少女の日常
ふわりと広がるカーテン風が心地よく入る教室の窓側の席で読書にいそしむ少女各務 那桜。旧家のご令嬢で容姿は艶やかな黒髪、でもふわりとして重くは見えない。黒曜石の様な瞳は少し潤んでいるように見える。目鼻立ちは整っている所謂美少女と言うやつである。
そんな彼女の見た目に憧れる者はいるが決して声をかける事もとい告白する者はいない。
フルフルと震え始める彼女は突然持っていた本を机に叩きつけるように置き髪を搔きむしり叫びだした。
「ちょっと待ってぇ!!この先どうなるんだぁぁ!!何でここで以下次巻に続く?!それは無体だろう!!これからどうなるって言うんだみつおぉぉぉぉ~~~~~~!!」
周りに居たクラスメートは、生温かい目でそんな彼女を見ていた。彼女の奇行はいつもの事だ。何もない時など体調でも悪いのか?と心配になる。那桜は誰もが憧れるような美少女だが性格がおっさんに近い変人だ。その為女子も悪感情など抱かないし男子も欠点があるのがいいよね~でも色んな意味でお付き合いしたいという気持ちよりも彼女は観賞用だよねと言う気持ちが高い。その為虐めなどは無いが付き合いは可もなく不可もなく浅く広くなお付き合いである。所謂仲の良いクラスメートである。
お行儀悪く足を机にかけ頭を掻きむしって叫んでいる那桜に影が差した。その影を作る症状が徐に丸めた教科書を振りかぶり那桜に向かってフルスイングした。クリティカルヒットである。
スッパーンといい音がした。
痛かったのか涙目でそれを成した少女に顔を向けて抗議の声を上げた。
「何をするんだね?!美南さん?!頭が割れたりもげたらどうする気だね?!」
「どうもしないわよ?って言うかこれ位で頭が割れたりもげるわけないじゃない」
さらりと返されてちょっとむくれる。
チラリと美南を見て視線を落としふと周りを見る。あ、私はまたやっちまった!!と理解した。
「いやぁ皆スマンちょっと漫画で超いいところで続くになって興奮してしまったのだよ。騒がせてホントに悪かったのだ。気にせず休み時間を満喫してくれたまえ」
キリっとした顔で言った那桜に生温かい目と笑いで散っていくクラスメートにちょっとほっとした。
チラッと美南に目を向けると呆れ視線と目が合った。
彼女は葛城美南と言って那桜とは幼稚園からの大切な幼馴染だ。本人に言うと「腐れ縁よ腐れ切った縁よ!!」と恥ずかしさなのか顔を赤くして言うのであまり言わないようにしている。美南がいるからまだ真面な関係をクラスメートや友人と築けていると那桜は分かっている。
そうでなければ見た目は良いが中身がアレなのできっと遠巻きにされていたと思うしきっとかなり浮いた存在になっていただろう。なので那桜は美南には心の中で感謝している。口に出せば照れ隠しにフルスイングで殴られかねないというのを那桜は身に染みて理解していた。まだ幼いころ口にして吹っ飛ばされたのはいい思い出である・・・たぶんきっと恐らく。
「って言うかアンタは突然何叫びだすのよ?みつおって何よ?」
「ん?何だね美南さんは気になるのかね?みつおはこの少年漫画の主人公でとてつもなく不運な奴でな・・・なんか微妙に共感できる部分もあってな・・・美南そっくりの友達がいてな・・・それが夏生と言うんだけどね。今からその親友の夏生のた「あ、それはどうでもいいわ私興味ないし」・・・話を振って置いてぶった切るって酷いよ美南」
何故だ!!??自分でみつおの事を聞いてきたんじゃないのか!!酷いよ美南。
「酷いよ美南じゃないわよ。あんた心の中身もダダ漏れになってるわよ」
「う~む?それは、心の声を口に出してるからねせめてもの心遣いなのだよ」
「いらない心遣いするんじゃないわよ」
しょぼんと美南を見てもふんっと鼻で笑われた。
「そんな事より那桜。今日の放課後って何も予定とか無い?」
「ん?ん~~」
手帳の予定表を確認する。今日は家の手伝いも稽古事も無いのを確認すると視線を戻す。
「うん。今日は何もないのだよ。明日はお爺の誕生日のパーティがあるから出ねばならんがね」
「あぁ・・・そういえばそんな時期だったわね。それなら今日はこれに付き合ってよ」
ペラリと出してきたのは数日前にオープンしたカフェのチラシだった。目にも可愛らしいパンケーキの写真が載っている。
だがしかしこのカフェにオープン限定のパンケーキを食べに美南は彼氏と行くとか言ってなかっただろうかと首をかしげる。
「ん?でも美南はこのカフェに彼氏殿の行くとか言っとらんかったかね?私の記憶が確かなら」
「あ~言ってたわよ?言ってたけど行けなくなったのよ。アイツ中学からサッカー部に入ってるでしょそれで今年は一年ながら選手に選ばれたのよ。で、大会前に練習試合組んだから練習が大変だって・・・美味しかったらテイクアウトして差し入れって事でお土産に持っていこうと思って」
「フムフム・・・青春じゃの~美南が可愛く見えるのだよ」
にやっとしたら殴られた・・・・・・・・・解せぬ。
「分かったのだよ・・・だけど照れ隠しに殴らないでおくれよ。私の脳細胞が死滅したらどうする気だね?!」
「ふっ・・・アンタの脳細胞なんてかなり図太いでしょ?殴られてくらいでどうにもならないわよ。それに照れ隠しじゃないわよ。余計な事を言うとその口・・・縫うわよ?」
ツンデレなの?ヤンデレなの?どっちでもいい良いけど怖いよ美南。
美南は変なところでツンデレを発揮するので取り扱いが難しいと思っている。が、何が基準になっているかは付き合いは彼此14年目になるがいまだに分かってない。
美南の恥ずかしさの基準が分からないと一つ上の近所に住む幼馴染にして従兄に相談した事があるが彼も何とも言えない顔で笑いながら頭を撫でてきた。
「那桜はそのままでいてね?」
と言われたが成長しないのは不味いだろうと言ったらとてもいい笑顔で
「うん。成長しても性格は変わらずそのままでいてね?俺は那桜のそういうところが可愛いからね」
「う?ん~~性格はそうそう変わらないだろうと思うのだよ?それに私は私だし。うん・・・美南に照れ隠しで殴られる回数は減らしたいのだよ・・・」
「あーがんばれ?」
行儀悪く机に顎を乗せて伸びてる自分の頭を撫でる従兄の手が気持ちよくて寝落ちて母親に叱られた所までセットで思い出して項垂れた。
美南・・・ツンデレスイッチが分かりやすい所に付いてればいいのにと思わずにはいられない・・・だって日に何度も殴られたくない・・・自分はドが付くMの人ではないのだから。
放課後カフェでは殴られないようにしようと心に決めるがそれが果たされるかは神のみぞ知る・・・である。
那桜は奇行が標準装備です。