表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
93/141

悪魔の成り下がり

今回から第2章突入します!


ガタ、ゴト、ガタ、ゴト



揺れの原因は、道路が舗装されていないからだろうか。それとも馬車の車輪が歪んでいるからだろうか。



今、俺は馬車の荷台に乗っている。場所は分からない。幌で覆われているせいで外が見えない。まぁ、見たところで場所を特定することなんてできないだろうけど。


幌には小さな穴がいくつも開いていて、そこから光が射し込んでいる。立ち上がって覗き込めば外が見えるだろうが、この密集した状態ではそこまで行くことができない。


この馬車の荷台には俺以外にも多くの人が乗せられている。全員が膝を抱えて体操座りをし、小さく丸まっている。それでも、体が揺れる度に隣にいる人に肩が当たる。

俺は馬車の真ん中辺りで同じように体操座りをして頭を抱えている。


現実に目を向ければ状況はすぐに理解できる。実際、周りを一瞥しただけで自分の状況は思い知らされた。

けど、頭で分かっても簡単に受け入れられるようなものじゃない。


もう一度、顔を上げて両手を前に落とす。そこには、鉄で出来た手枷が付いていた。その手枷には傷が多くて錆びも目立つ。使い古されたものだというのが一目瞭然だった。

視線を上げて周りを見渡せば、他の人達にも手枷が嵌められている。皆俯き、その表情に暗い影を落としていた。

視線を更に上げると鉄格子が目に留まる。荷台全体が鉄格子で覆われていて、後方にある扉には厳つい錠前が取り付けられている。



現世に降り立ってまだ一日も立っていないが、闇から得た知識からこの世界のことは多少頭に入っている。

それらを踏まえると、どう考えても一つの結論にしか辿り着かない。



俺、奴隷になりました。




(だから、受け入れられるか―――!!)



何度目かになる心の叫び。それは俺の中だけで響き渡った。







現実を見つめては逃避する。そんな生産性の無い思考を巡らせること数回。

徐々に平常を取り戻し、漸く現実を受け止めることに決めた。そして、現実を受け入れた途端に一気に怒りが湧いてきた。



まさか、現世に来た途端に奴隷落ちするとか。俺、一応王なのに。神の御子なのに……。何で奴隷になっとんねん!!

ヒエラルキーの頂点から底辺まで一気に落ちてますやん! ヒエラルキーの三角形真っ二つにかち割ってますやん!!

この世界、理不尽にも程があるでしょうが!



使った事のない口調で捲し立てるが、それを聞く者は一人もいない。それもそのはず、念話が使えないのだ。


念話だけじゃない。魔法の一切が使えなくなっている。それどころか、体を動かすことも億劫だった。

それが原因で逃げることもできず、こうして馬車に揺らされているという訳だ。そうでなければ直ぐに逃げ出しているんだけどね。


体の内側に意識を向けると魔力の存在を感じる。魂にある門から魔力を取り出すことは依然と変わらずできている。

だが、魔力のコントロールがうまくできない。地獄にいた時は息をするようにできていたのに。……悪魔になってから呼吸なんてしていないけどね。


精神生命体だから人間に必要な生命活動は行っていない。呼吸、食事、排泄、睡眠など、他の奴隷達が苦労しているのを傍目にして悪魔で良かったと心の中で呟いた。


馬車に乗ってから時間は大分経過しているはずなのだが、一向に日が傾かない。気分が落ち込んでいるせいで長く感じているだけだと思っていたが、それが勘違いであるとすぐに悟った。

馬車に降り注ぐ光が常に真上から来ている。何時間経過しても、それは変わらなかった。



やはり、あの太陽は魔法によって作られたものなのだろうか?


俺は現世に降り立った時に見た光景を思い出した。






爺の手によって地獄から現世に飛ばされた俺は、処刑台の上に降り立った。まぁ、転移先が処刑台なのは知っていたけど。

アトネフォシナーにある魔法陣で転送されてきた(厳密には俺が魔法陣を起動させて召喚した)人間の魂に触れた時、処刑台の光景が見えたからね。


処刑台から周りを見渡す。中心に処刑台があるだけの広間だが、それでも人通りは多い。その奥には建物が規則的に並んでいて商店も見えた。

行き交う人達が足を止めてこちらを凝視していた。日本人、ではないよね。彫が深い人が多くて肌の色は白が多い。

白人が多い国ってどこだろう? 気にしたことがないから分からない。千年の時を経ているから、知っていたとしても役立たない知識だっただろうけど。


顔のパーツがはっきりとしていて、目元は大きく、鼻は高い。大きな目を更に見開いているせいで、眼球が飛び出ているのではと錯覚するほどだ。


……もしかしなくても、俺を見て固まっているんだよね。見た目は人間と変わらないから悪魔だとはバレていないはずなんだけど。

一抹の不安を抱えていると、処刑台の横から怒号が飛び込んできた。



「貴様! そこで何をしている!?」



男の声に反応して振り向くと、そこには槍を携えた兵士っぽい人がいた。その顔は怒りではなく、驚愕と焦燥に染まっている。

反対側を向くと同じ格好をした男がもう一人。こちらも似たような表情を浮かべていた。だが、男の声を聞いて我に返ったのか、同じように声を張り上げた。



「降りろっ! 早く降りろっ!!」



二人とも焦慮に駆られているようで、声を張り上げて捲し立てる。これだけ降りろ降りろと連呼されれば、処刑台に無断で立ち入ったことを怒っているのだと分かる。それにしては怒りではなく焦りが強いのが気になるけど。


とりあえず従おうと動こうとして、足が縺れてその場に転んだ。



(……あれ?)



体が思うように動かない。全身が麻痺しているようだ。鈍い感覚に戸惑いつつ、ゆっくりと這って処刑台の外へと向かっていく。

魔法陣の外に出た。もう少しで処刑台の下に降りられる。そう思った矢先に、遠くからまた声が響いた。



「お前達、何をしている?」

「き、騎士様! ……無断で処刑台に足を踏み入れた者がいたため、降りるよう促しておりました!」



その声は俺に向けられたものではなく、二人の兵士に対してのものだった。兵士の一人が淀みながらも報告を上げた。感情を消してポーカーフェイスを保っているが、その奥に僅かな苦悶を感じ取った。

騎士様と呼ばれた方を向くと、煌びやかな甲冑を身に着けた若い男性がいた。細い体で重そうな甲冑を着ているのに、体の芯を傾けることなく歩いている。薄っすらと魔力が帯びているから、筋力ではなく魔法で軽量化させているのだろうか。

腰に差している剣も装飾が無駄に多い。柄には魔法陣のようなものも刻まれていた。……魔法剣とかあるのかな?



「何故捕らえないのかと、聞いているのだが?」

「許可なく処刑台に上る訳にはいかず、この者が降りるのを待っておりました!」

「では、もう捕らえられるだろう?」

「「……はっ!」」



騎士の命令に一拍遅れて反応し、兵士二人が俺の元に寄って来る。そして、腕を掴まれて処刑台の下に引き摺り降ろされた。

相変わらず体に力が入らず、そのまま地面に転がされて腕を組み伏せられた。騎士は俺を見下しながら声を掛けた。



「許可なく処刑台に上がることは禁じられている。勿論、知っているはずだが?」



知りませんけど? そう伝えたいのに念話が出ない。喉元までは魔力を送り出すことができるのに、それを外に出した途端霧散されてしまう。念話は意思を乗せた魔力が相手に届かないと意味をなさない。だから頑張って伝えようとしても、騎士や兵士達には俺が口をパクパクさせているようにしか見えていない。


騎士の表情が険しくなった。それに気づいた兵士が騎士に声を掛けた。



「騎士様、恐れながら申し上げます。この者はこの町の住人ではございません。禁則事項について知らないものと思われます」

「ほう。それで?」

「この者はまだ幼く、常識を知りません。我々が責任を持って教育を施しますので、どうか、寛大なご配慮をと存じます!」



そう進言した兵士が跪いて首を垂れる。その横顔に汗が滴り、目は充血していた。

強い恐怖心を抱きながら進言した兵士、それに対する騎士の回答は、行動で示された。



ボトッ



その行動ははっきりと見えた。騎士が腰に差した剣を抜き、兵士の腕を切り飛ばした。

その断面から飛び出た鮮血が俺の顔にかかる。思考に空白が生まれる。



「ぎ、ぐうぅ……!」

「平民の分際で、この俺に意見するのか?」

「も、申し訳、ございません……」



兵士は激痛を必死に堪え、額を地面につけた。血が出るほど歯を食いしばっているのが見えた。



言葉を交わすことはできないけど、言葉を受け取るだけでも気持ちは伝わる。

兵士は俺のために体を張ってくれたのだろう。騎士の言葉を聞けば、あれが貴族なのだと推測できる。


この世では、平民と貴族には越えられない壁がある。貴族には平民の生殺与奪すら許されているのだから、逆らうことなどできるはずもない。

それは実際にこの世で生きている人間の方が身に染みているだろう。


それなのに、この兵士は見ず知らずの俺を庇う為に、恐怖の権現たる貴族に意見を述べたのだ。


その行為に胸が熱くなる。その仕打ちに殺意が募る。



「もう口を開くな。今、楽にしてやる」



そう呟いた騎士が剣を振り上げた。



(ふざ、けるなっ!!)



内側から魔力が弾ける。麻痺していた体に力が漲り、上に乗っていた兵士を押しのけて騎士の前に出た。

振り下ろされた剣を片手で掴み取る。手の平に刃が食い込んだが血は流れない。


驚愕に染まった騎士に対し、俺は拳に力を込めて顔面を殴り飛ばした。



白目を剥いて吹き飛んでいく騎士から視線を外し、俺は後ろに倒れた。無理して動かした体から力が抜ける。

倒れていく途中で天を見上げた。そこには、太陽が二つあった。上空に柔らかな光を放つ大きな太陽があり、そこから少し離れたところに強烈な光を放つ小さな太陽が見える。


俺が知っている太陽は後者。ではあの大きい太陽は何なのだろうか。その疑問は、意識と共にゆっくりと消えていった。






それから先は覚えていない。気が付くと手枷が嵌められていて馬車に乗っていた。

おそらく、貴族に手を上げたのが原因で奴隷落ちになったんだろうね。その場で処刑されなかっただけマシだったのかな?



……はぁ、自由に世界を見て回れると思っていたんだけどな。


でもまぁ、後悔はない。あの場で手を出さないという選択肢は、俺にはない。なら、これ以上悩んでも意味はないね。



過去を嘆く暇があるなら、今を乗り越えるために頭を使おう。

まずは、どう逃げるか。それが問題だね。



未だに体は麻痺している。魔力を一気に放出すれば体を動かすことができたけど、その後の反動を考えると気軽に使っていい方法ではない。

魔力を阻害する原因を突き止めなければ、ここを逃げ出すことはできない。そして、原因と思しき存在は遥か上空。



……あれ、これ詰んでないよね?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ