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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
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【side ミツメ】悪魔が望む先は


雑多な感情が俺の中に流れ込んできやがる。

自分で闇を取り込んでおいて、それを止めることができねぇ。


その原因は分かっている。俺の周りに吹き荒れている黒い風。



羅刹鬼という魔法。



俺の感情が殺意で埋め尽くされ、溢れ出た感情は魔力と共に吐き出された。

その風に闇が呼応し、魔力と闇が混ざり合ってどす黒い黒に変色した。


風が黒くなった瞬間、殺意が俺を塗りつぶしそうになり、それを吐き出すために魔法名を唱えた。

使ったこともない魔法を。



『ぐ、ぐぅぁっ! がぁあああああ!!』



叫び声が微かに聞こえた。薄らいでいく意識の中、自分が叫んでいることを知った。


体が熱い。目が疼く。

全身を襲う激痛が、闇に塗りつぶされそうになる意識を辛うじて保たせている。


滾らせた殺意がサトリに向く。

感情のまま腕を振るい黒い風をぶつけてやった。


サトリが魔力で張った防壁に阻まれたが、防壁を壊すことはできた。

そして黒い風は魔力も取り込むらしい。サトリの魔力が黒い風に取り込まれてさらに威力を増す。



体を動かそうとして、俺の体が魔鉱石で縫い付けられていることを思い出した。

既に状況が把握できない程切迫している。それを考慮している余裕もねぇが。



『がぁあああ!』



俺を縫い付ける針に黒い風を叩きつける。

魔鉱石に含まれた魔力を分解していく。すぐに魔鉱石を通って他のところからサトリの魔力が流れ込んできやがるが、それよりも分解する方が速ぇ。


黒い風が魔力を分解し、魔力の抜けた魔鉱石の針を壊していく。

体が動くようになり、鳥籠の外へ抜け出した。



そして、サトリを視界に捉えた。

何か話しかけているようだが、何も聞こえねぇ。聞く気もねぇ。



普段ならどれだけキレてもサトリには不用意に手は出さねぇ。

それは単純に力の差が大きいってのもあるが、何を仕出かすか分からないというのがデカい。


あの盗撮魔は俺が他の悪魔を舎弟にしていたことを知っている。

それが俺の弱みになることも。


だが、もう心配する必要はなくなった。サトリが、そう仕向けた。

だから、思い切り攻撃してやる。ありったけの殺意を込めて。



『がぁ!』



腕から黒い斬撃が吹き飛ぶ。通常よりも明らかに威力が高ぇ。

それでもサトリは魔鉱石の壁を生成して容易に防ぎやがった。


それだけでなく、壁と天井から魔鉱石の礫が飛ばされてきた。


弾丸の雨って、こういうことをいうのか?



一瞬頭を過った変な考えは、自分の咆哮で掻き消えた。



『ぐるぁあ!!』



体から思い切り風を放出させた。それにぶつかった礫は魔力を一瞬で分解され、魔鉱石自体も分解した。

魔鉱石の硬度は魔力量に比例する。礫程度の大きさなら容易に分解できる。


だが、問題なのはサトリの攻撃ではなく、風を出す度に取り込まれる闇だ。

今の放出で、さらに闇を取り込んじまった。体の痛みは更に増し、視界が歪む。



少しでも放出しようと、斬撃に闇を乗せて全方向に打ち飛ばす。

黒い風は放出しても俺の体の中に戻ろうと循環するが、放出しているうちは痛みが少し和らぐ。

放出した風が更に闇を取り込むのは分かり切っているが、今はこれしか方法がねぇ。



歪んだ視界の先には、サトリが笑みを浮かべて佇んでいた。

その面を見て、殺意がぶり返す。笑ってんじゃねぇ!



『がぁああ!』



腕に風を密集させて、サトリに殴り掛かる。だが、壁から放出された魔鉱石の塊に吹き飛ばされた。反応はできたが、黒い風の分解速度では間に合わなかった。



壁に挟まれたが、黒い風で包まれていたためダメージはねぇ。目の前の塊をどかして、再度サトリに歩み寄る。


あの野郎、俺のことは眼中にねぇのか、上の空になってやがる。

それが癇に障り、怒りが加速する。



『がああぁああ!』



体の外に放出していた風を意識的に取り込み、留める。

痛みが限界を超え、体が動かなくなった。もう、視界も真っ暗だ。


それでも、魔力感知でサトリがいるところは分かる。

体に留めた風を、一気に前方に放出。そうしようとしたが、その前に潰されてしまった。


言葉通り、魔鉱石の塊によって。

前方に出そうとした風を慌てて全方向に放出したが、分解できるのは表面だけで抜け出せねぇ。


藻掻いているうちに、サトリが魔法を放ったのを感知した。

俺を包む魔鉱石ごと対象になった魔法が発動された。



少し遅れて魔鉱石を分解して外に出た。

そこにはもう、サトリはいなかった。





サトリの魔力は感知できるが、それは魔鉱石に含まれている魔力。

他には悪魔が数体、それ以外にも微量の魔力を多く感じるが、それは魔獣だろう。


僅かな希望を抱いて舎弟達の魔力を感知してみたが、1体も見つからなかった。

……それはそうだろうな。目の前で消滅するのを見ていたんだから。



魔力感知を続ける。サトリではなく、俺の舎弟共を殺したスクイという悪魔を探す。

だが、知らない魔力が多いせいでどれがスクイか分からねぇ。


悪魔や魔獣が見境なしに攻撃をしているせいか、俺の方にも攻撃が来ている。

まぁ、黒い風を放出して渦を形成しているから攻撃は当たらねぇが。


黒い風を大量に放出し、かつ闇を取り込まないようにするために渦を形成した。そうすれば、台風の目のように俺の周りは無風になる。


全く影響がないわけではないが、意識の混濁は解消されている。

だが、次に展開した黒い風をすべて取り込めば、俺の意識は消滅するだろう。

そうなる前に、殺意の元凶を打つ。



空間全体に黒い風を送り込み、取り込んだ魔力から舎弟共の魔力が含まれている悪魔を検知する。

細かな作業は苦手だが、時間が経つにつれて悪魔と魔獣の数が減っていくため作業が楽になった。



そして、見つけた。



強い魔法が放たれたからその使用者を感知したら、微かだが舎弟共の魔力を感じた。


体の周りを巡回していた風を集結し、その風の塊を思い切りクソ野郎にぶつけた。


対象は勢いよく吹き飛んだが、まだ消滅はしていない。

追撃しようとしたが、動くことができなかった。



クソ野郎にぶつけた黒い風が俺の元に殺到し、そのまま取り込んでしまった。


雑多な感情に精神が侵される。

その中に、舎弟共の意思は感じられなかった。


感じられたのは、クソ野郎のものだった。



闇はそのものの意思を伝える。嘘偽りなく。

だからこそ、分かっちまった。



あのクソ野郎が、本気で悪魔を救おうとしていたことを。



アイツは、舎弟共を含めて悪魔達を救おうとしていた。

舎弟共の魂を魂魄隷化という魔法で保護し、死亡時の魂の消耗を魂魄保護で守っている。


だからだろう、アイツを思いっきり黒い風で吹き飛ばして体の過半数を消滅させたのに、アイツ以外の魂を取り込まなかったのは。



意味が分からねぇ。悪魔を守るって何から? 悪魔を救うって何の為に?



何故か、意識の混濁が和らいでいるのを気にもせず、俺はアイツに意識を向けていた。

できるなら、アイツから直接聞いてみてぇ。その上で、気に入らねぇなら殺す。



そう思っていたのに、アイツは消滅した。他の悪魔の攻撃によって。



意識が、闇に持っていかれる。真っ黒な世界で、魔力感知だけを頼りに状況を把握する。

アイツは消滅した、はずだった。なのに、まだ存在を感知できる。



一瞬消えたはずだ。それは魔力だけでなく、魂という存在そのものが。なのに、何故復活できた? 魂の総量がみるみるうちに元の量へと戻っていく。


魂の感知なんて俺にはできないはずだが、アイツの一部を取り込んだから感知できているのだろうか?



アイツ、と思わしき存在から、広範囲の魔法が放たれた。

それのせいで魔力感知が阻害されている。鬱陶しい。



黒い風を使って魔法を打ち消す。それでも、魔法が留まることなく放たれている。

それをすべて黒い風で吸収しているせいで、魔力がどんどん流れてきやがる。


その魔力を使って風の量を増やす。体内の闇を放出するためにはそうするしかない。

だが、いくら放出しようとしても、取り込んだ闇が多すぎる。


意識が消えるのを歯を食いしばって耐え忍ぶ。



もう、限界だ。



そう思った時、風の向きが変わるのを感じた。

俺の中にあった闇が、巡回を止めて一方に向かっていく。


意識が少し戻るが、それよりも風の流れの先を感知して困惑に満ちた。



そこには、御子がいた。



御子は自ら闇を取り込んでいるようだ。

その勢いは異常で、まるでこの空間にあるすべての闇を取り込もうとしているかのようだ。



あの野郎、バカなのか!?



俺が取り込んで苦しんでいる闇の量を、遥かに超える量を取り込んでやがる。

このままでは、アイツが消滅しちまう!



ふざけんな!

俺が認めた奴を、これ以上消滅させて堪るか!



俺は多くの魔力を放出して黒い風の動きを変え、闇を自身に取り込んだ。

御子が取り込む速度が速すぎて間に合うか分からねぇが、それでも全力で取り込んでいく。



まさか、本当に洞窟内の闇をすべて取り込めるとは思っていなかったが、もうこの空間には闇は残っていない。


安堵したのは一瞬。でも、その一瞬で意識が消えた。





完全に、意識が消えた。それで、俺の存在自体が消えた。


そのはずだった。いや、そうならなければ可笑しい。でも、俺は再び意識を取り戻した。



原因は、何となくだが分かる。

目を覚ました時に見た淡い光。それは御子から放たれていた。


そして、俺の魂を纏うように張られた膜。これは、魂魄保護、か。

何で御子がこの魔法を使えるのか知らねぇが、俺は御子に助けられた。


俺よりも闇を取り込んで辛いはずの、敵対視していたはずの存在に。



何なんだよ……、悪魔は自分勝手に生きる存在だろ!?

なのに、何であのクソ野郎も、御子も、他者のためにそこまでやるんだ!?



疑問を抱きつつも、風をコントロールして闇が漏れないように魔力を注ぎ込む。

今、コントロールを失えば、放たれた闇は御子の元へと向かう。



そんなの、絶対にさせねぇ!

アイツらからは、直接俺を助けた理由を聞きてぇ。それまでは、御子も、アイツも、殺させねぇ!



意識が朦朧としない分、全身の痛みを明確に感じる。

それでも、必死に堪えていく。



すると、御子が近づいてくるのを察知した。

馬鹿野郎!! この状況で近寄ってくんじゃねぇよ!!



そう心の中で罵倒したが、それで御子の足が止まることはない。

遂に、俺の元まで御子が来てしまった。そのまま手を俺に伸ばす。



『うわああああああああ!!』



俺は無意識に拒絶していた。御子が俺に触れれば、さらに闇を取り込ませることになっちまう。

勢い余って御子を傷つけちまったが、ゴキブリ以上のしぶといコイツなら問題ねぇだろ。



頼むから、ここから離れろ!



その願いは、俺の憂いと不安も含めて吹き飛ばされた。


御子の手が、俺の頭に乗せられた。そして、悪魔になってから聞いたことのねぇ、優しい言葉を耳にした。



『安心して。俺がその苦しみから、解放してやる』



その言葉を聞いた瞬間、俺は魔力の放出を止めた。

もし、これで俺の存在が消えようとも、構わねぇ。



俺は光に包まれ、御子は魔法名を唱えた。魂魄隷化と。

魔法名だけだと不穏な感じがしたんだが、感じた魔力はとても暖かいものだった。


その魔力に当てられ、俺の意識は完全に閉ざされた。











――




『――』




何か、聞こえた気がした。誰かの、声が。


痛みは、無い。さっきまで感じていた耐えがたい痛みが嘘みてぇだ。



ゆっくりと、目を開く。

薄暗い視界の中、そいつの存在ははっきりと見えた。



俺が認め、俺を救い、俺が理想とする存在。


俺もいつか、コイツみたいになれんのかな。舎弟みたいに弱い奴らを導き、不安や絶望を取り除いてやれる存在に。



あんまりいけ好かねぇけど、でもコイツは俺の理想だ。

なら、俺はコイツから学んでやる。理想を実現させるために。



『おーい、大丈夫か?』

『……うるせぇ。聞こえているよ、御子』




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