兄の悩み
お兄様に呼ばれて、お兄様の執務室へ行くとすごく悩んでいる様子。
「お兄様どうなさったのですか?」
「ああシルビア、難問を突きつけられているんだ」
何のことだろうと彼の側近であるキースを見ると何だか苦笑いをしている。
「キースは原因を知っているの?」
「ええ」キースは頷いてお兄様を見た。自分から話していいのか聞いてるのかな?
お兄様は渋々頷いている。
「実はフレデリック様のお妃候補が絞り込まれたんですが… そこからがなかなか進展がなくてですね」
なるほど、お兄様は次の国王だから、昔お父様が妃選びをしたみたいに、お兄様のお相手も着々と選ばれていたのか。
今までその話を知らなかった私もつくづく自分の事でいっぱいだったと反省した。
この所兄妹で話をよくするようになり、今までも2人がずーと私の事を気に掛けていてくれた事に改めて気づかされた。
私はずっと兄妹や両親に必要以上に関わらないようにしてきた。
小さい時は特に私の魔法の存在を知られないために。
その後はダメな王女を演じて引きこもっていたから、必然的に関わりは薄くなっていったのだ。
もっと早く兄妹で話をすればよかった。
もっと早く家族に寄り添えばよかった。
ここへ来て、この何年間の事が悔やまれた。
もうすぐここを出ていくと思うとなおさらだ。
前だったら、何も言わず出ていけた。
その後も多分家族を思い出す事もあまりなく過ごしていっただろう。
でも今は少し後ろ髪を引かれる。
「それでだな、シルビアお前に一緒に考えてほしいんだよ」
は! 考えに落ちてしまっていた。
いけない、いけない。
キースがお茶を出しながら、詳しい話をしてくれた。
お兄様のお妃候補は4人、いずれも魔法の質、魔力量とも魔道士クラスでお妃教育の基本レベルは問題なく誰か1人を選ぶ決め手にかけるらしい。
「お兄様に好みはないのですか?」
「それなんだが…」
誰を見ても、別段心を動かされる事がなく、内面を知りたいと思ってもみんな素直に本心はさらけ出してくれない。
上っ面だけを見て決める事が恐怖でしかないと言う。
どうもフレデリックお兄様もエドワードに負けず劣らず両親や側妃たちを見てきた所為で恋愛に対して歪んだ価値観が出来上がってしまったらしい。
両親は仲むつまじく想い合ってはいたが、母が亡くなってからの母に対する父の未練。
ただただ自分の感情ばかりを押し付けようとするイザベラ様。
父の事を尊重し、正妃に取り立ててもらえなくても献身的に尽くすナタリー様。
それらを1番年上のこの兄は間近で見聞きしてきたのだろう。
その中で父やナタリー様への憐憫やイザベラ様への嫌悪… そんな気持ちが自分の結婚に大きな影を落としているんだ。
まさか、完璧だと思っていたお兄様にこんな一面があったなんて…。




