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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第1章 地獄の道
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百足と悪魔


ただいま、絶賛逃走中。

何からって? 虫の大群からだよ!!


百足は動くたびに関節をギチギチと鳴らし、刃物のように鋭い足を床に叩き付けている。全力で走っているのに、どんどん距離が詰められている。あの巨体で早いって反則でしょ!?


百足の口からは紫色の涎が零れ落ち、涎が追従していた蟷螂の魔獣に当たると、当たった部分の鎧のような外郭が溶けた。蟷螂は動きを止めて倒れ込むが、後続の魔獣たちは気にせず突き進む。蟷螂の踏み潰された音が小さく響いた。どっちが致命傷かわからないけど、死んだのは確かだね。


あの巨体で素早くて消化液まで吐く百足に驚くべきか、あの巨体が通っても罅一つ入らない魔鉱石に驚くべきか。うん、両方だね。



俺は翼を出して空を駆けた。こっちの方が走るよりも早い。

百足との距離は縮まらなくなったが、伸びているわけでもない。このままのペースで進み、ここよりも小さな穴があれば、あの百足を振り切ることができるとは思う。


だが、問題はやはりこの暗闇だ。明かりが徐々に消え始めており、完全に消えてしまえば横穴を探すことさえできなくなる。

視界を確保する為に魔力を魔鉱石に通しながら進みたいが、魔力を通すには魔鉱石に少しの間触れていなければならない。


俺は飛びながら手を長く伸ばして前方にある床に触れた。触れた部分が通り過ぎるまでに魔力を流し込み、何とか光を発生させたが、魔力量が少ないせいで洞窟全体を照らすことはできていない。


この方法では光が弱くて先が見えないから意味がない。どうにかして洞窟全体を照らせないか考えていると、後方から何かが通り過ぎるのが見えた。

その瞬間、バランスを崩して俺は床に叩き付けられた。



え?



訳が分からずに翼を見てみると、左側の翼が何かに打ち抜かれていた。前方を向くと、俺の翼を打ち抜いた物体があった。それはボールのようにも見えたが、よく見ると複数の足が生えている。



……蚤がベースの魔獣かな?



そう思っていると、魔獣が振り向いてこちらを見た。確かに体は蚤なのだが、顔つきは中年のおっさんだ。


蚤の魔獣は足に力を込め、再び俺目がけて飛んできた。おっさんの顔が急接近してくるという恐怖に当てられ、俺は腕を振り上げて殴り飛ばした。


ガンっと衝突音が響く。蚤を壁の方向に飛ばすことはできたが、強い衝撃で腕が折れ曲がってしまった。

蚤はそのまま壁にぶつかったが、足から着地してまた俺目がけて飛んできた。予想以上に固い体をしていて、ダメージが通っていないようだ。


それならばと、今度は蚤に向けて腕から複数の針を伸ばした。二本ほど針が折れてしまったが、蚤の飛ぶ勢いもプラスされて何本かぶっ刺すことに成功した。蚤はおっさん顔に苦悶の表情を浮かべてそのまま息絶え、灰となって消えていく。……最後の光景は夢に出そうだね。



バンッ!!



大きな音に、俺は後ろを振り向いた。百足が自身の体を床に叩き付け、急ブレーキをかけたみたいだ。蚤との戦闘中に距離を詰められてしまったせいで、百足との距離はもう十メートルもない。


もう光が消える。この暗闇の中で逃げ切るのは無理と諦め、俺は戦闘態勢をとった。





『やっと追いついたか。お主、御子であろう? 何故逃げるのじゃ?』



え?



上を見上げると、百足の額についた顔がこちらを凝視して口を動かしていた。



百足がしゃべった!?



魔獣は自我がないはずだ。ならば目の前にいる百足は、魔獣ではなく悪魔になるのか?



『なんじゃ、返事くらいせんか。それとも、声が出せんのか?』



そう言われて念話で話しかけていないことに気づいた。悪魔同士の会話は念話が基本だったね。



『悪い、驚いて声も出なかった。一応、俺が御子、らしい。……アンタは、悪魔なのか?』

『見ればわかるじゃろう? なんじゃ、耳だけでなく目も悪いのか?』

『どこからどう見ても百足の魔獣にしか見えないって!』

『キヒヒ、儂を魔獣呼ばわりするとは、耳も目も頭も悪いようじゃわい』


老婆の顔がクシャっとなって笑い声をあげる。そこだけ見れば人らしく見えるんだけどね。

馬鹿にされた感じでイラっと来るが、とりあえずは会話を進めるか。


俺は足から魔力を流し込み、洞窟全体を照らした。暗闇の中で百足のババアと会話なんてしたくない。


『百足の婆さん、名前は?』

『相手に名乗ってほしいんなら、まずは自分が名乗らんかい』

『……名はない』

『なんじゃ、名無しかい。どうやら御子は生まれたてのようじゃな。道理で、礼儀がなっとらんのか』


……ちょいちょい馬鹿にされることに少しずつ怒りが湧いてくる。ただ、目の前の百足との戦闘なんてしたくない。俺は握りしめた拳を後ろに引いた。


『俺のことは御子って呼べばいい。それで、婆さんの名は?』

『儂の名はムカデじゃ』

『そのまんまじゃねぇか!』

『キヒヒ、悪魔の名なぞ、何でもよいわい。儂は百足が好きじゃからムカデという名にしたんじゃ』

『……百足が好きで、そんな見た目になったのか?』



もうすでに会話に疲れてきた。俺は呆れて質問を投げかけると、ムカデは笑みを浮かべて笑った。

次の瞬間、顔が盛り上がっていくのが見えた。唖然としてその光景を見つめていると、百足の額から老婆が出てきた。


『これが儂の本体じゃ。さっきまでこのディピードに憑依しておったんじゃよ』



ムカデは百足、ディピードの頭を撫でて優しい表情を浮かべている。まるで我が子のように可愛がっている姿を見て俺はドン引きした。



『なんで、百足に憑依していたんだ?』

『何当たり前のことを聞くんじゃ。百足が好きじゃと言うたじゃろうが』

『……意味が分からない。好きだと、何故憑依する?』

『決まっておろう、百足になりたいからじゃ!』



ああ、なるほど。確かに悪魔だね。

……三人目に出会った悪魔は虫大好き変人だった。




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