スライムと悪魔と、薄っすらマコト
地面に流した魔力が尽きて光が消えた。
真っ暗闇の中で、俺はスライムの感触を堪能していた。
両手で持てる程度の大きさだったスライムの体は、今では両腕で抱えなければ持ち上がらないほど大きくなっている。
プルプルボディに磨きがかかっていて、極上の抱き枕になっている。俺はスライムを抱えたまま地面に寝転がった。
あ~、至福ぅ~
全く、スライムは本当に影薄いよね。一体いつの間に迷子になっていたんだか。
結構な数の魔獣がいたはずだけど、運よく見つからなかったのかな? ディピードが暴れたせいで他の魔獣たちは隠れているっぽいし、スライムの体は黒いから見つからずに済んだのかもね。
明らかに弱そうな見た目だし、見つかっていたら食べられていたかも。そう考えるとなるべく手を放さないようにしなきゃいけないか。
『危ないから、あまり離れるなよ?』
念話でスライムに伝えると、体を揺らして答えてくれた。あ~、可愛い。
さっきまでババアと百足見てた影響か、より可愛く見えるね。
暫くは魔獣たちも戻ってこないだろうし、このまま寝ようかな。
『あの~、御子さん? そろそろいいっすか?』
俺はスライムを抱きながら目を閉じた。悪魔の体ならば魔鉱石の地面がどれほど固くても寝れる。
スライムを抱えて夢の世界に片足を踏み入れた。
『……ちょっと、御子さん? ガチ寝しようとしてないっすか? 自分のこと見えてますか? ちょっと!?』
騒音で突っ込んだ片足を現実に戻した。それと同時に、やっておかなければならないことを思い出した。
……あぁ、忘れるところだった。
俺はスライムの誘惑を振り切って立ち上がった。できることならこのまま至福のひと時を過ごしていたいけど、ちゃんとやることやってからじゃないとね。
俺は手を伸ばして壁に触れ、魔力を少し流した。あまり多く流しすぎると眩しくてスライムが起きちゃうからね。
ぼんやりと輝く光に照らされて、目的の人物を捕らえた。俺は警戒しつつも足を進め、目前まで近寄った。
そして、腕から刃を生やして腕を振り上げた。
『死ね、クソババア』
『いや、ちょっと!? 何してんすか!?』
振り下ろそうとした腕を誰かに捕まれた。
『誰だ!?』
『だからマコトっす! さっき自己紹介したばっかっすよ!』
……そういえば、そんな奴がいたような気がする。スライムの癒し効果で忘れてたね。
俺は刃をしまってマコトに向かった。マコトは俺の腕から手を放して、呆れたようにため息を吐いた。
『……はぁ。スライムに抱き着いて寝だしたと思ったら、フラッと立ち上がってムカデの婆さん殺そうとするとか、どんだけ情緒不安定なんすか? というか、その子を抱きしめて落ち着いたんじゃなかったんすか?』
『落ち着いた結果、とっととババア殺して寝ようと思った』
『思考がぶっ飛んでるっすね。悪魔の御子らしいっす』
『……それは嬉しくないね』
くだらないこと話していたら、殺す気が失せてしまった。
ムカデは意識を失ったままだし、もう少し放置していても大丈夫かな?
とりあえずマコトが話があるって言っていたのを思い出したから、情報を聞き出すために話かけた。
『話って何?』
『ああ、ようやく本題に入れるんすね。はぁ、これでサトリさんにボコられずに済みそうっす』
マコトは安堵の表情を浮かべてそうぼやいた。……サトリってやっぱり悪魔たちにも恐れられるほどの存在なんだね。暴力で悪魔たちを従えている感じっぽい。
『サトリの指示でここまで来たの?』
『そうっすよ。御子さんが目覚めたから最下層までお連れするよう言われて、第一下層まで迎えに行ったんす。それなのに……』
それからはマコトの愚痴が続いた。
サトリにいきなり第一下層まで御子を迎えに行けって命令されて渋っていたら蹴り飛ばされ、急いで向かったら俺はもういなかった。そして第一下層を探し回った挙句、一か所だけ地面に穴が開いていたからそこから降りたら、予想以上の高さで思い切り体を打ち付けたらしい。
少しして体の痛みが引いた後、再び捜索を始めたら第二階層で俺を見つけた。でも、再び穴に入っていったから、今度はゆっくり近づいて穴の先を見たら、先の見えないほど深い穴にダイブしている俺を見て放心状態になったらしい。
『なんで御子さんわざわざ穴に落っこちるんすか? 階段があるんすからちゃんと階段使いましょうよ。 御子さんが穴を使って移動したせいで、自分も穴から降りる羽目になったんすよ? しかも第二下層まで落とされて自分怪我したんすよ? それでも頑張って御子さん探して、ようやく見つけたと思ったのに、また穴に落ちていくんすもん。どんだけ穴好きなんすか? 穴の先にロマンがあるとでも思っているんすか? 思春期真っ只中っすか? しかも先の見えない穴に躊躇いなく。もう思春期怖いっす。御子さんは異常なまでの妄想癖の持ち主っすか?』
『一旦黙れ』
『ぐふっ!?』
グチグチと鬱陶しい。それに、誰が好んで穴に落ちていくんだ。階段あるなんて知らなかったし、かなりショートカットできたんだから文句ないでしょうに。……まあ、迂闊だったのは認めるけども。
愚痴と嫌味でストレスが溜まったため、とりあえず一発殴って黙らせた。悪魔は個性的な奴しかいないけど、基本的に人を馬鹿にしてくるんだよね。少しは相手の気持ちになって対応してもらいたいもんだ。
『ちょっと、御子さん。自分ここに来るまで結構頑張ったんすよ? 何で、労われることなく殴られたんすか?』
『お前の苦労なんて知らない』
 




