6話〜城下町へ〜
「それではー、みなさんお世辞になりましたー」
「マルスさん、こちらこそ!」
「マルスー、また飲み来いよー!」
昨晩遅くまで宴を楽しんだマルスさんは、寝不足で少し疲れを残した顔ではあったけど、明るく旅立っていった。
「ノト、商談はどうだったの?」
「あー、マルスのやつ俺の提示した額の倍額を置いていったよ」
「そんなに?マルスさん大丈夫なのかな?」
「それでも安いと喜んでおったよ」
「それなら良かったね」
「そうだな、テルは買出す物聞いて廻ったのか?」
「うん、特にないって」
「テツのとこに鉱石類を買っておくくらいかな」
「それなら街での買い物はマサに一任するとしよう」
「それがいいね」
「それでは一旦家に帰り、休んで午後出発しよう」
村の衣食住は自給自足で賄えている為、ここではお金を必要としていない。ぼくとノトは冒険者登録してある為、年に一度更新に街へ行く。その時に、街の暮らしを知らない子供達なんかを社会勉強に連れて行っている。
今日はその年に1度の街へ行く日。今年はぼく、ノトとリリ、それにマサを連れて4人で行く。街で1泊し、翌日に用事を済ませ帰ってくる予定だ。
「テツ、車はどう?」
「おー、完璧に仕上がってるぜ」
「これなら車輪も壊れねーし、揺れも抑えられるな!」
「うん、さすがテツいい出来だね!」
「しかしフロッグの皮の弾力で車輪を守るなんてな」
「よく思いつくもんだぜ」
「思いついてもテツがいなきゃ作れなかったよ」
“タッタッ”「待たせたか」
「テルおまたせ、お弁当作ったから鞄に入れといてくれ
る?」
「これが新しい車なのか?前とどう違うんだ?」
「うん、乗ったらわかると思うよ!」
“ドタドタ”「お待たせしました!」
「マサどうしたの、その荷物?」
「一応工具とか持っておいた方がいいかと思いまして」
「…そうだね、それじゃ行こうか」
「長老、留守をお願いします」
「えー、道中気をつけて」
この車は馬車を馬無しで走るように風魔法を付与した魔道具で走らせている。馬車の倍以上の速度で走れるテツの自信作だ。
「あっと言う間に村が見えなくなったな」
「これ揺れも少なくてお尻も痛くならないわね」
「テツの自信作だからね」
「これなら馬を休ませたりの必要もないし、2時間かか
らないで着けるかもね」
「1泊する必要もなかったかもしれんな」
「リリもお世話になってた宿屋に顔出したいだろうし」
「いいんじゃない?」
「うん、ありがとテル」
(マサがずっと見てるな気になるのかな?)
「マサも運転してみる?」
「いいですか?やりたいです!」
「このハンドル握って、曲がる時はゆっくりね」
「はい、これ踏んで減速するんですか?」
「うん、あとここの4つの魔石が動力だから」
「取り外して速度の調節も出来るよ」
「なるほど、全部外せば止まるんですね?」
「うん、そうだよ」
村から街までは休まず歩いて10時間はかかる。馬車なら3時間ほどの距離だ。数年前までは歩きで、途中1泊野営して往復4日かけての旅だった。
「見えました!」
「あの道の辺りで止めて歩いて行こう」
「わかりました!」
「…2人共着いたよ?大丈夫?」
「……」「…着いたか…よかった」
(…獣人は乗り物弱いのかな?)
「すぐ外町の入口ですね、車どうします?」
「〈アイテムバッグ〉これでよし」
「車ごと入っちゃうんですね」
「ぼくの家入れてもまだ余裕あるよ」
「僕も作りたいな」
「材料があればね…」
「外町はだいぶ静かだな、よし行くか!」
「…あっ、2人共乗り物酔い治った?」
「テツのお陰で去年よりだいぶましだわ」
「…そうだね」
城下町は塀の内側の内町と外側の外町になっている。内町の中心より北西にお城があり、その周辺には貴族や金持の家などが多い。
「年々外町は静かになってるようだったが、今年は静か
過ぎないか?」
「そうね…」
「そうですね、この辺りも露店なんか多かった記憶です
が、まったく見かけませんね」
(何かあったのかな?人が減ったのか?)
「内町は変わらないわね、よかったわ」
「こっちは相変わらずのようだな」
「今日は宿とって休みましょうか」
「リリに宿の方お願いしていいかな?」
「ぼくはマサと買出しの下見をしてくるよ」
「わかった、いつもの宿わかるよね?」
「うん、一回りしたら宿へ行くよ」
「すまん、リリと先に宿で休ませてもらう」
「うん、マサ行こうか」
「はい!」
内町の中心地に広場があり、広場から東に向かって商店街が栄えている。冒険者ギルドや宿屋街は北東部の方だ。
「この辺りはあまり変わってないね」
「マサもこの辺りはよく来てたの?」
「いえ、あまり来る事はなかったですね」
(マサは武器屋をよく見てるな)
「明日買出しするような物はあの辺りだよ」
「あっ、はい」
「品物多くは売ってないね」
「そうですね、頼まれてる物は揃いそうですが」
「宿に戻る前にさっきの武器屋見てく?」
「いいですか?」
「うん、見てこう」
「……うーん…」「これも…」「……」
「その短剣1本買っていこう」
「えっ?買うんですか?」
「これをください!」
「まいど!」「またお願いします!」
「これ買ってよかったんですか?」
「うん、戻ってノトにも見てもらおう」
商売街から中央広場へ出て、宿屋街の方まで歩く。ゆっくり歩いても5分ほどの距離だ。
「2人共戻ったか、食事にしよう」
「ノトさん!」
「どうしたマサ?」
「見てください、これ!」
「ん?悪くない短剣だな、これがどうしたんだ?」
「えっ?」
「これはA級の冒険者でも使えるレベルの武器なんだよ」
「……」
「そういう事か」
「マサ、テツは世界でも指折りの職人なんだ」
「マサの技術は世界に誇れる実力だぞ」
「……」
「それじゃ食事に行こう!」
「リリは?」
「食堂で店主と話しているよ、行くか」
「うん、マサ行くよ」
「はいっ!」
今年の街での目的の1つ、テツからの頼まれごとはこれで無事に済ませたと思う。街での目的はあと2つ、今日は宿でゆっくり過ごそう。
おざきです
貴重なお時間をわたしにいただき感謝します
お読みいただきありがとうございました♪