悪魔が抱く興味
悪魔の救世主? しかも自称?
……うわぁ、やっぱり最後の1体もまともじゃなさそうだね。
というよりも、悪魔の救世主?
悪魔に救いを与えている? 悪魔にとっての救いって何?
マコトに分からないことを聞こうとしたら、変態2体が割り込んできた。
『ちょっと、マコトちゃん!? スクイを出すなんて、本当なの!?』
『今からアイツのとこに行くの~? 私、アイツ生理的に無理なんだけど~』
2体の剣幕に俺もマコトも体をビクリと跳ねさせた。顔の横に濃い顔とムキムキの胸筋が出現する。その胸元にセクシーさは皆無だ。少し慣れてきてるけど、急に来ると条件反射で体が跳ねるから急接近は止めてほしい。
というより、チコが生理的に無理って言うってどんだけ醜悪なの? 直視したら魂抜かれるレベル?
『自分もあまり気は進まないんすけどね、サトリさんの指示なんすよ。御子さんの本質を確かめるために必要だと言ってたんすけど、詳しくは教えてくれないんす。決定事項なんで、2体とも諦めて同行してくださいっす』
『……一緒に行くのはいいけど、アイツの言動次第では御子ちゃんが倒すより先に殺しちゃうからね?』
『もちろんダメっすよ。それを止めるよう、自分がサトリさんから口酸っぱく言われているんで。しかも止めれなかったら自分が殺されちゃうんで、本気で止めてほしいっす』
『アイツ次第よ~。キレたら私たちも本気で殺しにいくから~、マコトちゃんも本気出さないと、死んじゃうわよ~?』
『……はぁ、だから気が重いんすよ』
会話を聞いているだけで、そのスクイという悪魔がどうしようもない奴だと伝わってくるんだけど。
『スクイって、どんな悪魔?』
『悪魔の中でもかなりの屑野郎よ! 何度私が屠ったことか!』
『屠った? え、殺したの?』
『そうよ、何度も殺したわよ。でも、悪魔は精神生命体だから、精神が強ければ復活しちゃうの!』
『殺しても復活しちゃって~、それでまた胸糞悪いことを続けているのよ~』
マコは元からズバズバ言う印象だけど、チコが思いっきり悪口言う相手か。うん、チェンジを要求したい。
『そもそもがイカれてんのよ! アイツの救いってね、……』
マコが怒りを露わにしながら言葉を発していたが、マコトが手を上げた瞬間に声が途切れた。マコの口は動いているんだけど、声が聞こえない。どうやったのか分からないけど、念話をシャットアウトしたようだ。
『マコさん、能力の説明は駄目っすよ。サトリさんに口止めされてるんで』
『……もう! わかってるわよ!』
マコは怒りを向ける方向をなくしてそっぽを向いた。変態がツンの表情をしても悍ましいだけだよね。
マコトは変態のツン顔を一切見ず、俺に声をかけてきた。
『御子さん、今までの戦いは身体的な強さを測らせてもらったんす。それだけで言えば、まぁ及第点っすね』
『私たちに認めさせたんだもの~、体は~、立派よ~』
『……すんません、チコさん。話を進めたいんで、ちょっと静かにしていてほしいっす』
『あら~、放置プレイ? ん~、いいわよ~』
少しまじめな雰囲気になりかけていたのに、一瞬で霧散した。さすがは変態。本当に話が進まないから黙っててほしい。
マコトも大分お疲れな様子だが、顔を歪めながらも言葉を吐き出した。
『サトリさんから直接聞いたわけではないんすけど、次の戦闘では十中八九、精神面の強さを測るはずっす』
『精神面の強さって、具体的にどういうの? 虫好き婆とゴリムチ猥褻物の相手をした時点で精神面も及第点は軽く超えたと思うんだけど』
『えぇ、それはもう、激しく同意っす』
『……御子ちゃん? マコトちゃん? なんですって?』
『つまり、きれいなお姉さん2体と戦っても精神的な強さなんて測れない! それどころかご褒美だということだね!?』
『えぇ! その通りっす!』
マコとチコの怒気に当てられて変な嘘が口から洩れた。それを目敏く捉えて同意するマコト。それでも変態の視線が痛いが、会話を戻すことで追撃を逃れた。
マコトの説明では、スクイとの戦いでは悪魔としての精神的な強さを測るのが目的ではないかという。
悪魔としてって所がよく分からないんだけどね。マコトも具体的には説明できないって言ってるけど、多分知ってて口に出してないよね。
あと、スクイの強さはサソリ以上変態未満らしい。まぁマコもチコもスクイを殺したことがあるっていうから、そうなんだろうね。
変態2体とは戦ったけど本気じゃないだろうし、変態未満の強さでも次の戦いが楽って訳ではなさそうだけど。
しかも、悪魔は死んで復活するたびに強さを増すらしい。弱くなる場合もあるらしいけど、ほとんどの悪魔が強くなるそうだ。
直近でマコが殺したらしいけど、その時はマコが少し手間取るほどだったらしい。
元々は下級悪魔だったらしく、死に戻りで上級悪魔になる悪魔なんて類を見ないとのこと。
イカれた悪魔が不死でどんどん強くなるとか、悪夢でしかないんだけど。
『死に戻りといっても、悪魔は精神生命体なんで生死の概念は人間とは異なるんす。なんで実際に死んでいるわけではなく、魂がむき出しになった状態から復活してるんすよ』
『悪魔は死なないの?』
『いいえ、どんなに強い個体でも、最終的には死ぬっす。悪魔の死は魂の消滅。元は人間の魂っすから、どれだけ精神が強い悪魔でも何度も死ねば消滅は避けられないっすね』
『なるほど。それで、スクイは何回死んだことあるの?』
『おそらく、本人も把握できないほど死んでいるはずっすよ。百は余裕で超えてるっすね』
『百!?』
『下級悪魔が上級悪魔になるには、それくらいの死を超えないとできないんすよ。普通なら上級悪魔になる前に、精神が耐えられずに消滅するはずなんすけどね』
途方もない死の数に唖然としてしまった。いくら同じ場所で生き返るとしても、死の恐怖はあるはずだ。元が人間であれば尚更。しかも、元が下級悪魔で回りには自分よりも強い悪魔が沢山いる。
蔓延する死に日々怯えながら、急に訪れる死に恐怖し絶望する。それを繰り返すなんて、人間ができるとは到底思えない。
人間の限界を超えた所業。何故そこまで生に執着し、何を為したいのか。
ここにきて、初めて悪魔に興味を覚えた。
『スクイは。何をしようとしているの?』
『それは、直接本人から聞いた方がいいっす。自分らでは理解し難いんで、説明もうまくできないんすよ』
そういうと、マコトは踵を返して洞窟の先へと進んでいった。
『スクイは最下層へ続く階段の手前にいるはずっす。自分はムカデの婆さんとスライムを連れて先に向かうんで、御子さんは休憩してからマコさんチコさんを連れてスクイのもとへ向かってくださいっす』
そんなことを呟きながら、マコトは一瞬で姿をくらました。
……アイツ、変態から逃げたな。
っていうか、スライムの存在忘れてた!
せめてスライムだけ置いてって!
俺は変態を放置したまま、マコトの進んだ方向に走り出した。




