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「蛇?」


「蛇と聞くと、皆さんどうしても怖がってしまうものですけど、気性が荒いものなんてごく一部なんですよ。なにより蛇は、古来から神様の使いとして崇められ、水田の守護神として重宝されていたんです。稲にとって天敵の、たとえばネズミなんかの害獣を食ってくれるもんですからね。ヤマカガシっているでしょう? あれなんかはよく田んぼに棲みついてましてね。子供のころ、夏の蒸し暑い中、学友と共に水田を棒きれでつつき歩きながら探し歩いては、母や父に叱られたものです。あれは猛毒を持つ蛇なんだから、迂闊に近づくんじゃないと」


「ヤマカガシ……カガシ……」


 その時、老人がうっすらと笑ったように、私には思えた。


「そうです。その『カガシ』の部分が転じて『カカシ』になった。案山子は人を象っていると言われていますが、それならなぜ一本足なのか? それは人間の足ではなく、蛇の胴体を象っているからですよ」


「そんなの、こじつけじゃないですか」


「そうでしょうかねぇ? そうそうヤマカガシですが、あれは元々、ヤマカガチと呼ばれていたらしく、ヤマタノオロチと同じく『チ』の文字を持つんですな。この『チ』という文字ですが、なんでも古代の日本では霊力を意味する言葉とされていたらしくて。古代人は、もしかしたらヤマカガシをオロチの生まれ変わりか、あるいはオロチそのものとして扱っていたのかもしれません。ところであなた、オカルト雑誌の記者だと仰いましたね? でしたら『くねくね』ってのをご存じでしょう?」


「あなた、さっきはオカルト雑誌なんて読まないって言ってたじゃないか」


「くねくねってのは、あれ、私が思うに蛇の仲間なんじゃないかと思うんですが、どうですかね?」


「質問に答えてくださいよ。あなた、本当になんなんですか?」


「どうですかねぇ?」


「いや……そんな……どうですかねと聞かれても……」


 二十一世紀に入ってから、ホラーやオカルト界隈ですっかり知られるようになり、いまや現代怪談の代表格と化した、その奇態な存在の名を、当然知らないはずがなかった。


「水田のあちこちに蜃気楼めいた予感と共に出現するそれは、真っ白な体を左右にくねくねと奇妙に揺らして近づいてくることから、その名がついたとされてますが、あれの怪談には、決まって『眼を合わせてはいけない』という禁忌がつきものでしょう? 眼を合わせた途端、気が狂ってしまうと」


「邪視ですよ」


 恐怖心を上回る好奇心と、負けじと知識をひけらかしたいという欲望が、私の口を借りて出た。


「珍しくもなんともない。眼に関する呪いは、それこそ世界あちこちの神話からある定番じゃないですか。ゴルゴン三姉妹のメデューサとか、バジリスクとか。何もくねくねに限った話じゃあ……」


「それだって、蛇が関係していますよね」


 喋りかけたところで、ふと湧いた気付きに、老人の指摘が被さった。


 なぜだか、下唇をぎゅっと噛み締めたい気分になった。

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