表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
68/141

悪魔を照らす光の先は

『"輪廻天昇"』



魔法名を唱えると、腕を形成していた闇が一瞬で霧散し、内側から光が溢れ出す。

腕だけに留まらず、光は俺の体をも貫き、全身から光が零れ出した。

霧散していく体を維持することはできず、瞬く間に体が消滅した。視界も白く染まり、一転して真っ黒に染まる。


体が消滅し、すべての感覚を失った。

それでもなお、俺は感覚の無い手を伸ばし続けた。



最後に目に映ったのは、光が肉塊へと殺到し、その身を包み込む光景。


魔法が発動しているなら、それを止めるわけにはいかない。スクイが希望を抱いた魔法に、俺も希望を乗せて全力で力を注いだ。


すると、闇と共に消し飛んだはずのスクイの意思が、俺の中に入り込んできた。

俺は藁にも縋る思いでスクイの意思と同調し、魔法を行使し続けるために抗い続けた。


次第に、スクイの過去が、脳裏に浮かび上がってきた。





スクイは下位悪魔として転生した。魔力操作も覚束ない状態で、魔法を行使することができなかった。

できることといえば、他の悪魔と同様、闇に干渉して取り込むことのみ。


闇を取り込んで自我を確立した悪魔であれば、誰でも闇と干渉することはできる。

でも、自ら闇を取り込もうとする悪魔はいない。取り込めば闇の意思により精神を侵される。悪魔の格が低い程、精神を崩壊するリスクは高まる。


上位悪魔ですら進んで闇を取り込もうとはしない。

それなのに、スクイは積極的に闇を取り込んでいった。



俺には力がない。だから、同じ奴隷だった奴らが地獄で苦しんでいても、救い出すことができない。

何もできず、絶望を受け入れて悪魔として死を待つしかできない。



スクイはそう考えて、一度は諦めようとした。

でも、それで立ち止まることはできなかった。



ただ茫然と生き、魔獣や悪魔が襲ってきても抵抗を一切せずに殺される。

痛みは感じる。でも、心に刻まれた傷と比べれば、死に至る傷だろうと些細なものだった。



でも、死ねない。すぐに復活してしまう。



周りにいた下位悪魔は何度も死と復活を繰り返すうちに消滅していった。魂が摩耗して、いずれは消滅する。



……いつかは、消滅できるのか。



スクイは、それを望んでいた。

悪魔であっても訪れる消滅という最後の時を。



でも、消滅することができなかった。

何度復活を繰り返しても、魂が摩耗しない。


それどころか、少しずつ自分の魂の総量が増えていくのを実感していた。



消滅しないという絶望を背負ったまま何もせず、無気力なまま聖火で白く輝く天井を見つめる日々。


ゆっくりとした時間の流れの中で、スクイは思考だけを巡らせていた。



俺の体には奴隷達の魂も宿っている。俺の魂が何故か摩耗せずに肥大していくのに対し、他の魂は死ぬ度に摩耗している。

いずれは、この魂たちも消えて、闇の一部に成り果ててしまう。


生前に感じていた死の恐怖。それと同質の恐怖が心を満たす。


死んだら二度と生き返らない。そんなの当たり前だと思っていた。でも、悪魔になったことでそれが誤りであることに気付いた。



ここが地獄なら、天国もあるかもしれない。


天国に行けば次の人生を得ることができるのだろうか?

少なくとも、地獄にいればいずれは闇の一部となる。それは、生前に思い浮かべていた死そのものだ。


天国はあるのだろうか?



そんなことをぼんやりと考えていると、頭の中に知識が流れ込んできた。

それは、スクイの知らない知識。体の中にいる闇が、スクイに知識を流し込んだ。



……輪廻?



その言葉に、僅かな光が射し込んだ。

闇が齎したのは輪廻という言葉と、死んだ人が生き返るという漠然とした内容だけだった。それだけでも、スクイにとっては雷に打たれたような衝撃だった。


地獄があったんだ。輪廻があったって、なんの不思議もない。


もし輪廻に行けたら、俺の中に宿る魂たちも、生まれ変わることができるだろうか? 俺も、永遠に死を願うことなど、しなくてよくなるのだろうか?



できない。そう諦めていた。でも、夢想してしまった。

悪魔になり下がった奴隷達を、希望ある未来へと送りだす様を。



『……俺は、皆を、救いたい』



小さく呟いた言葉は、スクイの心にこびり付いた絶望を吹き飛ばした。



それからすぐ、スクイは外から闇を取り込み始めた。雑多な感情に精神を侵されようと止めることなく、闇から知識を搾り取る。


その中には奴隷商の意思も含まれている。奴隷商の思考や行為が流れ込んだ時は発狂しかけてしまい、目の前にいる悪魔達を無差別に攻撃しまくった。すぐに返り討ちにあって殺されてたけど。


何度も死を経験するうちに、魔力操作が意識せずに使えるようになった。魔法も使えるようになったため、スクイは闇から魔法の知識も取り込み始めた。


スクイは最初に、魔法による魂の保護を始めた。魂を自分の魂でコーティングすることで、死亡時の魂の摩耗を防ぐ。

それを狙って魂魄保護を使用した。これは性犯罪に手を染めた聖職者の知識にあった魔法だが、その効果は一時的なもので、常にかけ続けていなければならない。死ぬ寸前まで使っていれば死亡時の摩耗は最小限に抑えられるが、完全に防ぐことはできない。



死んでから復活するまでは意識がないため、魔法を発動することはできない。

魔法を行使した者が死んでも効果が消えることなく、半永久的に効果を発揮する魔法でなければならない。


多くの闇を取り込んで魔法の知識を漁り出す。

特に、奴隷紋の知識を入念に読み取っていた。奴隷に使われていた魔法というだけで嫌悪感がするが、奴隷紋は魔法を行使した者が死んでも消えることなく、魔法を受けた者が死ぬまで消えることがない。

その特性を生かすことができれば、抱えている問題を解消できるかと踏んだのだ。



そして、腐った知識を探っていく中で見つけたのが、魂魄隷化だった。



知識としては存在するが、人間でこの魔法を発動できた者はいなかった。

魂を感知することができず、無理に発動しようとすると魂が体から排出されて廃人と化す。

何度も試したが、成功する兆しすら見えなかった。もちろん、魔法の発動は奴隷にやらせていたが。


奴隷商達がこの魔法を開発しようとしたのは、悪魔を奴隷にするためだった。

人間にとっては下位悪魔でも十分な脅威となる。悪魔になってしまっては脅威だが、元は人間だ。

だからこそ、魂に直接奴隷紋を刻めば、悪魔になっても効果を発揮できるのではないかと考えた。


だが、不確定要素が多く、発動すらできなかったため、この魔法の開発は締結された。



スクイはこの時に使用されていた魔法陣を解読した。その魔法陣には魂操作のプロセスに欠陥があることを見つけ、それを補完した。


そして、スクイは魂魄隷化を使える唯一の存在となった。



魂の保護ができるようになってからは、ただひたすらに輪廻に干渉する方法を模索していた。

けど、どこにあるのか分からないため、干渉することができない。



そこで考え出したのが、輪廻天昇だった。


輪廻の輪に戻ることができるのは、穢れの無い魂だけ。

魂についた穢れが多いと、魂ごと弾かれて輪廻の輪に戻ることができない。


なら、魂にこびり付いた穢れを祓えば、清められた魂は輪廻の元へと向かうのではと、そう考えた。


スクイは魂に干渉することができたため、穢れを祓うこともできると判断して、すぐに行動に移った。

そして導き出した結論は、輪廻天昇を発動することは不可能というものだった。



魂にこびり付いた穢れも元は魂の一部。それを無理に剥がそうとすれば、魂に傷がつく。

スクイの能力をもってしても、他者の魂を操作することは至難の業だった。



これを為すことができるのは、聖霊魔法のみ。



聖霊魔法は、光魔法から派生した最上位魔法の一種。

過去に聖女と呼ばれていた者が使っていた魔法であり、悪魔を祓う希望の魔法とされていた。



魂に直接干渉して魂を浄化し、穢れを払う御業。



聖女以外に扱えない魔法であり、悪魔が使えば消滅する。

そんな魔法が使えるとは、スクイも思っていなかっただろう。



聖霊魔法の名前は知っていても、原理までは分からない。

それなのに何故使えたのかは分からないけど、結果として俺の体は消滅してしまった。



でも、それでも今は自分のことではなく、肉塊のことを考えて感覚の無い手を動かしている。

スクイと同調しているせいか、それとも俺の意思なのか。



最後に見た光景を思い出し、俺は肉塊を持ったまま天井へと突き出すように手を上げた。

第一下層にある聖火の元へと、届けるために。




―――ありがとう、これで仲間たちが、救われた―――



スクイの声が聞こえたような気がした。

不確かな状況だけど、なぜかもう大丈夫だと安心してしまった。



暗い視界の中、意思もその闇の中へ落とした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ