【side ミツメ】悪魔に集う期待
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
『……いい加減放しやがれ!』
『ムフフ、嫌です』
最下層まで続く階段を降りる間も、サトリに引きずられたままだった。
そのせいで後頭部が痛ぇ。
この階段を下りれば、最下層に到着する。だが、その階段がすげぇ長い。
真っ直ぐ下に開いた直径50メートル越えのバカでけぇ穴があって、その周りに螺旋状の階段があるんだが、最下層まで直線距離で200メートル以上ある。
いつもなら飛び降りるだけなんだが、サトリは階段で行くみてえだ。これはあれだ、嫌がらせ以外の何物でもねぇ。
『もうすぐ最下層です。大人しくしていなさい』
『まだ半分も降りてねぇじゃねぇか!』
『五月蠅いですね。では、先に降りていなさい』
『うをぉ!?』
サトリが俺を下へと投擲しやがった。もの凄い勢いで落下し、あっという間に地面が眼前に迫っていた。俺は地面に衝突する前に魔力で風を発生させて何とか体を浮かす。
あの野郎、滅茶苦茶力込めやがって。あと数十センチで地面じゃねぇか!
『こんなところに丁度いいクッションがありますね』
『ぐふぉ!?』
声が聞こえた瞬間に逃げようとしたが、その隙も無く背中に衝撃が走った。
風を操って上向きに防壁を張ったが、一瞬の抵抗もできずに破かれてそのまま地面に叩きつけられた。
地面に向けて空気でクッションを作っていたから体が弾けずに済んでいるが、背骨は粉々だ。
サトリの野郎、俺を投げてからすぐに飛んできやがった。俺を痛めつけることしか頭にないのか、このイカレ野郎が!
『おや? ミツメ、そんなとこで寝てないで、早く行きますよ』
『……くそ…たれ』
いつか、絶対に殺す!
決意を胸にしつつも、立ち上がることすらできない。
俺は諦めてサトリに引き摺られ、最下層の奥へと進んでいった。
引き摺られている間に腰の怪我を修復し、ようやくサトリの手から逃れることができた。
体と服のすり減った部分も修復しつつ歩みを進めていると、悪魔が全く見当たらないことに気付いた。
戴冠式の為に悪魔共が最下層に集まっているはずだが、まだ1体も見かけていない。
『他の悪魔共はどこにいるんだ?』
『すでに闘技場に集まっているのでしょう』
『……早すぎねえか? 闘技場を使うのはアイツが5体の悪魔の推薦を勝ち取れなかった場合だろ?』
『ここは暇ですからね、早く娯楽にありつきたいのでしょう』
最下層は、他の層とは違ってシンプルな構造になっている。階段を下りてすぐに大きな広間が広がり、その奥に闘技場がある。そのさらに奥には王室があるらしいが、見たことはねぇ。
あの闘技場、割と使う頻度高ぇんだよな。
頭のイカれた悪魔共は、至る所で殺し合いを勃発させちまう。別にどっかの誰かが死のうがどうでもいいんだが。どうせならそれを見世物にしようと、サトリが考案して実現させた。
面倒ではあるが、地獄には娯楽がねぇ。だからか、この案はすんなりと浸透した。逆らった奴はサトリが裏で消していたらしいが。
悪魔同士の殺し合いは闘技場でのみ許可されるようになった。それを違反する悪魔は、他の悪魔共から滅多打ちにされて殺される。
俺もよくこの闘技場を使う。見た目が小さいせいで俺を舐め切った悪魔共が殺意を向けてくるんだが、殺気を当てられた瞬間に殺していた。サトリが余計な制度を作っちまったせいで、仕方なく闘技場を利用している。
本当は殺気を当てられた瞬間に八つ裂きにしてぇんだが。他の悪魔共が束になって襲ってくるくらいなら問題ねぇが、違反者の制裁にはサトリが嬉々として参加するからな。さすがにリスクが高ぇ。
『悪魔達は誰も、御子が5体分の推薦を勝ち取るとは思っていませんからね。王が御子を消し去る光景が見たいのでしょう』
『……まぁ、そうだな』
ほぼ全ての悪魔は、誰かの配下になることが許容できない。もちろん俺もだが。
王の言うことすら、聞かない奴がいるくらいだしな。
そんな奴らが、力もねぇ御子を王として推薦するなんて、あり得ねぇ。
……再戦するまでは生かしておきてえが、王が相手だと厳しいな。死んで復活してから再戦すればいいか。
王と直接戦ったことはねぇが、闘技場で戦っているところを何度も見たことがある。
というか、闘技場は王が一番使っているだろうな。
バカな悪魔共が王になるとか言いだして王に戦いを挑むせいで。
だが、上位悪魔が束でかかろうとも、王に傷一つつけることはできなかった。
あれは、化け物だ。
最後に見たのは上位悪魔十体との戦闘だったが、一瞬で勝負がついた。
悪魔共が発動した魔法を全て相殺し、悪魔共の動きを封殺した。
魔法を相殺された悪魔共は次の攻撃を繰り出そうとしていたが、結局は一歩も動くことができないまま、その場に跪いた。
両膝を付き、首を垂れる姿は、服従のポーズにしか見えなかったな。
王は差し出された首を、手を動かすことなく切り落とした。
どんな魔法を使ったのかは分からない。詠唱破棄で魔法名すら口にしなかったからな。
詠唱破棄だけでなく、並列演算も使っていたようだ。じゃないと、あの芸当は説明できねぇ。
しかも王は、悪魔共の魔法を見てから、それとは逆の属性の魔法を、同じ威力で発動してぶつけていた。
その一瞬だけで、自分よりも上位の存在だと認めてしまった。
あれは、見せしめだったのだろう。
そして狙い通り、俺と同じように観戦していた悪魔共は一言も発することなく、王から逃げるように散らばっていった。
それ以来、悪魔の中でも頭の中が多少マシな奴らは王に喧嘩を売ることはなくなったし、喧嘩を売る馬鹿は王に挑む前にサトリによって消されていた。
……闘技場以外の殺し合いを禁止したのはサトリなのに、こいつ全然ルール守らねぇよな。
『確かに、悪魔から推薦を得るのは至難の業ですね。死んでも認めない悪魔がゴロゴロといますから。でも、今回の御子は期待できますよ。すでに3体の悪魔を倒したようですからね』
『は? 早くねぇか? 相手は誰なんだ?』
『ムカデとマコ、チコですね』
『……ムカデはともかく、マコとチコはちゃんと戦ったのか?』
『戦っていたようですが、本気になる前に御子を認めたようですね』
『やっぱりか』
ムカデは中位悪魔。俺にマグレでも勝った奴が、負けるわけがねえ。
マコとチコに関しては、アイツらの行動は想像の斜め下にしか行かねぇからな。訳の分からん理由でアイツを認めていそうだな。
『マコとチコが本気を出さなかったにせよ、推薦を決めたのは御子に期待するものがあったからでしょう。それはマコトも同じようですよ』
『あのマコトがか? それほど期待されているのか』
あの他人には関心を持たないマコトが期待するほどか。やっぱりアイツは面白い存在なんだな。
『最後の1体は誰なんだ?』
『スクイです』
『スクイって中位悪魔のか? 最後の1体は上位悪魔のはずだろ?』
『以前までは中位でしたが、今回の復活で上位になったのですよ』
限りなく中位よりの上位悪魔ってことか。それならアイツでも勝てるかも知れねぇ。
マコトがどう出るかによって結果は大きく変わるが、サトリの話だとマコトもアイツに期待を寄せているみたいだし、うまくいけば5体分の推薦を勝ち取れるかもな。
『戦闘はまだ始まっていないのか?』
『ちょうど今、遭遇したみたいですよ』
『へぇ。なぁ、映像を見せてくれよ』
『ムフフ、ミツメも気になるのですね。いいでしょう、そちらの壁に映像を出します』
そういってサトリが指差した壁に、映像が映し出された。
便利な魔法だと思う反面、こうやってアトネフォシナー全体を監視していると思うと気持ち悪いな。
映像の手前側にアイツが佇んでいた。どうやらまだ生きているみたいだな。
そして奥にいるスクイに視点を移して、その足元にいる5体の悪魔が目に入った。
『……ん? アイツら、何であんなところにいるんだ?』
そこに映っていた5体の悪魔は、俺の舎弟たちだった。




