世界を平和へ
(もうこんな時間かぁ、もうすぐ0時だよ。ほんと急だ
なぁ、この前だって…)
「おいテル!聞いてるのか?」(?!)
「妄想ばかりしてんのもいいけど、その花大切扱ってく
れよなぁ?」
「わかってるよヒカル。婆ちゃんの好きな花だもんね…
って、妄想なんかしてないよ!」
「ほんとかよ?またいつもの目してたぞ?『異世界に
行ってのんびりしたい〜』ってやつ」
ぼく《天乃輝》は幼馴染のヒカル《神野光》の運転で墓参りに向かっている。僕たちを育ててくれた、孤児院の園長先生のだ。この山道は見覚えのある景色だ、もう近くまで来てるな。
「それはぁいつも思ってるけどさぁ…って、急に『婆ちゃんとこ行こう』って、急なのはいつもの事だけど命日でも誕生日でもないのに?」
(ん?ヒカルの顔つきが変わった?真剣な目してる)
ぼくは知っているんだ。ヒカルがこんな表情を見せる時は、決まって困ってる誰かを助ける時なんだ。いつもそれに巻き込まれるけど、悪い気はしていない。ぼくには無いヒカルの正義感と行動力に憧れているんだ。
(!!)「ヒカルっ!前っ!まえーっ!」
(?!) “キィーーーッギキィーーッ”
(あれっ?何かが横切った様に見えたんだけど…?)
「わりぃテル、ハァハァ…、大丈夫だったか?ハア…」
「うん大丈夫だよ、花も大丈夫!」
「ハアハア…フーッ…そっかよかった、サンキュなっ」
「今何が走ってたんだ?まぁいっか、当てずに済んだし
ん?当てずに済んだのか?」
ヒカルはまだ少し動揺してるみたいだし、ぼくは車と辺りを見てみる為に車を降りてみる事にする。ヒカルを安心させてあげないとね。
(車にぶつかった跡はないなぁ、やっぱり何もいないし
なぁ…あれは教会?こんなとこにあったかな?)
車に戻ろう。気にはなるけど、車も辺りも大丈夫だってヒカルに教えてあげないと。
「大丈夫だよヒカル、なにもなかった」
「あぁそうみたいだな…」
「あのさぁテル、さっきの話なんだけどな…なんか呼ば
れてる気がするんだ」
「さっきの?墓参りの理由?」
「婆ちゃんにってこと?」
「わかんねぇ…でも行ったらなにかわかる気がしたんだ
付き合わせてわりぃなテル」
「いつもの事じゃん、気にしてない……って?」
ヒカルが外を覗き込む様に見ているな。そっちにはたしか教会の様なものがあったところだ。
「そういえば教会みたいなのあったけど、こんな山の中
に前からあったっけ?」
「……」“カチャッ……バタン”
「ヒカル?」
(あの建物が気になるのかなぁ?)
ヒカルが建物に向かって歩いて行く。ぼくも追いかけていこう。
“タッタッタッタッタッ”
「テル、入れそうだ」
「えっ?入っていいの?」
(って、もうヒカル扉明けようとして[ブゥン]るよ)
「!えっ?!」
「なっ?!なんだ!テル?テルいるか?」
辺り一面真っ白な風景で、ぼくは何が起きたのか?眩暈でも起こしたのか?異世界ってあるの?混乱して座り込んでいる。はずなのに地面の感覚も感じない。
「おいテル!大丈夫か?テルっ!」(ハッ?!)
目の前にヒカルが手を差し伸べてくれている。その手をしっかりと両手で握りしめて、起き上がれそうだ。ヒカルのおかげで立ち上がれた。
「ありがと(ん?)ヒカル上っ!」
なにか大きな扉の様なものが上からゆっくり降りてくる。
(なんだろ?綺麗な女性の声が聞こえてくる)
〈【勇者】ヒカルよ、其方の力でこの世界を平和へと導
いてほしい〉
「誰だ?俺を知ってるのか?俺が【勇者】?おまえはそ
の扉の中にいるのか?出て来て話せよ!」
〈受け取りなさい〉
(えっ?ヒカルの質問には答えてくれないの?)
ヒカルの頭上から光が降りてくる。ゆっくりとヒカルの手元へと降り、ヒカルが両手で受け止めていた。
「この指輪は?」
〈世界を平和に導いた後、指輪を掲げ願えよ〉
〈元の世界へと戻る扉が開かれよう〉
「どうゆう事だ?元の世界?異世界があるって言うのか
?ここはテルの妄想の世界だっていうのか?」
「異世界だって?!」
〈もう1人おるのか?まぁよい其方にも【賢者】の力を
授けよう〉
(えっ?なに?どうゆうこと?)
〈では頼んだぞ【勇者】ヒカル【賢者】…テル?よ〉
「この人何言ってるの?ヒカル?…行くの?」
ヒカルは扉に向かって歩き始めている。ぼくはまだ展開についていけずに立ち尽くしている。
「あぁ行く、俺にだって言ってる事なんか訳わからねえ
し、今が現実かもわからねぇ、あの女こっちが聞いた
って何も答えねぇしな」
「この扉が入口か出口かわかんねぇけど、ここ以外に進
みようがねぇ」
「ヒカル…うん、そうだよね」
「この先がどこなんだかわからねぇ、でも巻き込むぞ、
テル!」
ヒカルが不敵な笑みを浮かべながら、ぼくの方へ手を伸べ待っている。ぼくは無意識のうちにその手をとっていた。
「うん!ヒカルについて行“グィッ”[ブゥン]くよ…っ
て…う、うわぁ?!」
“ドスッ”“ドタッ”「イタタタっ…ここは?」
小高い丘の上の草原のようだ。丘を下った先には町も見える。そんな見知らぬ景色を見るまでもなく、この心地良く身体を包む空気を感じるだけで、ここが【異世界】であると実感できる。
(なんだろう、この心地良さ、身体に力が漲るような)
「ほんとに【異世界】に来たんだな…」
(ヒカルも感じてるんだな)
「うん、来たんだね…」
「ってことは、ここからはテル!おまえが主人公だな、
ここはテルの妄想世界ってことだろ?」
「なっ、何言ってんだよっ?ヒカルが【勇者】だろ?だ
いたい、ほんとにあるとまでは思ってなかったよ」
「そうなのか?あんだけ言うから俺はいつか連れて行っ
てやりてぇって思ってたのに」
(ヒカルそんなことまで…嬉しいな)
「でもまあ、どうやって平和に導くんだ?【勇者】って
言われても何が出来るんだ?テルの【賢者】は何か出
来そうか?」
「わからないよ、ぼくの【賢者】ってなんか、仕方なく
ついでにっぽかったし、それに【異世界転移】って
言ったら神様にあって、チートスキルいっぱい貰える
もんなんじゃないの?」
「チート?なんだそれ?しらねぇ、とりあえずこの指輪
掲げてみるか?なんかわかるかもな!」
「ちょっ、ちょ、ちょっと待ってよ?もう少しこの世界
の様子を見てからの方がいんじゃない?ね?!」
ヒカルは少しニヤけた表情でぼくを見ながら立ち上がろうとしている。
「テルおまえ、やっぱこの状況楽しんでんだろ?」
(?!そうかも…)
「そうかな?でもヒカル【勇者】なんだし、平和にする
って言ったら、やっぱり【魔王】を倒すとかなんじゃ
ないかな?」
「【魔王討伐】か、まぁ困ってるやつがいるんなら助け
に行くしかないだろ、まずはあの町行って聞いてみる
か?行こうぜテル!」
(ヒカルの後ろの奥にある岩の辺りになにかいる?)
「そうだね!…ねぇヒカル、あの岩の辺りになにかいな
い?」
「ん?なんにも見えねぇけど?」
「ぼくにも見えないけど、生き物の気配しない?」
「しねぇ、【賢者】の力でわかるとかか?まぁ近づいて
みればわかるだろ」
「ほんとにいたら危ないよ、って、ちょっと待ってよ」
こうして【勇者】ヒカルの冒険に【賢者】ぼくがお供する冒険が始まった。世界を平和に導くために、とりあえずは【魔王討伐】を目標に旅してみる。
・
・
最初の町でぼくたちは【魔王】が存在する事を知った。戦う力を養う為に冒険者ギルドへ行き2人で冒険者となって、魔獣や時には盗賊らを相手に力をつけた。
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・
冒険者として一流の力をつけたぼくたちは、武器や防具を新調する為に優れた鍛冶技術を持つドワーフ王国に来ていた。ぼくは魔力を帯びやすい特別な鉱石で短刀を2本、【勇者】と認められたヒカルにはドワーフ王自ら貴重な聖石を打ち聖剣を作ってもらえた。
・
・
ヒカルは魔法の力に疑問を抱き、魔法に秀でたエルフ王国を2人で訪れた。この国でぼくは【賢者】として覚醒する。ヒカルの感は正しかった。魔法によって2人の力は更に洗練された。
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・
洗練された力を発揮する為に訪れたビーストマン王国。戦士の国と称されるこの国の闘技場に参加し、戦闘術を磨きあげた。この国で競い合った国1番の戦士が【魔王討伐】への参戦を申し出てくれた。
・
・
3人となったぼくたちはヒューマン王国へ行き、魔王城へ向かう事を報告した。【勇者パーティー】の力を示す為に、王国騎士団最強の団長であり、第二王子の《レオン》と戦う。その戦いで認められたぼくたちは、騎士団の精鋭3000人を率いて魔王城へ撃って出る。
・
・
“タッタッタッタッ”(あの上にいる!)
「ヒカル!あの階段の先にいるよ!」
「みたいだな!さすがに俺にもわかる、の前に、こいつ
等片付けないとな!」
“ガッギィーン”“ズバッ”
「ヒカル君先にいけ!ここは私に!」
「レオン王子!…わかった、頼みます!」“ダッタッタ”
“ガッドゥン”
「ダン!〈ヒール〉“タッタッ”大丈夫?」
「すまん大丈夫だ、テル、ヒカルと行け!」
「…うん」“ッダッ”
(ハァッハァッ、この世界に来て3年、ここで倒しちゃったら
平和になるのかな?…元の世界に帰るのかな…)
「大丈夫か、テル?!行けるか?」
「!…うん、大丈夫!」
(ぼくは何を考えてるんだ!平和にしなきゃ!)
「よし、行くぞ!」
“タッタッタッタッ”“バァン”
「ワレを倒しにきたのか?」
(綺麗だぁ、この綺麗な女性が?!)
「あんたが【魔王】でいんだよな?」
「如何にも、ワレは【魔王サクラ】だ」
(こんな美人…戦いづらいなぁ)
“ガッギィーン”“キィンキキィン”
(ヒカル容赦ないなぁ、って、ぼくも闘わなきゃ!)
“ゴゴゴゴゴゴッ”(ん?!)
「ヒカル!〈シールド〉!」
“ピキィーン”“ビキィ”
「ぐっ…助かったテル」
「…何故にワレを倒す?」
「平和に導く使命があるんだ、わりぃな!」“ガキン”
「ワレにも使命がある!倒されぬ!」“ズバッ”
「くっ、ぅっおおお!」“ガギッ ダッ ズバッン”
「ぐぁっ、小癪な!」“ズバガンッ”“バタッ”
「ヒカルーー!」“タッ”
(よかった気を失っただけだ、あっちは?)
“タッタッ”(生きてる!とどめを!)
「…【賢者】テル?か?…頼むぞ…」
(!嫌な予感がする)
「〈フリーズ〉!」“ピキピキピキッピッキィーン”
「ハァッハァッ〈アナライズ〉」(状態は…凍結、仮死か)
(このまま〈アイテムバッグ〉に封印しておこう)
“ヒュッ”
(ヒカルを起こさなきゃ!)“タタッ”
「〈ヒール〉!……ヒカルッ!」
「んぅ、テル、ハッ?!【魔王】は?」
「大丈夫、ヒカルが倒したよ」
「…ちっ、相討ちかぁ、でもまぁテルを連れて来て生き
き残った俺の勝ちだな」
「うん、さすが【勇者】ヒカルだったよ」
「これで平和になるな」
ヒカルが首にかけていた【指輪】が光輝きだしている。
目の前にあの扉が現れた。
「俺たちの異世界旅行もこれまでみたいだな、この世界
で世話になったみんなに礼ぐらい言いたかったが、湿
っぽい別れになるより、これが無難だな」
ヒカルは起き上がり扉に向かっている。向かっている足取りは、どこか少し重そうに見える。ぼくは進めずに、ただヒカルのその姿を眺めていた。
「元の世界に戻るとあっちも3年経ってるのか?まぁ行
けばわかることか!帰るぞテル!」
「…ヒカル…ごめん…」
「やっぱりな…そんな気してたんだ、俺は行くぞ?」
「…うん、ありがとヒカル…」
「1人で困ったら呼べよ!」
「ヒカルこそまたぼくを巻き込みに来るんじゃない?」
「ふっ、そうかもな!…じゃ行く、テル楽しめよ!」
ヒカルが扉を開けると、ヒカルの姿と一緒に扉も消えていった。消えたその跡に聖剣だけが残されていた。
“ダダダダッ”
「テル君!…倒したのか?」
「レオンさん、ヒカルが倒しました」
「そうか!さすがだ!テル君もよくやったな!それで…
そのヒカ“ガバッ”んむ?!」
(ぼく涙がこぼれてのか、それでダンが察してくれたの
か、たぶん勘違いしてるけど)
「ヒカルは先に1人で帰りました」
「!そうか、外ももう収まるだろう、テル君はここで
少し休んでるといい、ダン君!テル君を任せたよ」
「あー、そうさせていただく」
「ダン、ありがと」
「かまわん」
ぼくたちは【魔王討伐】を果たし、あとから合流した第一王子さんに後の事を託し、ヒューマン王国へと帰還した。国王に報告した後、褒賞金のみ受け取りダンと2人でこの国をあとにした………
おざきです
貴重なお時間をわたしにいただき感謝します
お読みいただきありがとうございました♪