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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
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悪魔の誕生



『ああああああああああ!!』



生前の記憶が一気に流れ込み、人間だった頃の一生を一瞬で体験する。


過ぎ去りゆく過去は悲しみに染まり、絶望の終着点に辿り着く。

自分の死ぬ瞬間を思い出し、意識が現実に戻ってもなお絶叫を止められない。



闇の体が消えているせいで五感は働かず、暗闇の中で意識を取り戻す。

それは、死んで無になったまま漂っているような感覚に陥り、正常な思考を取り戻せないでいる。



これが、死。



世界から隔離され、個としての存在が消滅する。

心が砕かれ、精神が崩壊する。

内側から黒い感情が溢れ出て、魂を穢す。


人の魂では受け止めることのできない膨大な負の感情。

それを受け止めようとするならば、人間を止めるしかない。


輪廻の輪に戻れず、負の感情を祓えない魂には、悪魔になる以外生き残る術はない。

つまり、これは悪魔になるための通過儀礼。それを知らずに悪魔となっていた俺は幸せだったのだろう。

これを経験して、まともな精神を保っていられるわけがない。



『あぁ、嫌、嫌だ。死にたくない! 嫌だ! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!』



思えば思うほど、溢れ出る感情が魂をすり潰していく。


いくら生にしがみ付こうとも、死んだ記憶は消えはしない。

魂に刻まれた記憶が、魂を割いていく。


発作のように死の記憶が浮かんでくる。

そのたびに絶叫し、疲弊し、魂を黒く染める。





やがて思考は止まり、すべてを静寂が包み込んだ。





俺は死んだ。


殺された。


魔法に撃たれて。


誰に?


分からない。


ただ。


あの場にいたのは、一人だけ。


純恋。


普段と様子が違った。


言動がおかしかった。


心の中で生きて?


永遠に一緒?


どうやって?


決まっている。


殺して一緒になる。


俺を殺した。


魔法を使えた?


知らない。


知りたくもない。


殺された。


愛していた。


家族として。


恋人として。


殺された。


ずっと一緒にいることを望んだ。


辛い現実だった。


でも幸せだった。


二人でなら幸せになれた。


殺された。


愛していた。


殺された。



一緒に



殺して



愛して



永遠に





愛している(殺してやる)







闇が内側から溢れ出る。今までの借り物ではない。自分自身の闇。


それは心が砕けた証拠。


それでも、もう止まれない。


真実を知った今、すべきことは一つ。


純恋を、殺す。


愛しているから、一緒にいたいから、永遠に一緒にいるために、殺す。

殺して魂を引き抜いて、それを自身に取り込む。



多分、純恋も同じことをしようとしていたのだろう。だから殺されたのだろう。



けど、ごめん。叶っていない。

俺は悪魔として転生している。だから、純恋は失敗したんだ。



なら、今度は俺が実行する。もう辛い思いをさせない。

もう殺させたりしない。



俺が純恋を殺して、純恋と、永遠に一緒に……









==============




御子の体を形成していた闇を剥ぎ取ると、白い玉が姿を現しよった。

その玉には純白の羽が生えておるが、羽ばたくことなく宙に浮かんでおる。


それは魂を収めるための器であり、神の加護によって作られたもの。

地獄に落ちた御子の魂を保護するためのものじゃが、その力は弱まっておるな。


悪魔や闇といった外部からの干渉だけならば、防ぐことは容易であったじゃろう。

じゃが、問題は内側からの干渉。御子の魂に宿る負の感情が、長い年月を経て神の力を凌駕した。


あの二本の角がその証拠じゃな。神の力を変異させ、自身の一部として取り込んでおる。

内側からの干渉を防ぐために記憶を封印していたが、もう変異を取り除くことはできぬ。



むしろ、記憶を失っているせいで己の内なる感情を理解できずに暴走させておる。このまま放置すれば、魂が崩壊するのは明らかじゃ。

じゃが、記憶を取り戻させることも危険であることに変わりない。生前の意思に同調できなければ、相反する意思に魂は引き裂かれ、最悪は自我を失うこととなる。


どれほど幸せな人生を過ごしていようとも、生前の記憶には非情な現実が含まれておる。

それを知るだけでも、魂に与える影響は測り知れない。そして最後に訪れる死の記憶。


強靭な意思を持つ者、悪魔の核となり得る者でなければ、己の記憶に呑まれてしまうじゃろう。





そして、どうやら御子は生前の記憶を乗り越えることはできなかったようじゃ。

記憶をすべて取り込んだ瞬間、白い玉に罅が入り、黒い光が零れ出た。



白い玉は燻り、黒く染まり、そして飲み込まれる。

内側から膨大な闇が汚泥のように溢れ、瞬く間に体を構成する。


それは悪魔の誕生と同じ現象。つまり、人間の魂が悪魔のそれに変異する瞬間。

御子は人間の魂を捨て、完全なる悪魔としての転生を選んだようじゃ。



見た目は子供じゃのう。衣服は身にまとっておらず、か細い体を露わにしておる。

虚ろな瞳は漆黒に染まり、こちらを見てはおらぬな。


あれが御子の生前の姿なのかのう?



『目は覚めたかの?』



御子に話しかけたが、御子は答えるどころか踵を返し、来た道を戻っていく。……儂を無視するとは、良い度胸じゃのう。

どうやら外に出たいようじゃが、無駄じゃ。闘技場は御子が入ってきた瞬間に空間をずらしてあるからのう。

いくら歩いても壁にはたどり着けんわい。



『まだ話は終わっとらんじゃろう。終わるまではここから出さんよ』



漸く儂の声が届いたようじゃが、表情から感情が見て取れん。


御子は徐に手を上げ、儂に向けて攻撃を仕掛けてきおった。あれは黒槍じゃな。



発射速度は悪くない。黒槍は一瞬で儂の眼前まで迫っていた。

上位悪魔程度なら反応できずに貫かれていたかもしれんのう。


そんなことを考えながら、槍を片手で掴み取って握りつぶした。

速度は申し分ないが、まだ強度も威力も足りんな。



『己の闇に呑みこまれたようじゃのう。全く、手がかかるわい』



やはり人間である御子には生前の記憶は許容できるものではなかったか。

できれば乗り越えてほしかったのじゃが、残念じゃな。



パチンッ



指を弾く。それに合わせて、御子の足が吹き飛んだ。

儂の魔力を弾き飛ばしただけじゃが、悪魔相手であればそれだけで致命傷となる。

じゃが、御子は気に留める様子もなく一瞬で足を再生させた。



パチンッ、パチンッ、パチンッ



指を弾く度に御子の手足が吹き飛ぶが、一瞬で再生しておる。

再生速度は今までの比ではないのう。



『"黒衣"』



御子が魔法名を呟くと、全身に纏った魔力が漆黒の衣となって身を包み込んだ。

儂の魔力が衣に当たるが、それは衣を弾くのみで体には届かない。どうやら、触れた瞬間に儂の魔力を対消滅させているようじゃな。


そして、御子は目の前に無数の魔法陣を展開し、魔法名を唱えた。



『"破刻一線"』



魔法陣から黒い線が発射される。それは、破壊の光線。触れたものの一切を壊して線を描く。

危険な魔法じゃな。いくら儂でも、生身で受ければ傷を負うほどじゃ。


まぁ、当たることはないがのう。

真っ直ぐ飛んでくる攻撃なぞ、空間を歪ませばよいだけじゃ。



『少し落ち着くがよい』



手を払って魔力を飛ばし、御子を吹き飛ばす。

衝撃により遥か後方へ飛んでいくが、衣を剥がすのみで体にダメージは与えられておらんのう。



『"黒鎧顕現"』



御子はより強固な防具を身に纏った。昔儂に戦いを挑んだ魔将が使っておった魔法か。

濃密な闇を身に纏うことで強大な力を得る代わりに闇の意思に侵食される諸刃の魔法。

じゃが、御子は自身の闇のみで鎧を顕現しおったから欠点はないようじゃ。


軽くあしらおうと思っておったが、少し楽しくなってきてしまったわい。

悪魔共と遊ぶときは一瞬で終わってしまうからのう。今の御子ならば、多少遊んでも壊れんじゃろう。



『面白い。今のお主の力を見させてもらおうかのう』



普段は閉じている門を開放し、魔力を放出させる。儂の内から黄金の魔力が吹き荒れる。

あまり力を入れすぎると御子を消しかねん。やり過ぎないように気をつけんとな。



『お前の力、奪ってやる』



大抵の悪魔共は儂の魔力を感じ取った瞬間に恐れ戦くのじゃが、なんと御子は儂の力を奪うと豪語しおった。

獰猛な笑みを浮かべる御子を見て、思わず儂も笑みを浮かべてしまったわい。



『ほっほ、若造め。やれるものならやってみよ』



サトリや他の悪魔共が御子を気に掛けるのも理解できるわい。


ならば、儂も力の一端を見せてやろう。


神の力、その身で味わうがよい。



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