イザベラの回顧
どうして?
どうしてこんな事になったの?
エドワードが私に反抗するなんて!
しかも私のエドワードがシルビアと婚約したいなんて嘘よ!
陛下と私の子なのよ。
あんなマチルダの娘なんて絶対にダメよ!
あの日洗礼式で前陛下のお目に止まって、私の人生は一変した。
思っても見なかった幸運に酔いしれた。
そしてハロルド様に初めて会ってひと目で惹かれ、この人の妃になると心に決めたのだ。
なのに、いつもいつもあの人の側にはマチルダがいた。
あの女が正妃に選ばれた時は怒りで我を忘れた。
悔しくて悔しくて仕方がなかったけど、待った。待った。
次のチャンスを待った。
ずっと待った。
先にナタリーが側妃になっても、もうチャンスはないと言われても諦めなかった。
やっと… やっと私が側妃になることが出来た。
なのに今度はハロルド様が会いに来てくれない。
折角、あの人の妃になったのに… 私の所へ来てくれないのは、きっとマチルダの所為だ。
いつもマチルダが私の邪魔をする。
あの女さえいなければ、きっとハロルド様も私を見てくれる筈なのに。
お義父さまに訴えて、やっとハロルド様が会いに来てくれた。
これでハロルド様も私を見てくれると思ったのに…。
初めてハロルド様が私のもとに来て下さってから、何度も手紙を送り、会いたいと懇願するけど、なかなかいい返事は貰えない。
きっとマチルダが邪魔をしているに違いない。
数ヶ月たった頃、やっと会いに来てくれる事になった。
待ちに待った日、私は突然体調を崩して倒れた。
エドワードを身籠ったためだった。
ハロルド様は労いの言葉をかけてくれたが、出産するまで会いに来てくれる事はなかった。
生まれたのが王子だったから、ハロルド様はとても喜んでくれたわ。
そうでしょ? だって世継を生んだんですもの。
あの女の子供より私とハロルド様の子供の方が次の王にふさわしいはずよ。
エドワードの誕生と時を同じくしてマチルダの懐妊が伝えられた。
まさかあの女も男の子を生むことになったら…。
只でさえ第1王子を生んでるのに、このままではまたあの女に差を付けられてしまう。
そう思うとたまらなかった。
数ヶ月後マチルダが生んだのは女の子だった。
私は安堵した。
やっぱりエドワードこそが跡継ぎにふさわしいのよ。
それにはマチルダと子供達が邪魔だわ。
そう考えるようになった。
ある年の狩猟祭、お義父様の領地が狩猟場に選ばれだ。
私も参加することにして、久しぶりにゲンドリオ侯爵領へ行く事になった。
狩猟祭は大いに盛り上がりゲンドリオ侯爵の名声も上がり幕を閉じた。
王宮へ帰る前夜に、私は眠れず屋敷の裏庭に出ていた。
狩猟祭の最中ずっとマチルダが陛下の側から離れないから、私がハロルド様に声をかけても、全て躱されてしまった。
私の中にはハロルド様への思慕とマチルダへの憎悪が混じり合い混沌としている。
その思いが私を徘徊へと導いた。
気がつくと森の入口まで来ていた。
大きな石の近くに真っ黒い塊がこっちを見ていた。
真っ赤な目をしたその物体は不思議と怖くなかった。
何だか自分に語りかけるようにこっちを見ているそれに手を伸ばす、そしてそのまま部屋に連れて帰った。




