してるのミユちゃん! お披露目広場とか、服や小物とかの流行りが早いから楽しいお店とか、気になるところはあるだろうけどあそこは信用出来る男と行く以外はダメ。変なことに巻き込まれることもあるから、若い女性だけで行くなんて論外。ちょっとお兄さん。どういう教育をしているんですか! ちゃんと連れて行ってあげて下さい!」


 イオの女性関係を兄が怒る話だったはずなのに逆になった。


「えっ? いや、そんな話は今初めて知って……」


「知っていることはしっかり教えないと。一般的な男は色欲ボケのバカだから教えないと身を守れません」


「いや、あの。そういう話は妹とは……」


「俺は妹は居ないけど妹みたいな花組の子達がいるから教えるし、火消しではない俺の幼馴染も言うていますよ。キチッとしなさいとかなんとかかんとか。ミユちゃん。俺の恋人になってから一緒に以外は行かないように。ちゃんと守って観光案内をするし、かわゆい最先端の小物探しもするから。もちろん俺が買う。買いたい」


「あんたなんかと妹を花街へ行かせる訳があるか!」


「発想が色ボケでうるさいなぁ。お洒落なデート場所の面やそういう領域もあるからそういうところっていうのと、そこも女の子同士では何かあったら危ないって話です。俺は何もしないけどご両親が安心するように付き添いをつけるに決まっています。大事にしたい女で結婚前なんだから当たり前です。なんなんですか」


「うる、うるさいなぁ?」


 イオは兄に対してうんざり顔を向けた。


「俺に説教出来るのは幼馴染の一人くらいです。身に覚えがあるのにどの口が。お兄さんの相手は短期登録者でしょう。それかお金を貯めて握りしめて憧れの格子遊女。違いますか? 遊女に手を出したことは一度もないですか? あるって顔に書いてあるから信じませんけど」


「お——……」


 兄が何かを言う前にイオが続けていく。


「俺はそれは最低だと思います。苦界で辛いことの多い遊女を買うなら金持ちじゃないと。なんなら金は出すけど抱かないくらいが正解。頭も下もゆるい女がいるのに、わざわざ可哀想な方を選ぶのは理性無しですよ理性無し」


「おい。なんだその喧嘩越しは」


「売られた喧嘩は買うのが火消しです。恋人なしの独身男が可哀想じゃない乗り気なエロ女と火遊びすることの何が悪いんですか。こっちから口説かないし、恋人にするとか結婚するみたいに騙していません。何がどう悪いか説明して下さい」


 どう悪い……のだろう。とりあえず態度は悪い。上がっていっていた印象もただ下り。


「何が悪いって女心をなんだと思っているんですか!」


「火遊びで純情乙女には手を出しません。そんなの当たり前じゃないですか。自尊心や優越感やエロ女心とエロ男心の利害の一致です。平均的なくらいでなるべく理性を保って別に食い散らかしていなくて金も使っていないです」


「そもそも、そういう悪びれていない態度が気に食わない!」


 私もそれはそう思う。


「何が悪いって言うたのに答えをくれないから反省しようがないです。お兄さんは金を浪費してそうな分、俺よりも理性無しですよ。金は大切ですよ。俺よりも稼げなそうなのに何をしているんですか。俺はミユちゃんみたいに貢ぎたい女や子どもの為に、ちゃんと節制してきました」


「それはその……。いや、だから俺はそういうことはしたことがありません!」


「俺、嘘つきは嫌いだからお兄さんが兄貴になるのは嫌なんですけど。直して下さい」

「んなっ! こっちが願い下げだ!」


 悪びれていない態度に私は少々ムカムカしているけど、ここで「何もしてきていません。女性関係はとても綺麗です」と言われても絶対に信じないし聞き込みしたらすぐに分かる。

 そしてイオに言い負かされている兄に関してはその通りだと思ってしまう。

 遊んでいるのは想定内だし、むしろあれこれ考えて遊んでいるんだなという印象。

 一方、兄は何も考えてなさそう。


「借金登録の遊楼(ゆうろう)遊女遊びをしていたらもっと理性無し。あんなの可哀想でしかないのに。可哀想って言うたらぶっ飛ばされて拐かされて金をむしり取られそうですけど。話していると強くてええ女達とも思うんで」


「話したことがあるなら買ってるじゃないですか!」


「いや、色男食いをしたい遊女もいるから連れ込み茶屋などにいると向こうから来てくれて話してくれます。仕事だから悪いけど、手垢だらけは嫌だから抱きませんけど。応援で花街へ仕事に行くこともあるから世間話をすることもあります」


「何をしているんだお前は。それで何でそんなに開き直っている!」


 しおらしくすみません、で終わらせないでこんなに話して挙句に兄に喧嘩を売る必要はあるのだろうか。

 喧嘩を売ったのは兄で、火消しは喧嘩を買うものと言ったか。


「俺の幼馴染達がベラベラ教えるだろうから事実を言うしかないだけです」


「どうせ根回しして嘘をつくんだろう。今、こうやって大袈裟に言うておけば違ったんだって騙せるからな」


「あと言われそうなのは……追っかけその他が付きまといになったら怖いから、酒が入っている時に抱く手前まで好き勝手して覚えていないって言うことにしています」


「……」 

 

「怖いから記憶を失くすまで飲んだりしませんし女の横で寝ません。でも飲むと記憶を失くす男って周りに思われています。親しい幼馴染は違うって知っています」


 酔った振りをして女性に手を出して、ごめん覚えていないって逃げるって最低。


「なんつう無責任な男なんですかあなたは!」


「無責任って抱いていないから責任なんてないです。きゃあきゃあ触られたい女と遊んだだけで強姦魔の真逆です。俺は内心嫌そうな女に色春は無理。なんで出来るんですか? 一度もお嫁さん以外に吐き出した事がないのなら俺に説教出来ますけどそうですか?」


「だから俺は妻しか知りません!」


「はいはい、嘘ですね。無責任は相手の女も同じです。俺だけみたいな女には手を出しません。地元以外で会ったその時限りの名前も知らない女は別として。追っかけは怖くて抱かないからそっちばっかりです」


「は、ばっかりってなんですか!」


「抱くのは年に数回くらいです。月に何度もがええけどそんなの理性無しの色者だから気をつけています。最後までするのはそのくらい。同じ人は相手にしません」


「お、おう。そうなのか。数回……嘘だろう! 目の前に母上やミユがいるからって過小報告するな」


「去年の記憶はあいまいだけど今年はまだ一回です。一般的から逸脱したら女に嫌われて火消し全体の評価も下がって身内にボコボコにされるんで抱くのは我慢しています」 


「のは、っていうことはそこまででなければ我慢しないってことだな」


 兄がようやく的を得た指摘をした。


「ええ。手前はまぁ、酒のせいだとか、火消しは仕方ないなぁって許されるから、それは一般的な男より派手だし火消しとしても少し多めでした」


「いけしゃあしゃあと。この破廉恥(はれんち)男。背伸びして区立女学校に通わせたかわゆい妹をお前みたいな女たらしの嫁にするか」


「お兄さんはモテなそうだから、そういう浮いた話も都合のええ女もおらず、金を払って花街であれこれでしょうね。金を無駄遣いだし辛い仕事に加担なんて卑劣だからやめた方がええですよ。格上狙いなのに可哀想。お兄さんより俺の方がマシだと思うんですけど」


 これ、わざと挑発しているのかな。兄がブチ切れそうになっている。


「お、表に出ろ! もう許さん!」


 あっ、ブチ切れた。


「まぁまぁ。お兄さんが秒で地面だからやめておきましょう。怪我はさせませんけど、お兄さんが惨めな気分になって心に傷がつくので嫌です。これ、口喧嘩は俺の勝ちですね。あはは」


 額に青筋を浮かべて勢い良く立ち上がった兄と、呑気そうに笑っているイオだと大人気(おとなげ)ないのは兄の方だ。


「シノさん、座りなさい。貴方はあまりイオさんを責められるような男ではないのだから。自分を棚に上げて質問にも答えずに一方的に怒りなさるな」


 母はこれまでのイオの話を聞いても怒らないようだ。


「何を言うているんですか母上!」


「シノさん、座りなさい」


「……はい」


 兄は舌打ちしてから着席してイオをさらに睨んだ。


「本人の気持ちが一番だと思うんでミユちゃんに聞きます。過去に惚れた女がいて口説きまくってしこたまヤッて末の松山って呼んでいたのに破局。それが一人、二人、三人っていて、そいつが君を末の松山と呼びたいって言うたら嬉しい?」


「け、けほっ」 


「貴様! 言葉を選べ!」 


「あっ、今のはすみません。つい」

 

「……。過去に恋人がいたことを、そういう言い方をされたら嬉しくないです」


「嫌だよね」


「ええ」


「大嫌い?」


「そこまでではないです」 


「恋人が居た男よりも居なかった方が嬉しいって思う?」


「ええ」


「お母さん、お兄さん、そしてミユちゃん。俺に恋人はいませんでした。初恋のアキちゃんは好きですって言うたら嬉しいって言うてくれたのにすぐ祝言。五才じゃ結婚出来ませんでした」


 恋人が居なくても女性関係は派手だったようだけど、兄でさえ女関係は何もなしではないから、イオが派手なのか普通なのか、モテる男性ならそんなものなのか分からなくなってくる。

 

「ふふっ。かなり年上の方が初恋だったのですね」


 母は微笑ましい、というように笑った。

 イオが話したことなら許しなさい、一般的に許せる範囲ということなのだろうか。

 私はもやもや、イライラしている。

 女性の体に触りまくり、キスしまくり男なのはイオや友人達の言葉の端々や火消しの女遊び話で既に理解していたつもりだったけど、具体的に説明されたので嫌悪感。

 いや、嫌悪感というよりも多分これは嫉妬心だ。


「ええ。幼馴染の従姉妹です。次の恋は半元服過ぎくらいで、その子に兄より弱いのは嫌だと言われて兄貴に勝負を挑んで枝で恐ろしい突きを寸止めされて睨まれて漏らして、幼馴染にもですが、女の子達に笑われて心がズタボロになったので、恋とかどっかへ消えました」


「それも子ども心の恋のようですが、五才の時とは違そうです」 


「いや、似たようなもんです。その次は十三、四の頃に別の組の花組の子を気にかけたけど、三股しているって知って冷めました。気がついたら今日です。三人と全然違くてこれが恋なのかと驚く日々です」


 そうなんだ。


「据え膳は美味しそうで危険が無ければ食う派でしたが、今は特に食べたくないです。ミユちゃん以外の女は俺に触るなって思います。誤解されたくないのもあるけど単に嫌悪です。俺の全身はミユちゃんのだそ、的な」


 目が合ったイオは先程までの余裕のある感じではなくて照れ臭そうにして、目を泳がせて、髪の毛を掻いた。


「娘にそのようにありがとうございます」


「運が悪いと病気をもらうっていうけど特にないです。何もないけど薬を処方してもらっておきます。期間ももっとあけてさらに何もないぞと確認します。ミユちゃんの健康を損ねたら大変ですし俺が嫌です」


 私に手を出すぞって意味なので恥ずかしいことこのうえない。


「そうですね」

  

「めちゃくちゃ律儀な幼馴染がいて、他の何かは同等だったら、女関係で叩いても埃が出ない男が競り勝つなどと言われてきたのに耳を貸さなかったので反省しています」 


「そうですか。反省するのは良いことです」


「結婚したらほぼ遊ばないから独身でいました。ほぼっていうのはお嫁さんに蔑ろにされて一切触らせてくれないとかそういう時です。この間も話した通り、火消しの嫁は家宝です家宝。結婚したら遊べないって言う奴は信用出来ません。お兄さんはそう言いそう」


 イオは母に向かって会釈してから兄を軽く睨んで二人は睨み合い。


「はあ? あなたの方が余程信用出来ません」


 兄とイオはバチバチなのに、母はニコニコ笑っている。

 極論を言えば初恋だと言われて恋人になってお互いだけ、みたいな夫婦になれる事に憧れる。

 しかし兄がいるから元服時に花街だーという感じになるのも、お金がある家だと色知識や色技術を、お嫁さんの為に花街で学ぶいうことも知っている。


 チエが兄達の話を盗み聞きした感じだと、花街の遊女から教わるのは講義だけのはずだけど実技だなんだと手を出したり、そこから結婚まで遊女にそこそこハマるらしい。

 元服前の男性と恋仲にならない限り、私みたいな現実にはいなそうで本の中にしかいないだろう男性に憧れる乙女の夢は叶わない。

 叶っても裏切られそう。

 男性の色欲については犯罪に巻き込まれないようにあれこれ教育されたし、文学からも色々と醸し出されている。

 

(こういう話をしなかったら深く考えなかったな。恋人がいたんだって後で知ってあれこれ悩むとか、夫が花街通いで苛立つとか、文学では読んでいるのに)


 恋愛系の龍歌も私にはまだまだ共感出来ないものばかり。

 スズやチエのお見合い話でこういう話題も出したとか、確認したなんて聞いていない。

 恋人がいたことはありますか? と質問したなんて話もそういうことを聞きましょうという話も聞いた事がないし、教わったことも発想もなかった。

 ましてや女遊びの内容やその考えは? なんてなおさら。


 この話を聞いた私はイオをどうしたいか、と自問自答。

 どうやら恋穴落ちが始まっているようで、断固拒否で接近禁止令という気持ちはまだなくて、もしもなったら私が初恋人だとか、お嫁さんは家宝という言葉を信じたいだから、どうかしている。


 恋は盲目腐り目だから気をつけて信頼出来る者達の意見を聞きなさいっていうのはきっとこのこと。

 すんなり過去は過去ですから気にしません、なんて笑って言えるはずもなく。


「では、娘とは縁が無かったということで」


 母が醸し出していた雰囲気と真逆の事を笑顔で言った!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 余裕のある男性は素敵 でも、お母さんもっと素敵! 冷静に、娘が幸せになれるかどうか判断してる! 余裕のある態度と驕ってる態度って紙一重ですよね 対してお兄ちゃんは小物すぎる…
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