初恋は王子様
それは、人生で初めての恋だった。
相手は同じ学園に通うこの国の王太子殿下だった。同い年には見えない大人びた方で、王族の証である金色に輝く髪が風に揺れ、同じ色の瞳が静かに輝いている。
王太子殿下に初めてお会いしたのは学園の入学式の日のことだ。緊張して正門をくぐったときにつまづいてしまいハンカチを落とした私にハンカチを優しく手渡してくれたのだ。国の王太子とあろう御方にそのようなことをさせてしまったという申し訳なさ以上に、憧れが勝ってしまう。
同じ学園にいても単なる子爵令嬢でしかない私と王太子殿下の間に関わりは全くなかった。私はただ、憧れの王太子殿下を遠くから見つめるだけ。この恋が叶わないのはわかっていた。殿下には幼い頃からのご婚約者様がいらっしゃった。公爵令嬢であり、幼い頃から後の王妃として教育を受けてきた彼女は同姓である私ですら見惚れてしまうくらい美しかった。
2人の仲はとても良く、私のこの恋が叶うことはもちろん、この気持ちを伝えることだって不可能だとわかっていた。あと数週間で学園を卒業してしまう私達はもう2度も直接会うことも話すこともないだろう。
私は政略により5歳年上の子爵家の長男に嫁ぐことが決まっていたし、殿下と公爵令嬢の彼女は卒業後すぐに結婚をすると噂になっている。
他の人から見たら、ただの令嬢の憧れでありふれた話だと思うのだろう。きっとこんなふうに殿下に恋をしていた人は多い。一般的に見たら叶わないことがわかっていながら手の届かない相手に恋をするような身の程知らずとか夢見る若者だと思うのかもしれない。私だって、今流行っている恋愛小説のように身分違いの恋が叶うはずないとわかっていた。それでも、もしかしたらと夢を見て、憧れることを辞めることは出来なかった。
だって、私は殿下のことが好きだった。話をしたことはめったにない。殿下はきっと私のことを知らないし、これからも知ることはないのだろう。それでも、私は殿下に恋をしていた。遠くから眺めているだけでも構わなかった。殿下のお姿を見られるだけで幸せだった。でもそれも終わらせなければならない。
さよなら、王子様。私はあなたに恋をしておりました。いつの日か許されるのであればあなたに一目お会いしてお礼を言いたい。きっと殿下は覚えていないだろうけれど、あの日、あの時ハンカチを拾ってくれてありがとうと。私はあの時あなたに恋をしたのだと。




