表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
81/141

悪魔の本領


目を覚まして、すぐに外へと向かう。


記憶は取り戻した。だから、もうここにいる意味はない。

悪魔の王にも興味はないし、生きる目的もできた。後は地獄から出るだけ。


爺さんが声を掛けてくるが、答えずに背を見せて歩き出す。

今は、純恋の元に行くことしか頭にない。



サトリが言っていたが、地獄の出入口は第一下層の天井、聖火の先にあるらしい。

触れただけで手が霧散したが、聖霊魔法を使えば聖火に穴を開けられるかもしれない。



そんなことを考えながら扉に向かおうとしていたが、どれだけ歩いても扉が見当たらない。

最初は扉が黒くて見えないのだと思っていたが違ったみたいだ。


扉が無くなっている。それどころか、壁に辿り着くことすらできない。


その答えは遠くから聞こえてきた。



『まだ話は終わっとらんじゃろう。終わるまではここから出さんよ』



どうやら、扉を隠したのは爺さんの仕業らしい。

マコトのように幻術で隠しているのだろうか? それとも、サトリのように魔鉱石で扉を覆ったのか?


扉を隠すだけなら魔鉱石で覆うだけでいいが、壁がどこにあるのかすら把握できないとなると、幻術の線が濃厚かな。


それなら、術者を殺せばいいだけだね。



爺さんに向けて手を翳す。

そこには真っ黒な手ではなく、人間の手があった。


記憶にあった、死ぬ直前まで見ていた手。

闇の体ではなく人間の体に戻っているようだが、そのことに感慨を得ることはない。


可能だったとしても、もう人間に戻る気はない。

純恋を殺して取り込んだ後、俺は悪魔として生き続ける。

純恋の魂と共に生きて、その後は……



再び漏れ出した恐怖から逃れるために思考を戻し、爺さんに向けて攻撃を放った。

今まで何度も使用している黒槍は、魔法名を唱えなくても発射することができた。


発射した黒槍は一瞬で爺さんの顔面に迫ったが、頭を割ることはなく握りつぶされてしまった。



パチンッ



小さな破裂音が耳に届く。同時に俺の足が吹き飛んだ。


飛んでいく人間の足を呆然と見送る。痛みはなく、足の断面は真っ黒になっていた。

外側だけ人間の皮を被っているが、中身は闇で出来ている。そのことに安堵した。


体が闇で出来ていることは今までと同じだが、その闇は外から取り込むのではなく、内から溢れ出る。


闇を外から取り込む工程がない分、欠損した足は一瞬で修復できた。

その後も小さな破裂音と共に手足が吹き飛ぶが、気にすることなく爺さんを見る。


爺さんが指を弾く度に手足が飛ぶ。よく見れば、指を弾く瞬間に魔力を指先に流している。

単純に魔力を飛ばしているのだろうが、それだけで黒槍より威力が上っていうのは規格外すぎる。



ただ、付加効果はなく、魔力を打ち消せばいいだけだから対処は簡単だね。


外から闇を取り込み、そこから魔法の情報を取り出す。

頭の中に闇の意思が流れ込み、凄惨な光景が脳裏に浮かぶが、もう慣れた。

非情な現実が、今では日常なのだと感じる。そう思ってしまえば、闇の意思に感化されることもない。



『"黒衣"』



闇から取り出した魔法名を口にした。魔力でマントを作り出し、それを身に纏う。

衣服を作り出す魔法はいくつも存在するみたいだが、黒衣はただ着るだけのものではない。

布に纏った魔力により、魔法攻撃を対消滅させる効果が付与されている。


それにより爺さんの攻撃を防ぐことはできた。だが、一度攻撃を受けただけで触れた部分の布が弾け飛んでしまう。

魔力の塊だけなら容易に防ぎ切れると思っていたんだけどね。

爺さんの攻撃が強すぎて防御としては些か不安だけど、黒衣は魔力を供給するだけで修復できる。


爺さんが別の攻撃に切り替える前に、闇から取り込んだ別の魔法を発動させる。

黒槍が簡単に壊されたのを考慮し、受け止めることが難しい魔法を選択した。


ただ、この魔法は攻撃範囲が狭い。黒槍より速度が上といっても、爺さんは避けられるだろう。

そのため、同じ魔法を多重発動させた。目の前に無数の魔法陣が形成される。



『"破刻一線"』



複数の光線が爺さんに向かって発射された。

破壊光線は触れたものを分解して真っ直ぐに突き進む。それはミツメが使っていた黒い風に似た効果を持っていた。


防御不可で避ける以外に防ぎようがないはずだが、爺さんはその場に留まったまま回避を遣って退けた。


魔法名は唱えていないが、不自然な空間の揺らぎが見えた。それにより真っ直ぐにしか進まないはずの光線が湾曲し、爺さんにも壁にもぶつかることなく遥か彼方へと飛んでいった。



その光景に目を奪われていると、魔力塊が横から飛んできた。

黒衣では勢いを殺しきれずに跳ね飛ばされ、そのまま遠くに飛ばされる。


強烈な衝撃。爺さんの攻撃なのだろう。


だが、そんなことはどうでもいい。今は爺さんの使っている魔法に興味が向いていた。


あれは、空間を操っている……?



『"黒鎧顕現"』



魔法を唱え、内から溢れる闇を使って鎧を形成した。

外から闇を取り込めばその意思によって意識を乗っ取られる恐れがあるが、自身の闇のみで作り出したためその不安はない。

そして再度黒衣を発動させてマントで体を覆う。これで先ほどのような強い衝撃を受けても堪え切ることができるだろう。


防御を固めて爺さんに向き直すと、爺さんは今まで隠していた金色の魔力を解放していた。

その姿からは、神々しさすら感じた。



その桁違いの力を感じ取り、思わず口角が吊り上がった。



欲しい。



力への渇望が心を満たす。絶対的な強者を前にしてなお、恐怖心より欲が前面に押し出された。


空間魔法があれば、地獄の外に出られるだろう。

それに、もし障害が立ちはだかろうとも、圧倒的な力で押し潰すことができるだろう。



力が欲しい。目の前の爺さんの力が。



なら、奪えばいい。奪って自分のものにすればいい。


相手を殺し、魂を取り込み、相手の力や知識、それらすべてを奪う。

それこそが、悪魔の本質なのだから。



『お前の力、奪ってやる』



思わず口から言葉が漏れた。それを聞いて爺さんも笑みを浮かべる。


金色の魔力がより一層輝きを増し、体を包み込む。

それだけで俺の鎧と同じか、それ以上の防御力がありそうだね。


破刻一線なら貫くことができるかもしれないが、普通に放てば先ほどの二の舞だ。

ミツメのように黒い風が使えればよかったんだけど、それを使うことはできない。魔法名すら知らないからね。



なら、もっと知識を取り込めばいい。

闇に干渉し、それが持つ知識をすべて取り込む。無駄な意思は片隅に追いやって魔法に関する知識のみを収集する。


その知識を元に、手に魔法効果を付加した。使用するのは先ほどと同じく破刻一線。

人間の皮を突き破るように、内側から針を射出した。


魔法効果を付与したことにより黒く光っている針は、真っ直ぐに爺さんの元に伸びていく。

光線ではないため魔法単体の時より速度は遅くなっているが、針を分散させて放っているため手数は倍以上になっている。

それでも爺さんは先ほどと同様に空間を歪ませて針の軌道をすべて逸らした。



その動きは予想通り。

正面からだと攻撃が当たらない。なら、側面からの攻撃ならどうだ!



木の枝のように針から針が無数に伸びていく。新しく生えた針もまた枝分かれし、無数の針が縦横無尽に走っていく。

一瞬にして針が空間を埋め尽くす。それによって爺さんも無数の針に貫かれた。


だが、それを信じることなく手から針を切り離して上空に跳んだ。



シュンッ



風切り音と共に両足が切り飛ばされた。

少し逃げるのが遅れてしまったが、首を切られることは回避できた。


目の前にいた爺さんは姿を消し、後ろから飛んできた斬撃が針の林を刈り取った。



翼を生やして滞空し、後ろにいる爺さんを視界に捕らえる。

空間魔法が使えるなら空間転移もできると思っていたが、すぐに使ってくるとは思っていなかった。


それに、鎧があっても紙切れほどの抵抗もなく切り捨てられた。

空間ごと切断するようなこともできるのかもしれない。



警戒しても意味はない。多分、今の攻撃も俺が避けられるタイミングを見計らっていただろうから。

つまりは、ナメられているということ。それに若干の腹立たしさは感じるが、それを隙として突く。


力の差が歴然なら、策略を練るしかない。

爺さんが油断しているうちに、今出せる最大の攻撃を食らわしてやる!



『"暗糸乱操"!』



俺を取り囲むように三つの魔法陣を地面に描写し、そこから黒い柱が聳え立った。

それらが解れて細い糸となり、空間を埋め尽くしていく。

索敵魔法であり、空間転移されても移動先をすぐに感知することができる。


更に、この糸には魔法を付加してある。

魔法付加は魔法で生み出した物体にも可能だ。前にチコが魔法で発生させた氷壁に魔法を掛けていたのも魔法付加なのだろう。


それを感じ取られないようにするために、すぐに攻撃を再開する。


爺さんに向けて片手から針を射出しつつ、糸から伝わる感触に意識を向ける。

これで爺さんが逃げた先にもう片方の手で攻撃を仕掛ける。


そう考えていたのだが、爺さんの動きを感知して攻撃の手を止めてしまった。



爺さんが俺の目の前に転移した。そう見えていた。

だが実際は、爺さんは針を見て躱し、そのまま俺の目の前に迫っていた。

つまり、空間転移ではなく瞬間移動だ。



『儂が移動した先を捕らえたいようじゃが、今のお主では遅すぎて話にならんよ。それに、この糸に魔法を付加しておるようじゃが無意味じゃよ。こんな細い糸では儂の魔力で掻き消えてしまうからのう』

『ちっ!』



針を射出しながら後方に跳ぶが、その時には爺さんは既に移動して後方に回っていた。

爺さんはその場で腕を横に振る。それによって飛来した斬撃が、俺の体を上下に分断した。



糸で爺さんが俺に向けて手をかざしているのを感知した。

両者の間に魔法陣を展開し、反衝を発動させる。



ドォン!



反衝によるエネルギー変換が間に合わず、魔法陣が吹き飛ぶ。

許容量を超える威力に耐えきることができなかった。その衝撃は多少弱まっていたが、それでも俺は勢いよく吹き飛ばされた。



下半身を失い、鎧が粉々に砕け散った。

それでも体を修復させずに糸に意識を向ける。吹き飛んだ糸はバラバラになっても操ることができる。

そして、糸に付加した魔法は、黒鉛筆。


それは爺さんにダメージを与えるためではない。

前に黒鉛筆を発動した時は攻撃としてしか使っていたが、この魔法にはもう一つ用途がある。


それは、魔法陣の自動描写。むしろそれこそが本来の使い方だった。

黒鉛筆に充填した魔力を使って地面や空中など、どこにでも魔法陣を描写して発動することができる。


か細い糸が線を描き、それを束ねて魔法陣を形成する。

それは立体型魔法陣であり、爺さんを中心にして球状に配置される。


魔法発動の直前で魔法陣の外に逃げる予定だったが、都合よく吹き飛ばされたためすぐに魔法の発動に取り掛かる。

発動するのは重力魔法。基本的には重力の大きさを増減したり擬似重力を発生させたりする魔法だが、今から発動する魔法はその集大成だ。



『"重力崩壊"!』



魔法の発動と共に立体型魔法陣の中が歪んだ。

それは光を屈折させるほどの重力によるものであり、魔法陣の内部にあるものすべてを圧縮して飲み込んでいく。


重力魔法は重力そのものに干渉して向きや大きさを変える。

今展開している魔法陣はその向きを球の中心に変更し、中心に向かって強力な重力場を形成する。

膨大な魔力と緻密な制御が必要になるため、本来なら魔法を発動するために巨大な装置が必要になるらしい。


その魔法を俺だけで発動できたのは、黒鉛筆の自動描写のお陰だった。


蛇口の大きさと水量が比例するように、魔法陣はその大きさによって魔力の供給量が変わる。

今回の魔法は球状に重力発生の魔法陣を同じ大きさで等間隔に並べなければいけない。そのため、これを手動で発動させるのは不可能だ。

だが、黒鉛筆のように自動で描写することができるなら、魔法陣を完成させることは可能。後は魔力を思い切り流し込めば、すべての魔法陣から同じ力で重力を発生させることができる。



魔法陣の中に爺さんの姿はない。逃げられた可能性もあるが、球の周りに漂う糸からは何も感知できなかった。少なくとも、瞬間移動では逃げていないはずだ。

空間転移を使われた可能性もあるが、周りに漂う糸からは爺さんの存在を感知できない。意味もなく遠くに逃げたりはしないだろうから、魔法が当たったのだと思いたい。



爺さんがいるとしたら魔法陣の中心だね。強大な重力場によって中心は歪みが強くてはっきりと見えない。もし爺さんが逃げていないなら、中心で重力に押しつぶされているはずだ。


今のうちに放置していた体の損傷を治し、さらに鎧も修復した。いつ戦闘が再開してもいいように。


魔法が当たっていたとして、問題はどれだけ爺さんにダメージを与えられたのかどうか。

殺せていたなら一番いいのだが、あの爺さんが簡単に死ぬとは思えない。


それでも、強力な魔法を当てることに成功した。だから、淡い期待は抱いてしまう。



その幻想はあっという間に吹き飛ばされた。



バアアァァン!!



球体が内側から破裂し、金色の光が衝撃波となって空間を走り抜けた。その衝撃だけで再び吹き飛ばされる。

一瞬で鎧が粉砕されたが、最早直す気も起きない。目の前にいる敵にとって、鎧は無いに等しいのだから。



『ほっほ。策を弄し儂に魔法を当てるまでは良かった。じゃが、儂を圧殺するにはまだ威力不足じゃ』



陽気な口調で佇む爺さんを見て絶句する。あの魔法は今知り得る中で最も威力の高い魔法だった。

それを当てても傷一つつけることができなかった。その時点で、ほぼ勝ち目がなくなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ