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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
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筋肉と悪魔

おぉ、早い早い!


魔力を全身に巡らせた状態で駆け出したからか、以前よりも速度が段違いだ。

闇を纏って身体強化した時よりも早い気がする。


俺は全身に巡る魔力に意識を向け、さらに加速させる。

魔力と闇が混ざりあい、徐々に速度が増していった。


それでも周りの景色は代り映えしないって、ここはどんだけ広いんだ?


暗闇の先を見通すことができても、一向に行き止まりがない。

このまま進んでいいのか不安になるけど、変態2体に会うよりはマシか。



『もう、逃げるなんてひどいんじゃない?』



隣から聞こえてきた声に、俺は背筋を凍らせてその場を飛び退いた。

洞窟の壁際に移動して声の方向を向けば、そこには赤い髪の変態、もとい悪魔が立っていた。


あの速度をついてきた!?


俺の中ではかなりの速度を出していたはずなのに、目の前の悪魔は難なくついてきた。

息を切らすこともなく、平然と佇んでいる。 ……速度と見た目のインパクトでは勝てないだろう。


レオタードのため体の線が明確にわかるが、目の前で筋骨隆々の男がセクシーポーズをとっている。

この光景を見て、平然としていられる人はいるだろうか。俺は無理。



全力で横方向に駆け出したが、目の前の壁にぶつかって尻餅をついてしまった。


あれ、この先に壁なんてなかったはずなのに?

見上げると、目の前に筋肉の塊が出現した。



『ちょっと~、また逃げようとしてるじゃないの! 女を待てない男なんてサイテ~!』



俺は目を背けた。……くそっ、網膜に奴の筋肉がこびりついている!

あの異物が、女? 漢の間違いだろ?

そもそも、悪魔に性別ってあるのか? 元が人間って言っても、多くの魂が集まって悪魔が生まれるなら、男も女も混ざっていると思うんだけど。

いや、だからか? 男と女の魂がごちゃ混ぜになったから、あんな異物が出来上がったのでは……?



俺はそっと視線を2体に向ける。


……赤と青のオカマが目の前でポージングとっているんだけど。セクシーポーズなのに寄せられた胸には筋肉しかない。

色艶さなど欠片もない、筋肉でかたどられた体、君は求めるかい? 俺は断固拒否する。



『……誰?』

『サトリちゃんとマコトちゃんに聞いていないの? 貴方と戦う悪魔よ!』

『散々待たせておいて、それは酷くない~?』



普通に話しているはずなのに、精神的なダメージがあるのはなぜだろう。

俺、会話進めなきゃダメ? 目の前のゴリゴリな2体の悪魔が体をくねらせて話かけてくるんだけど。

君には耐えられるかい? 俺は無理。

……化け物以来だね。SAN値が尽きそうだ。



『いいわ、御子ちゃんに自己紹介してあげる。私はマコよ』

『私は~、チコよ~』



名前と見た目が違いすぎるって。この2体に可愛らしい名前なんて必要ない。

……戦わないといけないことは分かっているけれど、戦いたくない。というか、直視したくない。



『……はぁ。戦うか』

『あらヤダ、御子ちゃんって意外に攻撃的?』

『肉食男子~? いいわね~』



たとえ肉食でも筋張った腐肉なんて誰が食うか。ていうか、ちゃん付け止めれ。



『もうちょっとお話していたいけど、時間が勿体ないものね。御子ちゃんのお望み通り、戦いを始めましょうか』

『賛成~』



そういうと、マコとチコは後ずさって距離を取り始めた。


……駄目だ、気持ちを切り替えないと。


思考が変な方向にばっかり向かってしまうが、このままでは何もできずに負けてしまう。

魔力を全身に巡らせて身体強化した状態の俺に、目の前の2体は余裕で追いついてきた。

明らかに向こうが格上だ。勝つためにはこちらから仕掛けないと。



体に巡らせる魔力量を増やし、身体強化を高める。そして、手に意識を向け、針を射出するための力を溜める。



『じゃあ、どっちから戦うんだ?』

『ちょっと、何言っているのよ? 2対1に決まっているじゃない』

『……は?』



ちょ、え? このゴリゴリ悪魔2体と同時に戦う? そんなの無理に決まっているでしょ!



『ちょっと待て! それはおかしいでしょ!』

『そっちこそおかしいわよ! 女相手にハンデもくれないわけ?』

『いや、ハンデが欲しいのこっち!』

『女相手なんだから~、2対1じゃなきゃ私たち認めないわよ~』

『マジか……』



悪魔に認めさせることが目的だから、ここで相手の要望を飲まないという選択肢はない。

だからって、これはいくら何でも無理があるだろう。



『それじゃ、始めるわよ?』



刹那、赤と青の光が目の前を埋め尽くした。

急激に高められた魔力が2体の悪魔から溢れ出し、それがそのまま身体強化へと還元された。


もともとゴリゴリな体だったのに、さらに筋肉が肥大した。

いや、どこのスーパーな野菜星人だよ!? あんなの1体でも勝てないって!!



俺は急いで攻撃の態勢を取ろうと手を動かした。

だが、手を前に向けるよりも先に、マコが懐に飛び込んできた。

そしてマコの拳が俺の腹部にめり込む。



『ごぁ!?』



思い切り後方へ飛ばされ、俺は壁に叩きつけられた。

衝撃が体を貫いて壁にぶつかる。俺は何とか足から着地し、構えつつ腹部の修復を行った。

……一撃で腹部が陥没したんだけど。



『御子ちゃん、相手が女だからって、油断しちゃダメ。気を抜いていたら、一瞬で死んじゃうわよ?』

『私~、まだ何もしていないんだけど~』



ゴリゴリ悪魔2体が笑みを浮かべながらこちらに歩み寄ってくる。



……一旦、泣いてもいいだろうか。

泣きたいのに泣けない体、初めて悪魔の体に不満を覚えた瞬間だった。




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