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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
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悪魔を救う光

光で青白く染まった視界が一転した。



真っ黒な視界の中、一部だけ白い靄のようなものが見える。


そこでふと暗視ができていないことに気付き、俺は目に魔力を込めて周りを見渡す。

ぼんやりしていたものがはっきりと見え、白い靄が肉塊の魔法による雷光だと分かった。



……そうか、戻ってきたのか。



目の前で暴れている三体の悪魔を見て、思考が現実に戻ってきたことを実感した。

それと同時に、頭に鈍痛が走る。痛くて顔が歪むが、意識を失うほどではなくなっている。

スクイに同調したのが関係しているのかな?



目の前には先ほどまでと変わらない硬直状態が続いている。


黒い竜巻の目で必死に自我を保とうと藻掻くミツメ。

放心状態で徐々に朽ち始めている肉塊。

我武者羅に猛威を振りまいているベラギル。



元からミツメは助けようと思っていたけど、スクイの意思に同調したせいで肉塊も助ける対象だと認識している。

見た目はグロテスクだけど、中にいる魂たちはスクイが助けようとした者たちだ。危険を冒してでも救い出さなければいけない。


それとは反対に、ベラギルに対しては今まで以上に殺意を募らせている。

これは、破魂を使うベラギルを排除すべき怨敵だと認識しているからだ。



悪魔は死んでも復活する。復活する際に魂を摩耗するらしいけど、スクイみたいに何度も復活できるなら、それほど深刻な問題ではない。

問題なのは、直接魂を侵す魔法だ。破魂によって壊された魂は分解されて粒子となり、復活できなくなる。そうなれば、輪廻の輪に戻す手段が見つかっても手遅れだ。



行動に移ろうとしたが、巨大化し過ぎて洞窟に体がつっかえているから動きようがない。

……まずは、この体をどうにかするのが先か。


体から青白い魔力が迸る。それにより体を形成している闇が少しずつ解れてきた。

今のバカでかい体のままでは戦えないから、闇を放出する必要がある。でも、このまま放出するとミツメに取り込まれてしまう危険性がある。


俺は闇を放出しながら体を小さくしていくとともに、放出した闇を青白い魔力で作った膜の中に詰めていく。


同じ魔力の色をしているが、魂魄隷化ではなく魂魄保護という魔法だ。


スクイの知識が頭の中に流れ込む。この魔法は人間が使う蘇生術の一種だそうだ。

この魔法自体に蘇生する効果はないが、死んだ直後の人間の魂を抜け出さないように保護する効果があるらしい。


闇も元は魂。この魔法を使えば外部との隔離できるということかな。

魂を守ろうとしていたスクイだからこそ知っていた魔法、おかげで助かった。



闇を隔離して肉体に入った闇を抜き出し、何とか元のサイズに戻ることができた。

まだ体は重いけど、これくらいなら問題はないかな。



一番最初に対処しないといけないのは、あのモブ、もといベラギルだ。


今は肉塊の魔法に手も足も出ずにその場に留まっているけど、あれを先に消しておかないとミツメと肉塊を抑えても横槍が入ってしまう。

けど、ベラギルに聞きたいこともあるし、情報を聞き出すためにもできれば生かしておきたいな。



それでふと、スクイの魔法を思い出した。

俺を拘束した魔法、あれならベラギルも捕らえられるだろう。



俺は地に手をついて、魔法を唱えた。



『"封縛"!!』



魔力が地を這ってベラギルの元へと向かう。肉塊は地面からも魔法を放っているから、肉塊の魔力と反発してそれ以上は進めない。そのため、離れたところから魔法を発動して鎖を伸ばし、ベラギルに絡みつかせた。


隙を付けたようで、何の抵抗もなく捕まえることに成功した。そのまま鎖で雁字搦めにしてから、鎖を引っ張って外へと引きずり出した。



『この、野郎! 何しやがる!?』



ずっと肉塊の攻撃を受けていたのに、やたらと元気だね。


体に目立った傷はないけど、封縛のせいで身動きが取れずにいる。

ベラギルの意思では抜け出せないとは思う。肉塊の攻撃が当たっても問題はないと思うけど、もしミツメの風が鎖に当たれば崩れてしまうだろう。


ベラギルがミツメの攻撃で死ぬだけなら構わないけど、鎖だけ壊れてベラギルが自由になると面倒だ。

念には念を入れるために、もう一つ魔法を発動させた。



『"封陣"!!』



ベラギルの足元から光の柱が伸びて天井に達した。

そのまま柱は固形化し、白い柱となって肉塊の攻撃を防いでいく。


これならベラギルの拘束を強めつつ、外部からの攻撃を防ぐことができる。


封縛も封陣も拘束用の魔法だ。封縛は複数の相手を拘束するために使われ、封陣は単体に対して強力な拘束力を発揮する。


魔力のコントロールを乱して身動きが取れない状態にし、かつ精神すらも拘束する能力がある。

これならいくら悪魔でも捕まったら終わりだね。


この魔法を使われていたら俺も負けていた。身動きどころか考えごとすらできずに終わっていただろう。


スクイは何故発動しなかったんだ?

かなりの魔力を消費する魔法だから使えなかったのか?



……いや、魔力の消費量で言えば魂魄隷化の方が多いはずだ。

魂に干渉し、魂に魔法陣を刻む。そして魂を魔力で包んで外部から保護する。


最後の魂の保護は魔法関係なくスクイが実施していたことだけど。

魂魄隷化を使うときは魂を保護するために魔力を注いでいた。

その量は封陣を行うよりも多い。


その工程を一回で行っているならば、スクイの魔力量はかなり多いはずだ。

封陣には魔力以外に何か使えない理由があったのだろうか?



考えてはみたものの、結局は魔法が発動できているうちに次の一手を打つべきと判断して思考を切り替えた。



ベラギルの使う破魂は危険だけど、現状を見ればそれほどの危険は感じない。

こうして封じてしまえば、もう警戒する必要もないだろう。



俺は向き直ってミツメの方を向いた。

相変わらず苦しそうな表情で、それでも何かに抗って必死に抵抗しているように見える。


ミツメの精神力を信じれば後回しでもいいような気はするけど、実際にはもう限界寸前だろう。

それに、俺が闇を隔離したといっても、このアトネフォシナーには闇が蔓延している。少しすれば他のところから闇が流れてくるだろう。

どのみち、このままだとミツメの精神は崩壊する。



むしろ、何でミツメの意思がまだ残っているかの方が不思議だ。



俺はミツメに向けて駆け出し、頭の中で魔法を検索する。

俺が今まで使ってきた魔法では、ミツメを助けることはできない。

それならばと、闇から知識を得るために闇の意思を読み取ってみたが、それでも打開策は見つからない。



ミツメを助ける。その思いだけで闇との同調を続ける。すると、スクイの魂との同調に成功した。


俺は一瞬戸惑いつつも、その意思に託し、魔法を行使するためにミツメに近づいた。



『"魂魄保護"!』



自分の全身を青白い膜が包み込んだ。

ミツメの黒い風は魔力をも分解するが、まだ闇を分解されるよりはマシだ。


常に魔力を供給して青白い膜を維持するが、それでも黒い風に触れると一瞬で霧散する。

魔力量を倍増させて発光を強くし、黒い風の中を突っ切っていく。



黒い風に消されながら点滅する視界に恐怖を抱きながらも、必死に足を動かした。近づく度に威力が増し、魔力がどんどん消費されていく。

死と隣り合わせの状況に精神がすり減る。それでも引き返すという選択肢はない。むしろ、歩み寄る速度を速めた。



そして、ついに台風の目にたどり着いた。

ミツメの目前まで迫ると風はほとんど襲ってこない。これなら魔法も問題なく発動できそうだ。


俺に気付いたのか、ミツメが顔を上げた。その表情は苦悶に満ち、恐怖に怯える子供の顔だった。


早く助けないと。そう思って伸ばした手を、ミツメは拒絶した。



『うわああああああああ!!』



ミツメが腕を振るうと、五指から黒い斬撃が飛んできた。


何の抵抗もなく、俺の左肩から右の脇腹にかけて五本の線が入る。

ただ切られただけなら一瞬で治せる。けど、ミツメの攻撃に触れた部分が徐々に分解されている。

胴体に入った線が次第に大きくなり、切断面同士をくっつけようとしてもうまくコントロールできない。



そんな危機的状況でも、俺の中の意思はぶれることなく、ミツメに手を差し伸べた。

俺は小さく笑みを零し、そして思いを告げた。



『安心して。俺がその苦しみから、解放してやる』



そういって伸ばした手をミツメの頭の上に置き、俺は魔力を放出させた。

魔力で地面と天井に魔法陣を形成し、光を繋げた。


その光の中で俺は、ミツメを救うための魔法を唱えた。



『"魂魄隷化"』




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