エドワードの乱心
「エドワード! どういうことなの!
なぜ私の手紙を侍従から奪ったの!」
イザベラは甲高い声でエドワードを叱責した。
くそ! 母上に手紙を奪ったことがバレてしまった。
あれ程黙ってろって言ったのに…。
まあ1ヶ月以上たっても相手から何も言って来なければ、いくら母上でも変に思うだろう。
1ヶ月ほど時間稼ぎ出来て、よかったと思うべきだな。
その間にオレは貴族院の爺どもに根回しに走り回った。
もちろん、シルビアと私を婚約させろと言う話だ。
あまりいい返事がもらえず、とうとう父上に直談判しょうかと思っていた矢先だった。
「なぜ? そんなの決まってます。
シルビアを他国へやるなど反対だからですよ!」
「あなただっていつもシルビアの事を出来損ないと言っていたじゃない!
別にそんな子がいなくなっても、問題ないはずでしょ?」
「ええ、でも反対なんですよ。なぜならシルビアはオレと婚姻するべきだからです。
オレがシルビアに厳しい事を言うのは、あいつを少しでもましな魔法を使える女にするためです。
オレの隣にいてもいいような女に躾てたんですよ。
だから、いくら母上でも、あいつに手を出すのは許さない」
「な、なんてこと…」
母上はそのまま頭を抱えてしゃがみこんだ。侍女たちが慌てて介抱している。
オレはそのまま部屋を出た。
そんなに驚くことか?
昔は周りでそんな噂はよくあっただろう。
そう、シルビアが洗礼式をする前までは、オレたちを一緒にする声は確かにあった。
そして、オレはもっと前から、そう初めてシルビアをみた時から決めていた。
オレは母上に溺愛されていると言われているが、小さい頃母上はオレに興味などなく、生んだ事さえ忘れているようだった。
オレはいつも侍女と侍従に世話をやかれ、母上の顔をみる事など殆んどなかった。
そんな幼少期のオレを気にかけてくれたのは、マチルダ様だった。たまに彼女に会えるといつもやさしく微笑んで、私を気遣ってくれた。
廊下に飾ってある王族の絵の数々からマチルダ王妃の肖像画を眺め優しい微笑みに慰められていた、この方の子供ならよかったのにと思っていた。
シルビアと初めて会ったのは7才くらいの頃だ。
兄妹なのに、それまでオレは1つ下の妹を見たことがなかった。
それが母上の所為なのか、父上の意思だったのか、オレには分からないけど、初めて会ったシルビアはマチルダ様にとてもよく似ていた。
そして、ずっと会った事がなかった分兄妹と言う気がしなかった。
その後何度となく聞こえて来たオレとシルビアの婚約の噂。
それを聞くたびにオレはシルビアを意識した。
そして、マチルダ様に、とてもよく似た妹を自分のものにすると心の奥で決めたのだ。




