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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
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【閑話】悪魔が見た地獄の一角

深夜、厚い雲に月の光すら遮られた暗闇の中を歩く集団がいた。

その者達は皆黒いマントを身に纏って闇に紛れていた。その中央にはマントを纏いはしたが、気配を隠す様子の無いベラギルがいた。


地下室から這い出たベラギルは案内役の衛兵達を引き連れて処刑台に向かっている。処刑台は見せしめのために町の中心に置かれているが、夜中に外を出歩く者はいないため目撃されることはなかった。


何の障害もなく、処刑台にたどり着き、ベラギルと衛兵の一人が処刑台に上がった。



「ベラギル様、これを」



衛兵が懐から手の平サイズの白い箱を二つ取り出し、そのうちの一つをベラギルに差し出した。敬語で対応しているのはエデルナードの命令もあるが、ベラギルの不興を買うことを恐れてというのが大きい。

ベラギルは差し出された箱を手に取って物色した。見た目は何の特徴もない箱だが、その内部に魔力が込められていることを感じ取った。



「あぁ? 何だこれは?」

「魔法陣を起動するための魔道具でございます。この魔法陣は光属性の魔力でないと起動しませんので、この箱を魔法陣の上に置いて魔力を供給することで起動させます」



そういうと衛兵は魔法陣の上にそっと白い箱を乗せて処刑台を降りた。白い箱から魔力が零れていき、魔法陣を発光させた。瞬く間に流れ込んだ魔力が魔法陣を飽和させ、ベラギルを地獄へと送った。



ベラギルが処刑台から消えたのを確認して戻っていく衛兵達、それを遠くから見守っていたエデルナードの側近が魔法の発動を止めた。魔法陣の光は遠くからでも見えてしまうため、光魔法によって零れる光を遮っていたのだ。

側近はエデルナードに遠話で報告し、戻ってきた衛兵を消すために移動した。衛兵は全員平民であり、エデルナードの命令によって行動した者達だ。貴族の命令を外部に漏らす可能性は限りなく低いが、その僅かな可能性もエデルナードは認めない。


こうしてまた、不要な血が流れ落ちた。








========



「ここは、どこだぁ?」



ベラギルは転送された場所を確認して困惑した。目の前には広い空間が広がっている。黒い石でできた床は凹凸がなく、壁も同じく黒いため遠近感が掴めない。明らかに人工物であり、素材が魔鉱石であることはすぐに分かった。


魔鉱石の本来の色は白色の半透明であり、魔力を流し込むと色が変わる。ここにある魔鉱石は全て魔力で満たされているということになる。これだけの量の魔鉱石を常に魔力で満たしておくことなど、ベラギルにも不可能だった。おそらく、自然発生した魔力溜まりが魔鉱石に魔力を供給しているのだと結論付けた。

魔力溜まりは生物が死んだ際に稀に発生する現象。死んでも魂がその場に留まる、いわゆる地縛霊となった際に門が開いた状態を維持してしまうため、魔力が現世に流出し続けて魔力溜まりを形成する。ベラギルも現世に住まう人間もその詳細は知らないが、死が多いところに魔力溜まりができやすいという情報は知っていた。そのため、ベラギルはこの場で多くの人間が人為的に殺されているのだと悟った。


そもそも魔鉱石がこれほど多くあることが異常だった。魔鉱石は普通の鉱石が変異したものだが、それには魔力を長時間曝す必要がある。それは数十年単位とも数百年単位とも言われており、魔力溜まりによって長い時間をかけて自然発生した物しか存在いない。

ここにある魔鉱石は、王国で流通している魔鉱石の量を遥かに超える。自然に発生したとは考えられず、魔力溜まりの規模から考えて、ここは人工的に魔鉱石を生み出すための施設だという結論に至った。


だが、ベラギルが最も困惑しているのは、遥か上空で白く輝く天井だった。



「地下、じゃねぇのか? でもあれは太陽の光でもねぇ。一体なんだ?」



得体の知れない天井に意識を向けていると、足元から気配を感じた。そちらに目を向けると魔獣がいた。

ベラギルは一瞬スライムと見間違えたが、それが間違いであることを瞬時に悟った。黒い体からは仮足が伸びて蠢いている。その体には巨大な目玉が存在している。明らかにスライムではない。

現世には存在しない魔獣のため、ベラギルはそれがソーラムであることを知らない。ソーラムは至る所に点在しているが、魔鉱石と同じ色のために気づくことが遅れた。


そこで漸く、ベラギルは魔力感知を行った。広い空間の至る所に、魔獣の気配を感じる。その一つ一つは小さなもの。今ベラギルが目にしているソーラムだらけだ。

だが、その中で明らかに異質な気配をベラギルは感じ取った。振り向くと、それは背後にいた。



黒い空間の中で、天井を除けば唯一の色彩。白い球体が宙に浮かんでいた。

球体からは純白の翼が生えていたが、それを動かすことなく滞空している。中心には魔法陣が刻まれているが、円環ではなく八芒星だった。その中心には十字の文様が描かれており、魔法陣が淡く輝いている。

ソーラムを見た後ということもあり、ベラギルにはそれが目玉に見えた。その瞳はベラギルに向けられているが、そこに感情は一切ない。その目玉に意思があるのかどうかも怪しい。


ただ、何となく気に食わない。それがベラギルの抱いた感情だった。

周りにいる魔獣は雑魚とも呼べないソーラムのみ、白い目玉は唯の飾りとして存在しているだけ。ここがどこだか特定できてはいないが、少なくとも魔獣の犇めく危険区域ではない。


期待を裏切られた気分になり、ベラギルは鬱憤を晴らすために魔法を放った。この場で一番目につく白い物体へと。

ベラギルが放った魔力玉が真っすぐに飛び、白い目玉に衝突した。



バァアン!



空間に衝撃が駆け抜け、その後に遅れて破裂音が轟く。ベラギルが使用した魔法は爆炎弾。見た目上は魔力の塊だが、その内側には炎が圧縮されていた。対象物に触れたタイミングで炎を覆っていた魔力のコーティングが弾け、その内に秘めた猛威を存分に発揮する。


ベラギルは顕示欲が高いためか、派手な魔法を好んで使用している。火属性の魔法を得意とするが、その中でも威力が高い爆発の魔法を使用することが多い。

普段は威力も音も過剰なため、奴隷紋により使用制限が掛かっている。その制限が解除されるのは、人目を気にする必要がなく、加減する必要がない依頼時のみ。今回がそれに該当するため、普段使えない分のフラストレーション解消も含めて直ぐに使用した。



直撃を受けた物がどうなったのかなど確認する必要はないと、ベラギルは踵を返して壁際に向けて歩き出す。

だが、背後から魔力の揺らぎを感じ取り、数歩進んですぐに後ろを振り向いた。



そこには、最初と変わらず白い目玉が健在していた。まるで先ほどの攻撃が無かったかのように、傷一つ付いていない。

そして、中心にある魔法陣に魔力が集っていくのを感じ取り、ベラギルは再び攻撃を放った。


爆炎弾を一瞬で八発分作り出し、全てを白い目玉に飛ばす。だが、それらは白い目玉から生じた光の波動によって全てかき消された。


「っち!」



ベラギルは咄嗟に障壁を張り、後方へと飛んだ。その後を追うように光の波動が迫りくる。

足元を見れば、その波動に触れたソーラムが一瞬で霧散するのが見えた。正体不明の危険な力に対抗するために、ベラギルは追加の魔法を放った。



「"爆炎斬"!」



ベラギルが手を振るうと斬撃が発生して光の波動に衝突した。爆炎斬は斬撃と爆発を複合した魔法。切り裂いた対象物の傷口を爆発によってこじ開けるという殺傷性の高いものだ。だが、その攻撃すら、一瞬でかき消されてしまった。


光の波動がベラギルに衝突する。ベラギルはこの一瞬のうちに、光の波動が対象物を消滅させる効果を持つことを看破した。その対策として、体に張った障壁に追加で障壁を多重展開していく。


ベラギルの障壁展開の速度はかなり早いが、それでも光の波動が障壁を紙の如く破いていくため間に合わない。

障壁だけでなく爆炎弾も多重発動させて光の波動を部分的に相殺させ、ギリギリのところで防ぎ切った。



光の波動が収まった時、第一下層で生き残っていたのはベラギルのみ。そのベラギルも全身から血を流し、ボロボロの体を引き摺っていた。

今まで感じたことの痛みと、死の実感。それらがベラギルの思考を憤怒に染め上げ、彼が放てる最強魔法のトリガーを引かせた。



「……がふっ! くっそ、がぁ! "爆炎龍撃砲"!!」



ベラギルの前方に直径10メートルの魔法陣が形成される。そこから赤黒い色をした龍が姿を現した。それは細長い体躯をくねらせて天を舞う。

龍は旋回しながら白い目玉を中心に蜷局を巻いていき、そして上空から強靭な顎で白い目玉に噛みついた。そこに確かな手ごたえを感じつつ、ベラギルは龍を爆破させた。



ドゴォオン!!



今までとは比較にならないほどの爆発が空間を揺るがした。衝撃は天に向かって放出され、その衝撃を受けた天井の聖火が激しく脈打った。


本来ならその場にいるベラギルも無事では済まない威力のはずだが、実際には振動が体を揺らすのみだった。

龍の体は爆発物であると同時に、その爆発を防ぐための障壁でもある。爆発で発生した熱も炎も衝撃も、それら全てが内側に向けて放たれていた。金属も一瞬で昇華させるほどの熱量。全てを木っ端微塵にする衝撃。その龍に捕らえられた時点で、死は免れない。本来であれば。



再び光の波動が発生し、龍が起こした炎の柱を内側から打ち消した。

その中心には、白い目玉。翼が半分ほど溶けており、球体には罅が入っている。だが、ベラギルはそれを見て喜べるほど楽観視していなかった。


たった一撃で満身創痍。爆炎龍撃砲は膨大な魔力を必要とするため、連発できるものではない。できたとしても白い目玉を壊すまでには至らない。それどころか、途中で光の波動に衝突すれば暴発する危険もある。いくら炎に耐性のあるベラギルであっても、至近距離で爆発に巻き込まれれば無事では済まない。



ベラギルが今打てる手は一つだけ。偶然にも、白い目玉が魔法陣の上に移動していた。先ほどの爆発によって前方に移動させられたようだ。

ベラギルは一瞬で間合いを詰め、懐から取り出した白い箱を魔法陣に向けて投げ込んだ。魔法陣を発動させて白い目玉を転送させようと考えたのだ。だが、発生した事象はベラギルが想定したもののどれにも該当しなかった。



白い箱から魔力が一気に放出される。それは、行きに魔法陣を発動させた時とは比べ物にならないほどの魔力量が秘められていた。

そして、その箱に秘められたものは、魔力だけではなかった。


白い箱が光となって一瞬で拡大され、白い目玉を中心とした立体魔法陣を形成した。その立体魔法陣に膨大な魔力が流れ込み、一つの魔法を発動させた。



魔法名は、聖櫃。


正しくは劣化版の聖櫃だ。聖櫃は、聖霊魔法に該当する。本来は聖なる者に祝福を、悪しき者に破滅を与える魔法。

だが劣化版故に、その聖櫃は包んだものの一切を破壊する魔法に変わっていた。


魔法発動による影響は聖櫃の外側にもおよび、ベラギルは勢いよく吹き飛ばされた。





ベラギルは全身を強く打ち付けられて壁際に横たわっていた。ぼんやりとする視界の先には、暗闇の中に輝く白い箱が見えた。



「うぅ、クソッ。一体、何が……」

『全く。余計なことを、してくれましたね』



ベラギルは状況を把握するよりも先に、すぐ隣に脅威が迫っていることを察知した。強烈な怒気を孕んだその声に対し、ほぼ条件反射で爆炎弾を放った。


爆発音が轟いたが、その爆発の中にいた人物は気にする様子もなくベラギルの元へと歩み寄った。そして、瞬きの隙すら与えず、手刀で手足と首を切断した。



『せめて、その矮小な魂で償いなさい』



ベラギルには、何が起こったのか正確に把握することはできなかっただろう。

最後にベラギルが感じ取ったのは、僅かな浮遊感。そして、何かに包まれる感触。その後に、意識は消滅した。



ベラギルを屠った者は第一下層に新たにできたオブジェクトを一瞥し、そのまま踵を返した。




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