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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
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【side ミツメ】囚われの悪魔


『指示した? ……お前が、俺の舎弟を、あのクソ野郎に差し出したのか?』

『えぇ』



サトリが肯定した時、俺の感情の枷が外れ、内側から黒い風が吹き荒れた。

それを見ても、サトリは眉一つ動かすことなく、淡々と話を続けた。



『スクイの魔法や思考は、御子の感情を揺さぶるのに使えそうだったので、戦わせるのは決めていました。ただ、何度死んでも弱いままだったので、御子と戦う前に強くなってもらおうと私が手を貸してあげたのですよ。手を貸すといっても、改造した魔獣や悪魔を食べさせただけですが。最初は弱い魔獣しか奴隷にできなかったのに、今では悪魔も奴隷にできるまで成長したので、何とか及第点でしょうか』



俺は腕を振るい、体に纏った黒い風を刃に変えてサトリにぶつけた。だが、サトリは腕を軽く振るっただけで斬撃を消し去り、まるで何事もなかったかのように話を続ける。



『この強化方法はスクイ以外には不可能ですね。ミツメは魂魄隷化という魔法を聞いたことがありますか? 魂に直接魔法陣を書き込んで隷属化する魔法なのですが、魔法陣を書き込む時に自身の魂の一部を使用するのです。本来であれば魂を削る欠陥魔法なのですが、隷属化した悪魔を取り込むのは容易となります。魂を縛っているので抵抗されませんからね』

『この、クソ野郎が!』



黒い風が俺の周りを巡り、黒い球体を形成する。そこから斬撃を何発も飛ばすが、サトリには傷一つ付いていない。


魂を縛る魔法なんて聞いたことがなかったが、もし本当にあるのなら、スクイが平然と俺の舎弟を取り込んだことも納得が付く。

魔法で縛っているから抵抗される心配はない。相手に精神を乗っ取られることがないなら、何の躊躇いもなく悪魔を取り込むことができるからな。



『ミツメの言っている舎弟とは、先ほどの映像でスクイの足元に転がっていた悪魔達のことですね? 彼らは既に隷属化されていますから、助けに行っても無駄ですよ』



そういうと、サトリは再び壁に映像を映し出した。そこには、刀で突か抜かれた御子がいた。そして刀は、舎弟の一体が握っている。


『見ての通り、既に自我は消滅していてスクイの命令にのみ反応を示している。あれはもう、ただの人形ですよ』

『う、うぁあああああぁあ!』



咆哮に応えるように、俺の内側から膨大な風が吹き荒れる。そのままサトリにぶつけるが、サトリは最早腕を振るうこともせず、攻撃をその身に受けた。それでも、服にすら傷をつけられないでいる。



『癇癪はこの辺にして、観戦の続きをしましょう』



サトリは話を止めて足元から椅子を一脚作り出し、座って映像に目を向けた。俺の攻撃なんて、最初から眼中にねぇ。



『ふざけ、やがって!』



俺は再び上に向かって飛び出した。操られてはいるが、まだ舎弟は生きている。スクイを殺して魔法を解除すればいい。

魂を縛っている魔法が、スクイを殺して解けるかは分からねぇ。だが、やってみる価値はあるはずだ。


だが、そんな薄い希望すら、目の前の黒い壁に阻まれた。先ほどまであったはずの穴が、魔鉱石で完全に塞がれていやがる。



『穴を塞いでおいて正解でしたね。戦いの最中ですから、行かせませんよ』

『くそっ! "断斬"!』



身にまとった黒い風を腕に収束させ、思い切り腕を振るった。



ザバァアアン!



黒色のバカでかい斬撃が穴を塞ぐ壁を切り裂く。だが、それは表面に僅かな切れ込みを入れただけだった。



『おや? 私の魔力で飽和させた魔鉱石に傷をつけるとは、成長しましたね。頭でも撫でてあげましょうか』



サトリがそういうと、上から魔鉱石の塊が猛スピードで落ちてきた。俺は爆風を生み出して横に逃げるが、魔鉱石の塊は空中で進行方向を変えて俺に向かってくる。避けきれず、俺は風で魔鉱石を受け止めながら地面へと降り立った。



ズバババババババ!



『なっ!?』



受け止めた魔鉱石の塊から、無数の針が射出されて俺の体を貫いた。頭に当たらなかったのは、サトリが調整したのか、それともただ運が良かっただけか。

針の先端は地面の魔鉱石と溶け合うようにくっ付き、俺を地面に縫い付けた。そのまま、魔鉱石の塊は形を変え、鳥かごのように俺の周りを覆った。



『御子の戦いが終わったら構ってあげますから、暫くはそこで大人しくしていてください』



俺は動くこともできず、サトリを睨みつけることしかできなかった。


サトリが見つめる映像で、御子がスクイに拘束されているところが目に入る。スクイの目の前には舎弟が呆然と突っ立っていた。

そして、舎弟の頭にスクイの手が伸びる。



『逃げろ!』



聞こえないと分かっているのに、思わず声を出してしまった。だが、その声は届くことなく、舎弟の頭が握りつぶされた。



『あ、あぁ……』



口から声が零れた。


最初は暇つぶしとして接していただけのはずだが、自分で思っていたよりも舎弟達を大事に思っていたらしい。


この地獄の中で、俺を認めてくれる存在。慕ってくれる存在。

……俺も、他のガキ共と同じだな。心が弱いせいか、そういう存在は貴重で、大切に感じる。


その大切な存在が、目の前で消し去られた。



黒い風が俺の中から溢れ出る。

俺の周りを巡り、さらに周りの闇も取り込んで、風をどす黒く変色させていく。


理不尽な死を振りまく敵への殺意、何もできない己の弱さに対する憎悪、大切な存在を失った喪失感。


俺の感情が籠る魔力と闇が呼応し合い、その力を高めていく。

俺の意思が、闇の意思が、重なり合って空間を黒く染める。



大切なものはなくなった。

なら、もう我慢しなくていいよな。


好きなだけ、暴れてやる。

この地獄ごと、クソ野郎共を殺してやる。



『"羅刹鬼"』



全ての感情を飲み込み、俺は鬼と化した。




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