鈴木君①
いつもの通学路。今日も朝のバス停でよく見かける男子高校生がいた。制服から隣の区にある私立高校なのだと分かる。ドキドキするわたしの胸。
彼は物静かな感じでスマホを見ている。時折りバスの様子を見る時に視線が合う。決まってわたしから目を逸らす。
バスに乗ると彼はつり革に掴まり立っていた。席が空いていても座ることはない。
「キャッ!」
バスが急ブレーキをかけ、わたしはつり革を離してしまう。
「大丈夫?」
彼がわたしを抱きしめてくれていた。顔が……近い。
「あ、ありがとう。」
いつも逸らしていた視線がその時は永遠に思えるほど重なり合う。彼の穏やかな眼差しにわたしの胸が暖かくなり、そして熱くなる。わたしは勇希を振り絞って彼に伝えた。
「あの……今日学校が終わったら少し時間もらえませんか?」
「え?いいけど……でも今日は部活があるから何時に終わるか分からないけど……」
「構いません。わたし待ってますから。そ、それじゃあ!」
わたしはバスを走るように降り、そのまま駆け出した。彼を乗せたバスが小さくなっていく。
◇◇◇
「それで、何時にどこで会うかも決めないまま別れたんですか。鈴木さんは馬鹿ですね。」
休み時間に女子トイレでハニワに朝のことを話したわたしが馬鹿だった。馬鹿だけど。
「でも彼の高校は分かっているから、校門で部活が終わるまで待ち伏せすればいいか。あ、わたし頭いいじゃん~!」
「通報されて事情聴取されますよ、ストーカー。」
なるほど、そういうアクシデントもあるのか。
「じゃあ、どうすればいいのよ?」
「おかしな女と思われてますから、通学路を変えることをお勧めします。」
「ちょ!?酷くない!アンタみたいなAI女に相談したわたしが馬鹿だった!!」
ハニワを突き飛ばしてわたしはトイレを出ていく。その直後スマホにハニワからのメッセージが届く。
「アタシはAIじゃありません。なので人を傷つけることもします。」
◇◇◇
放課後、彼の高校の校門。色々と考えたけど良い方法が浮かばなかったので校門で待つわたし。
「他校の生徒だよね?何してるの?」
先生らしい女に声を掛けられた。
「人を待ってるんです。名前知らないんですけど……あ、黒のスマホカバーに赤いクロスが付いてるんですけど。」
「鈴木君を待ってるの?あなた……鈴木君の何なの?」
鈴木君?何て偶然!わたしと同じ『鈴木』だなんて!嬉しい!!
「あれ?キミは……」
バス停の彼、鈴木君が出てきた。本当に会えたことにわたしは運命を感じた。
お読みいただきまして誠にありがとうございます!
気になる人っていますよね。大して相手のことも知らないのに、いつの間にか気になっている。鈴木のように勇気をもって声を掛けるなんてなかなか無いのかなと思います。あれ、わたしだけ?(´-ω-`)
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