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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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毒漬けの悪魔


爺に通信を切断されて罵詈雑言を心の中で捲し立てること数分。

癒しを与えられることもなく途方に暮れながらも思考を現実に戻すと、重要なことを一つ思い出した。



……魔毒を打ち消す方法、聞くの忘れてた!

現状を考えればいの一番に聞かなきゃいけないことなのに、何で忘れてたかなぁ。



未だに体の自由は戻らず、意識が分離している状態。このままだと毒が抜けた時には奴隷紋を刻まれていたってことに成りかねない。


闇から取り出した知識の中には魔毒に関する情報もあった。

魔毒には魔力を固着させる効果があり、それによって魔法に必要な魔力を供給させないようにしている。ただし、一生魔力が使えなくなるというものではないし、相手を死に至らしめる毒性もない。

魔力が固着されても門からの流入は止まらない。魔力が流れれば固着されている魔力は押し出されて体外に排出される。つまり、時間が経てば勝手に治る。だからといって悠長に自然治癒を待っている余裕はないけどね。持続時間は魔法発動に込められた魔力量に比例するけど、一日二日では解毒できないだろう。


腑に落ちないのは、魔力を固着されただけなのに何故体が動かなくなったのかということだ。魔毒に神経毒のような効果はないはずなんだけどね。

体の麻痺に関しては破邪天明の影響もある。洞窟に入ってからはその影響は小さくなっていたけど、魔毒による弱体化で影響が強くなったのだろうか?


破邪天明の対策も必要だけど、まずは魔毒をどうにかしないとね。



俺は体に意識を向けた。魔毒は俺の体表に膜を張っている。これが体を包み込んで魔力の排出を止めているのか。毒は体内にも浸潤して俺の魔力と混ざり合っていた。毒に曝された魔力は変質してしまって制御できない。

それなら、体表の膜を裂いて変質した魔力を排出すればいいだけか。


俺は魂に干渉して門を全開にした。魔力が一気に流れ込んでくるが、魔毒の影響によって勢いが殺され、体表に張られた膜で体外への排出を阻止される。


魔力を流し込んだだけで解決するなら苦労はしないよね。俺の本命は、魂にある魔法陣に魔力を流し込むこと。

魔法陣に必要な魔力が流し込まれたのを感じ取り、闇に干渉して魔法を発動させた。



("黒鉛筆")



体内で黒鉛筆を具現化して腹部から突き出した。黒鉛筆は魔法陣を自動描写するための魔法。鉛筆が勝手に動き始めて空中に魔法陣を描写していく。

黒鉛筆の動きは一切阻害されることなく魔法陣を完成させた。魔毒が阻害するのは体内にある魔力だから、魔法を発動できた時点で影響は受けない。破邪天明による影響がどれだけあるかを懸念していたけど、全く影響がなくて肩透かしを食らった気分だ。



魔法陣を使って発動した魔法は黒衣。


見た目は大きなマントで、常に魔力を帯びさせることで破れてもすぐに自動修復できる。さらには魔法攻撃を対消滅させる効果もある。

現世に来る前から黒衣を身に纏っていたけど、破邪天明の影響なのか魔力の供給が止まっていた。それでも黒衣が無くならなかったのは僥倖だったね。なんせマント一枚しか身に着けていない。股間には何も付いていないから見られても羞恥心はないけど、人間で無いことはバレちゃうからね。

ただ、魔法で作ったからか損耗が酷い。擦り切れているところが多くで襤褸切れにしか見えないからね。奴隷としては分相応だとは思うけども。

戦闘中も何度か破れる音が聞こえていたし。意識を失ってからはビーウェに引き摺られていたから、既に衣服としての機能は無かったと思う。……社会の窓を守り切れていたかどうか心配になってきた。


頭の中に浮かんだ不安を振り払って魔法に専念することにした。現実逃避ともいう。



黒い衣が体を包み込み、体の魔力が黒い衣に流れ込んでいく。魔毒によって堰き止められていた魔力は腹部に空いた穴から勢いよく噴出していく。

次第に体の麻痺は薄れていき、魔力も若干だけど制御できるようになった。自傷行為によるゴリ押しだったけど、解毒に成功したみたいだから良しとしよう。

全開にした門を閉じて体内に巡る魔力量を調整した。感覚も戻り、自分が今横になっていることを感じ取った。


ゆっくりと目を開ける。少し霞んでいたが、徐々に視界がクリアになっていく。目に映ったのは岩肌の天井。どうやらまだ洞窟の中のようだね。

そんなことをぼんやりと考えながら聴覚も元に戻すと、横から物音が聞こえた。固くなった首を横に動かすと、一人の男性が尻餅を付いて俺を見下ろしていた。


肩まで掛かる白髪は後ろで一束に縛られていた。額はかなり後退している。髪を後ろに引っ張っているからではと、緊張感のない感想が頭に浮かんだ。

擦り切れた衣服には黒い染みが多く、手枷の代わりに首輪が付けられていた。他の者とは扱いが違うようだけど、この爺さんも奴隷のようだね。



爺さんは驚き過ぎて声が出ない状態だった。何か言おうとしているようだけど、口をパクパク動かすのみで声になっていない。

俺は一旦無視して首を動かした。ここには爺さん以外誰もいない。すぐ近くにビーウェがいなくて助かったね。



「……あの」

「ん?」



爺さんが漸く声を出した。



「貴方は、フェリュス様の部下の方ですか?」

「違う」



質問の内容に嫌気が差したせいでぞんざいな返事になってしまった。まだ流暢には話せないから、どのみち端的な受け答えしかできないんだけどね。

爺さんは気を悪くすることもなく、口調を砕いて別の質問を投げかけてきた。



「では、お主は一体何者なんじゃ?」

「……奴隷」



何者かと問われ、少し考えてから奴隷と答えた。悪魔って言ってもどうせ信じてもらえないからね。

爺さんは俺が言い淀んだ理由を勘違いしたようで、その表情からは憐憫を感じた。本人に奴隷と言わせてしまったことを後悔しているのかな? 俺は全く気にしていないんだけどね。奴隷として連れてこられたのは事実だけど、まだ奴隷紋も刻まれていないし。



「ここはどこ?」

「ん? あぁ、ここは儂の部屋じゃ。ビーウェ様よりお主の治療を仰せつかった」



それを聞いて、フェリュスとビーウェの会話を思い出して耳にした人物名を口にした。



「貴方が、ドルフさん?」

「そうじゃ。お主、名は?」

「メア」



自己紹介をしつつ周りを見渡す。治療を施すといっているけど医療器具は一つもない。布団やシーツすら無かった。

というか、怪我人だと思っているんなら地べたに寝かせないでほしい。


俺の視線から何を探しているのかを察知したようで、ドルフが説明してくれた。



「治療は魔法で行うんじゃ。といっても、一瞬で怪我を治すことはできんが」



魔法による治療か。知識を探ると、治療魔法に関する情報が出てきた。

けど、詳しく確認せずに情報を頭の片隅に追いやった。人間にとっては便利な魔法だけど、悪魔には必要なさそうだからね。



「だがこれから治療に取り掛かろうとした時に、魔法の兆候を感じて距離を取っておったのじゃ。急に腹部から槍のようなものが突き出た時には心臓が止まるかと思ったぞ! そもそも奴隷で魔法が使える者は滅多におらんのじゃが、お主も魔法を使えるのじゃな」

「うん。……貴方は、フェリュスの奴隷?」

「いや、確かに最初はそうじゃったが、今はビーウェ様の奴隷じゃ」



フェリュスがビーウェに奴隷として譲渡したのかな。まぁビーウェを使役しているのはフェリュスだから、主従関係に変更はないけど。

あいつらに様付けしているのは魔法陣で強要されているからなのか、間違えないように言い方を統一しているからなのか。少し疑問には思ったけど、聞く必要はないか。


俺は会話しつつも体の状態を確認していた。魔毒の影響はもう残っていない。骨折も既に治っている。

俺は上体を起こして体を動かした。問題なく動かせられる。むしろ、魔毒を食らった時よりも動きやすくなっている気がするけど。



「お、お主、腰の骨が折れていたはずだが?」

「気のせい」



投げられた質問を適当に返す。答える気が無いことが伝わったようで、それ以上質問を重ねられることは無かった。

もうここに用はない。留まっていればビーウェが来てしまうだろうし、早めに姿を隠した方がいいだろうね。



「じゃあ、俺は行くよ」

「……お主、奴隷紋は刻まれていないのか?」



話の流れとは関係のない質問をされたことに疑問を抱いた。黒衣を身に纏っているから奴隷紋の有無は分からないはずなんだけど。

もし意識が無い時に確認していたのだとしたら、このタイミングで聞いてはこないと思う。おそらく、奴隷紋には無断行動を禁止する制約が組み込まれているのだろう。だから俺が勝手に動こうとしているのを訝しく感じたのかな。



「うん。だから、その前に逃げる」



そう言って部屋の外に出ようとする。だが、それに合わせてドルフも立ち上がり、俺の前を塞いだ。



「……俺を見張るよう、命令されている?」

「いや……」



奴隷紋によって命令されているのかと思ったのだが、それは勘違いだった。

ドルフが重たい口を開こうとして、何となく何を言われるのか予想がついてしまった。



「お主、いや、メアよ。……儂を、殺してはくれぬか?」

「お断りします」



俺はドルフの懇願を即座に切り捨てた。



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