悪魔は本能に忠実
悪魔達とのしょうもないやり取りに区切りをつけて、暗い洞窟を突き進む。
そのままマコトと戦うつもりだったんだけど、マコトに戦う意思は無いと言われた。もう認めているから必要ないと。
意気込んでいた分拍子抜けではあったけど、これで戦いは終わった。
……そう、なればよかったんだけどね。
まだ、最後の戦いが残っている。現王との戦いが。
戴冠式で王になるためには、5体の悪魔の推薦が必要。
そして、戴冠式には推薦する5体の悪魔が同席していなければいけない、とのことだった。
つまり、スクイが消えてしまったことで王になる条件を満たせていない。
そうなると、もう一つの選択肢を選ぶしかなくなる。このアトネフォシナーで一番強い悪魔との一騎打ち。
誰とは聞いていなかったからマコトに聞いたら、現王とのことだった。まぁ予想は付いていたけどね。マコトがあの方と言うくらいなんだから。
マコトの予想では、もし仮に5体の悪魔から推薦を得られたとしても、現王との闘いは避けられなかったとのこと。
今まで現王は、王座が欲しければ力尽くで取りに来いというスタンスだった。
だから、5体の悪魔から推薦をもぎ取るという条件は、サトリの思惑によるものである可能性が高いとのこと。その思惑が何なのかはマコトも分からないらしいけど。
……もしそれが本当なら、今までの苦労は一体何だったんだろうか。まぁ、どのみち戦いからは逃れられなかったから、いきなり現王と戦うよりかはマシだったんだろうけど。
現王は遥か格上の存在であり、上位悪魔が束になっても勝てない程らしい。
こっちは上位悪魔一体にすら勝てないんだから、そんな化け物に勝てる気がしない。
タダでやられる気は毛頭ないけど、足取りが重くなるのは仕方がないよね。
でも、この場に留まっていても何も解決しないか。
大きな溜息を吐きつつ、渋々足を動かし始めた。
重い足取りのまましばらく進むと、開けた場所に辿りついた。
そこには巨大な穴が開いていた。直径は50メートルくらいかな。壁際には階段があり、螺旋を描いて底まで続いている。かなり距離があるけど、第二下層から第六下層までの穴よりかは浅いね。
あの時はまだ暗視も飛行もできなかったからかなり怖かったけど、もう今となっては問題ない。
わざわざ階段を使う必要もなく、翼を広げて穴から飛び降りる。落下の速度を調整し、あっという間に底に到達した。翼を使うのも大分慣れてきたね。
俺に続いて降り立ったのはヨミ。足音一つ立てずにふわりと足を着けた。その背にはクロアゲハのような真っ黒な翅が生えている。翅を動かす度に微小な粒子が舞っているけど、あれは鱗粉なのかな?
虫はあんまり好きじゃないけど、ヨミの容姿に似合っていて可憐さが際立っている。……うん、悪くないだろう。
続いてミツメが降り立った。風を使って降りてきたみたいだ。
風使いって便利だよね。風で攻撃も防御もできるし、こうやって空を飛ぶこともできるんだから。
そんなことを考えながらミツメの方を向いたら舌打ちされた。……見ただけで舌打ちするのはどうかと思う。
最も、口からボソッとサトリの名前が零れていたから、原因は俺だけではないみたいだけど。
ドオオオオン!!
もの凄い爆音が隣から発生した。音の原因は、次に聞こえてきた声で明らかになった。
『あああぁん! 足元から突き抜けてくるこの衝撃、すっごくいいわぁ!!』
『んん~! 刺激が全身を巡るこの感じ~。癖になりそ~!』
……何あの変態共。
魔法も使わずにあの高さから落下するとか、正気の沙汰とは思えない。
というか、いくら悪魔でも耐えられるものではない。現に足は折れているみたいだ。いや、足が折れるだけで済んでいるのもおかしいんだけど。
折れた足はすぐに修復された。まだ人間を基準として考えているから可笑しく見えるだけで、悪魔基準で見たら可笑しくないのか?
多少無茶しても傷はすぐに治るし、死んでも復活するからね。
……それを考慮してもやっぱり可笑しいのでは?
『いやぁ、頑丈っすね。他の悪魔なら確実に死んでるっす』
そんなことを言いながらマコトが地面から這い出てきた。
『何でマコトは飛び降りてないの?』
『悪魔が全員飛び降り志願者と思ったら大間違いっす。いつもは階段使って降りてるっすよ。今回は御子さんの影を利用させてもらえたんで楽に来れたっす』
『許可はしていないけどね』
マコトはここに来る前に、気絶していたムカデとベラギルをマコト自身の影の中に収納していた。おそらく同じ魔法を使って俺の影の中に入り込んでいたのだろう。
軽口はその辺にして、俺は目の前にいる悪魔に目を向けた。
『ようこそ。お待ちしておりましたよ』
そこにはサトリが待ち構えていた。その後ろには、さらに奥へと続く道がある。
『戦いは全て見ておりました。素晴らしい成長を遂げられましたが、残念ながらスクイは消滅してしまったようですね』
『喧しい。お前が俺を殺そうとしていたのは聞いている』
道中で絡んできた変態達から、俺が気絶している時のことを聞いた。
マコトが必死に俺を守ってくれたことも聞いたけど、敢えてお礼は言わない。どうせ調子に乗るし。
『ムフフフフ。未遂だったのですから、そのような怖い顔をしないでください』
サトリは気にする様子など全くなく淡々とそう告げた。さすがに殺意が湧いてくる。
ただ、この場で一番殺意を滾らせているのは、ミツメだった。
必死に抑えているのだろうが、体の内から黒い風が漏れている。それを見て冷静さを取り戻していなかったら、サトリに攻撃を仕掛けていたところだ。
サトリはミツメの様子を気にすることなく、道の先を指示した。
『この先に、王が居られます。御子は5体の悪魔の推薦を勝ち得なかったため、王と直接戦い、その力を誇示する必要があります』
それを聞いて道の先を覗き見る。かなり距離があるが、行き止まりには扉が見えた。あの先に王がいるのだろう。
悪魔の王ってことはつまり、変態共のトップということか。……絶対碌な奴じゃないだろうね。
『他の者はこの場で待機となります』
『あれ? 観客席に行くんじゃないんすか?』
『観客席?』
『あぁ、伝えていませんでいたね。この先には闘技場がございます。そこで王と戦っていただきます』
『え? 何で闘技場が地獄にあるの?』
『ムフフ、もちろん娯楽のためですよ』
サトリ曰く、元は最下層には玉座の間しかなかったが、悪魔達が王の座を狙って戦いを挑むことが増えたため、王の要請によりサトリが最下層に開けた場所を用意した。
王は雑魚を一体ずつ倒すのが面倒だからという理由で広場を用意させたそうで、挑んできた悪魔達を全て消し飛ばしていたため、処刑の間という物騒な名前が付いたらしい。
それを面白いと思った悪魔達が観戦するようになり、サトリが娯楽とするために何もなかった空間を闘技場に作り変えたそうだ。
……本当、悪魔は欲望に忠実だよね。
『本当なら観客席から王と御子の戦いを楽しむ、もとい見守る予定でしたが、御子が聖霊魔法を使うと他の悪魔が消滅してしまいますからね。観客席は魔鉱石で覆って隔離してあります』
『ええ~、じゃあ観戦できないの~?』
『それは問題ありません。私の魔法でここに闘技場の映像を映し出しますので』
『それなら問題ないわね。ここで御子ちゃんの雄姿見ているから頑張ってね!』
『瞬殺されないように気を付けてね~』
『いや~、見物っすよね』
……こっちは命がけで戦いを挑もうとしているんだけど。
まぁ、悪魔に命の心配される方が不気味か。
『メア、がんばって』
観戦モードで楽しんでいる悪魔達を見て苛立ちが湧き上がっていたが、ヨミのお陰で怒りが吹き飛んだ。
『おい』
反対側から声を掛けられて振り向くと、ミツメが俺を睨みつけていた。
『テメェは俺が倒す。だから、死んだらぶっ殺すからなぁ!』
そういうとミツメはそっぽを向いてしまった。
これは、ミツメなりの激励のつもりなのかな。死んでから殺すって、悪魔だと成り立つから笑えないよね。
勝てる気は全くしていない。生き残れる自信も、ない。
それでも、ここで弱音を吐くわけにはいかない。応援してくれてる者がいるなら、最後まで抗ってやる。
最初、自分が悪魔に転生したと分かったときは、死を選ぼうとしていたんだけどね。
今となっては、意地でも生きたいと、そう思える。
俺はヨミとミツメの頭に手を置いて、決意する。
『あぁ。頑張って王になってくるよ』
ヨミはコクッと首を動かし、ミツメは俺の手を払い除けた。
……ミツメの目が怖い。このままだとミツメに切り刻まれそうだ。そう思い、俺は足早に扉へと向かった。




