プロローグ
始まりの戦争。
『みーつけた…』
「ひっ……!」
燃え上がる炎。逃げ道はない。
「た、助けてくれ…!」
『助ける……?アタシが?』
フッと笑みを浮かべて、また真顔に戻る。
『よく言えたものね…。…皆…アタシに…殺されるのよ』
「や…や…ヤメロォォ!!!」
振り上げられた剣。黒い羽と、赤い鮮血が舞い散る。
『アハハハハハハ!!!殺してやる!!!貴様等をっ……皆消してやるぅっ!!!』
「…そうは…いくものか…!」
『?!』
そこにいたのは、一人の老天使。そう、彼こそ…
『あら…?あなたは…、全てを見守る大天使?やっと…やっと、でてきたのね…?』
体中を血に染めた少女の眼が、殺意に輝いた。
「まさか…こんな少女が…こんな、戦争を…」
異変は、ほんの二時間くらい前に起きた。大天使…オーディンの体に、恐怖が突き抜けた。
何か来る。何かが…
予感したときには遅かった。一瞬にして、城を護る役目を持つ黒天使の殆どが殺された。
一体、何に?
とにかく、その何かが起こった場所へ向かうことにした。
「?!」
しかし、もうすでに敵の配下に城を囲まれていた。
単体では弱いが、数が多過ぎる。一体を倒している間に、後ろを捕られてしまう。ここでもたくさんの犠牲がでた。
傷ついた仲間を癒す白天使も、処置に間に合わなくなっていた。
二時間後…ようやく相手の所へ着いたと思えば、想像以上に屍が散らばっていた。
そんな恐ろしいことを…誰がしたかと思えば…
こんな小さな女の子が。
『私の…願い…天使を…お前等を…オマエラヲ…皆殺してやるっっ!!!』
「待て…!何故だ…!何故そんなに天使を嫌う…?!だって…だって、君も…!」
そう。少女の背中には、血に染まりながらも…ちゃんとあった。美しい…銀白色の羽が。
ニヤッ、と妖しい笑みを浮かべ、少女は剣を振り上げた。
『我が名はクラリス…銀白色の天使……。大天使…お前を殺せば…全て…!!』
「そうはさせないと言ったはずだ!!」
巻き起こる風。闘う二人。
あるはずのない姿。同じ、天使なのに――――
傷つけ、傷つく。
そんなのは………
「いけない……!!」
『うっ!!』
終わらせたかった。それだけだった。それなのに…
また、傷つけた。
オーディンの剣が、クラリスの腹を突き抜けた。
『くっ……!』
黒い血が溢れる。重傷…。
『く、そっ…!』
そういって、クラリスは空に消えた。
「……。」
終わった。普通ならほっとするはずなのに、どうしてだろう。
手の震えが止まらない。
人間と同じ。