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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
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暴れる悪魔

黒い光に線が入り、それが開かれて大きな目が現れた。



赤黒く血のような色は、俺の目と同じだ。

目が開くと同時に、黒い光が弱々しくなり、ぽてっと床に落ちる。


俺は腕を振り上げたまま、必死に感情を抑え込んでいた。憎悪は少しも衰えることなく、俺の心を染め上げている。今すぐに、これを消し去りたい。

……だが、今目の前で起こっている変化は確認しなければならない。これはおそらく、人が悪魔に堕ちる瞬間。


床に落ちてすぐ、光が消え、靄の塊だけが残った。塊は薄く、透けて床の魔法陣が見えるほどだ。

靄は少しずつその濃度を上げていき、魔法陣が見えなくなると、アメーバのような仮足が生えてくる。

感情のない虚ろな目をした醜い悪魔が、その足をニョロニョロと蠢かす。人から外れたその姿は、哀れだった。


俺は再び腕に力を込める。哀れと思っても、それで憎悪が薄れることはない。せめてもの情けとして、一撃で消してやる!



床に蠢く悪魔に向けて、感情のままに拳を叩きこむ。





無音の世界で、空間が破裂した―――





拳が当たった瞬間、悪魔の靄が弾け飛び、眼球が潰れた。勢いは止まらず、床が陥没し、衝撃が床を伝って四方の壁を砕く。


衝撃には目もくれず、俺は悪魔のいた場所を見つめていた。そこには潰れた眼球だけが残っている。

それらがさらに黒く染まり、最後には崩れ落ちて灰になる。灰は意思を持っているように吹き上がり、俺の拳に吸い込まれていく。すると、光の玉に触れたときと同じように、光景が流れ込んできた。



『アリミュ、別れてくれ』


思いを寄せている男性、シュームに突然別れを告げられた。その言葉の意味をすぐに理解できず、理解できた途端、ざっと血の気が引いた。


『なんで? なんで別れようなんていうの?』

『他に女ができたんだ。だから別れてくれ』

『……そんなの、許せるわけないじゃない! 赤ちゃんも、もうすぐ生まれるのよ!?』


何を言っているのかわからない。わかりたくない。アリミュは俯いて両手で目を押さえる。それでも、溢れ出る涙は止まらず流れ落ちる。

アリミュは涙を流しながらも、震える声で問いかけた。結婚して間もない、それも赤ちゃんがもうすぐ生まれるというタイミングで、何故別れを告げたのか、と。だが、シュームはそれに答えず、ゆっくりとこちらに歩みよってくる。

ゆっくり顔を上げると、シュームは冷めた目でこちらを睨みつけていた。


『じゃあ、子供がいなきゃいいんだな?』


意味が分からず、アリミュは呆けたままシュームを見つめた。シュームは躊躇うことなくアリミュの髪を掴んで引き上げる。頭に痛みが走り、顔を顰めて立ち上がる。髪を引っ張ったまま、アリミュの腹を蹴り上げた。強烈な痛みが腹部を貫く。

蹲ってお腹を抱えたが、シュームは手を緩めない。呻いても、叫んでも、気にせず殴り続ける。嘔吐して痙攣し始めても、まだ止めない。


意識が朦朧となり、仰向けで倒れこむ。シュームはアリミュを見下ろしながら、片足を上げた。


『これで後腐れなくていいだろ?』


片足に体重を乗せて、アリミュの腹部を踏み抜いた。



……


黒い光に触れたときとは別の光景。その内容は、あまりにも衝撃的なものだった。



アリミュは子宮破裂となり、三日三晩死の淵を彷徨った。危篤状態から復活して目を覚ました時、医師から赤子の死を告げられた。医師から見ない方がいいと言われたが、アリミュは懇願して赤子の亡骸を持ってきてもらった。


小さな木箱の中、布に包まれて寝かされていた赤子を両手で持ち上げる。片手に収まるほど小さな体に、温もりはない。

その冷たさに、自然と涙が零れ落ちる。愛していた人との間にできた子。これから幸せな未来が待っていると思っていた。けど、それは残虐な未来へと塗り替えられた。もう、未来に希望はない。


アリミュは泣きながら笑みを浮かべ、正気を捨てた。



……


アリミュは、暴力をうけてなお、シュームを愛し続けていた。

だから、シュームを殺すという考えは持てなかったらしい。だが、我が子が死んで空いた場所に、他の子が入り込んだことが許せなかった。


正気を失っていようが、子を殺した奴に同情なんてしない。


アリミュの記憶が流れ込んできたせいで、シュームの愛を深く感じる。それが、心に虫が這っているようで気持ち悪い。

俺の中で、シュームへの愛情が憎悪へと変わった。



俺の目の前に現れたら、惨たらしく殺してやる……



ここにはいないシュームに殺意を向けて、行き場のない憎悪を振り払うように俺は暴れまわった。




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