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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
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憎悪する悪魔

目の前の3人が燃えているのを、唯々呆然と眺めることしかできなかった。


拘束具と猿轡が燃え落ち、彼らは大きく口を開けて藻掻き苦しむ。衣服は一瞬で燃えてなくなり、体から真っ赤な蒸気が溢れ出る。目玉がなくなった眼窩がこちらを向く。肉が爛れて所々骨がむき出しになり、炭化が始まる。体を維持できずに崩れ落ち、灰が舞い上がった。


彼らの体が燃え尽きるのに時間はかからなかった。だが、その数秒の光景が鮮明に脳に刻まれ、精神を蝕む。


ひ、は…いぁ…


膝が震え、よろめいて壁に凭れ掛かった。

人が燃え尽きる様を目の前で見せられて、正常でいられるはずがない。

せめてもの救いは、音が聞こえず、臭いがわからない状態だったことだろうか。

悪魔になったせいで嘔吐したり気絶したりすることはないみたいだが、できれば意識を手放したい。


残酷な光景を目の当たりにしたせいで、体の震えが止まらない。

今見たのはすべて幻覚だと、そう誰かに言ってほしい。

呆然と立ち尽くしていると、魔法陣の中にあるものを見つけた。


それは光の玉。2つは白色、1つは黒色に光っている。

何だろうとみていると、白い光はゆっくりと上に昇っていく。


俺は徐に歩き始めた。震える足を必死で動かし、恐る恐る白い光に触れてみた。

すると、頭の中に光景が流れ込んでくる。



目の前には女性と小さな女の子。一緒に食事をしているところらしい。

女性と女の子がこちらを見て微笑んでいる。


バッと手を放すと、光景が消えた。これはさっき目の合った男性の記憶なのか?


驚きながらももう一度手を伸ばして、白い光に触れた。

再び家族団欒の光景が流れ込んできた。まるでこの人が経験してきたことを追体験しているようで、こっちまで幸せな気持ちになってきた。

心にじんわりと温かみを感じ始めたとき、別の光景が映り込んだ。


目の前に豪奢な鎧を身につけた人物が現れた。ルグドの知識が、この男が騎士団の一人であることを教えてくれる。騎士の手には書状が握られていた。


『其方がルグドだな? コリュムンド子爵の所有する馬車を盗んだ罪で其方を処刑する』

『な!?』


騎士が書状を広げ冷酷に告げる。この人、ルグドには身に覚えがなく、狼狽しながらもルグドは跪いて弁明を始める。


『私はそのような愚かな行いはしておりません! 何かの間違いでございます!』

『弁解の余地はない。これは決定事項だ。罪人を連行しろ』


取り付く島もなく、ルグドは兵士たちに拘束された。ルグドは悲痛な面持ちで兵士たちを見つめたが、兵士たちは視線を合わせることなくルグドに拘束具を取り付けていく。

騎士団は貴族の武人を選抜して結成した組織であり、目の前の騎士も貴族の一人だ。この国では貴族に逆らった平民に命はない。平民である兵士たちは、貴族の命令に背くことはできない。たとえ相手が知人や友人であっても。


ルグドは諦念に至り、自ら歩き始めた。貴族に逆らえば身内諸共処刑される。だからこそ、貴族の命令に従い、処刑を受け入れたのだ。

恐怖心を心の内に抑え込み、涙を流して声を殺している妻と女の子に向けて、優しく微笑んだ。



ルグドの感じた恐怖と愛情が、止めどなく心に流れ込んでくる。先ほどよりも自分の体が震えているのがわかる。だがこれは、恐怖心によるものではなく、理不尽な処刑に対する憎悪によるものだ。



そしてまた光景が切り替わる。拘束具と猿轡を着けられ、公衆の面前へと連れていかれる。

これから向かう処刑台の横に立つ、祭服を着た初老の男性が、手に石を持って罪状を述べていく。どうやら彼が持っている石は声の大きさを増幅する能力があるらしい。この場に集まった多くの民衆にその声が届く。


『罪状は強盗。それも貴族の所有物に手を出した愚行は極刑に値する。よって罪人ルグドは斬首刑とする。刑を執行したのち、地獄の門を開き、自らの罪を魂まで焼き清める』


ルグドは斬首刑と聞いて恐怖心を募らせていたが、その後の地獄の門という言葉を聞き、それまでの比ではないほどの恐れを抱いた。呼吸が乱れ、歩みが止まるが、処刑人に引きずられてそのまま処刑台に乗せられる。処刑台にはギロチンが3つ用意されており、その一つに首を固定された。

処刑台にもう2人の罪人もつれて来られて首を固定された後、処刑が執行される寸前で、こっちに飛ばされたらしい。



すっと手を離すと、またゆっくりと昇り始めた。

2つの白い光は天井に触れても霧散することはなく、そのまま吸収されるかのように昇っていき見えなくなった。


この光は、魂なのだろうか?


感情の奔流に侵されて、精神的な疲労感が募る。もう触りたくないが、その思いを飲み込んで残っている黒い光へと向かった。


先ほど触れたのは白い光。色が違う原因を明らかにしたい。

そう思って黒い光に触れてみると、同じように光景が流れ込んできた。



日の射し込む部屋の中、黒い光になる前の人物が佇んでいる。流れ込んでくる記憶から、この人物が女性であることが分かった。

目の前には揺り籠があり、生まれたての赤子がすやすやと眠っている。

どうやら、この赤子は女性の子ではなく、想いを寄せていた男性と別の女性との間に生まれた子らしい。


女性は、赤子を見て微笑みながらやさしく囁く。


『あなたはね、生まれてきちゃダメだったの。あの人と売女の間に子ができるなんて認められないの。だから、死んで』


女性の憎悪が心に流れてきた。

私を選ばなかった男性への恨み。愛する人を奪った女性への恨み。そして、その二人が育んだ子への恨み。

それらが混ざり合い、水に墨を垂らしたように負の感情が俺の心を蝕む。


女性は鞄から刃物を取り出すと、上に大きく振り上げた。赤子を見下ろして刃物に殺意を宿し、そして……



最後まで見ずに、俺はバッと手を離した。

たとえ追体験だとしても、殺意を持って赤子に刃物を振り下ろすなんてしたくない。



黒い光を見つめて、俺は憎悪を募らせる。

なんの罪もない赤子の命を、理不尽な理由で摘み取ったのだ。それは、ただの処刑では生温い。

ルグドの記憶を読み取ったときの行き場のない憎悪も合わさり、それは殺意へと変わった。



……こんな畜生に、生きる資格はない!



俺は手に殺意を込めた。黒い靄が密集して爪を形成する。腕も膨れ上がり、まさに悪魔の手と呼ぶに相応しい造形となった。


俺は黒い光を睨み、腕を振り上げた、その時、



黒い光に大きな目が出現した。




できれば切りのいいところまで毎日更新したかったのですが、

明日から仕事が忙しくなりますので、暫くは週3回を目標に更新しますm(__)m

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