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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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悪魔にも理解できないことはある



土の壁で囲われた空間は暗闇に包まれている。光も音も入る隙間は無く、静寂が闇をより深めている。

まるで、俺の今の感情を表しているかのようだ。



俺は魂を手にしていた。これはニョチェラの魂。体から取り出し、浄化されないように魂魄保護を掛けている。

既に魔天穢染は解除している。あれは俺にも影響があるからね。

自覚していなかったけど、クリュスの足を奪われて激怒していたみたい。ニョチェラとの同調も相まって、やたらと嗜虐的な思考になっていた。


どうも、悪魔になってから感情が揺らぎやすくなっているみたいだね。

人間の時は冷静沈着だったんだけどなぁ。他人の魂に干渉することが多くなったからかな?



魂が抜けたニョチェラの体は床に転がっている。

致命傷は無く、目立った傷も無い。


俺は怒りのままに、深淵魔法を駆使してニョチェラに精神的な苦痛を与えた。

満たされない欲求に渇望するも叶えられず、絶望の底に叩き落とす。……そのはずだったんだけど。



『ああああんっ! もっと、もっとぉ!』



ニョチェラの魂から感情が溢れ出ている。……どうしてこうなった?

絶望の底に叩き落としたつもりが、恍惚の絶頂に達しているんだけど?



俺は深淵魔法の知識を使ってニョチェラの精神を侵し、崩壊させようとした。


今までにも深淵魔法は使ってきたけど、それはほんの一部だ。

爺から継承した〈深淵のシンガ〉には、深淵魔法の理論や魂の概念に関する膨大な情報が詰まっている。

今までは魔法の名前と効果のみを確認して使っていたけど、深淵魔法を詳しく知るにはもっと深く潜らなければならない。



少しずつ〈深淵のシンガ〉から情報を読み取りながら、ニョチェラの魂を実験台にして実践した。


ニョチェラは魔天穢染の影響もあって欲求が高ぶっている状態だった。

感情を増長させて、それでも欲求を満たすことが出来ずに苦しんでいる状態だね。


魂は不形だけど、肉体に重なるように存在している。そして、魂は感情によって大きく変動する。

ニョチェラの魂は揺れ動いて肉体の枠を外れていた。


強すぎる感情は、肉体にも大きな影響を及ぼす。

手足が震え、血流は弱まり、動悸が乱れ、息の仕方すら忘れて呼吸困難になる。

あまり感情を揺らし過ぎると気絶しちゃうから加減が難しいね。



強い欲求を暴露させたまま、他の感情を打ち消していく。

精神を蝕むほどの強烈な思いが、魂を穢れに変える。


永遠に叶えられない欲求への渇望。それがニョチェラには一番効き目があった。

だから、ここまではうまくできていたんだ。



問題はやはり、その後の実験か。


精神的に追い詰めたのは良いけど、その時の俺はまだ満足していなかった。

魔天穢染の影響もあって嗜虐的になっていたせいで、更なる苦痛を与える為に次の手に出た。


それは以前爺にやられた捻魂という魔法だ。

魂に干渉して捻じることで、精神的な圧迫感を与える。

生物に使っても精神状態を歪ませることで不安を与えるくらいだけど、精神生命体には全身を雑巾絞りされているような激痛を与える。


これは魂の形によって魔法の効果が変化するからだ。

生物は魂が不形だけど、精神生命体は魂のみで体を構成しているからね。


魂を壊すほどの効果は無いけど、その痛みを知っている俺は拷問に丁度良いと判断した。

だから、ニョチェラの魂を抜き取って捻魂を発動したのだ。


魂を抜き取って死を味わわせた後に、今まで経験したことのない激痛。

それを魂が穢れて崩壊するまで続けるつもりだった。


欲望を叶えられないまま死亡し、耐えがたい激痛を与え続ければ、絶望に染まって魂が消滅すると思っていた。

だが、一つだけ、読み違えていたことがあった。



ニョチェラは嗜虐趣味を持っているが、それと同じくらい自虐趣味も持っていた。



未知の激痛に歓喜して喘ぎ、追加の御仕置を渇望する変態をどう処理しろと?

もう、深淵魔法を使ってもこの魂を絶望に落とすのは無理だと悟った。というより、もうこれ以上干渉したくない。


何をしてもニョチェラは喜ぶ。だから、魂を保護して永遠の放置プレイとすることにした。まぁ、諦めたとも言う。

魔天穢染を消して我に返ったせいで余計に、俺は何をしていたのだろう、という気分になったよ。



捻魂を使った事が間違いだった。

その考えを植え付けたのは爺だ。そう、つまりは全部爺が悪い。俺に非は無いのだ。


俺は爺に罪の全てを擦り付けてニョチェラの魂を取り込み、忘れることにした。



外ではまだアージリナが戦っているのだろうか?

冷静になって漸く周りに気を配ることが出来たけど、土壁に囲われていて外の様子は伺えない。

大きな音は聞こえないし、魔力も感知できない。もし戦闘中なら手を貸した方が良いかと考えて、思い留まる。



アージリナなら問題は無い。ニョチェラと比べても、アージリナの方が強いからね。

ゲインや兵士もいるし、何かあればウェルかクリュスから念話が飛んでくるだろう。



それよりも、今は現状に目を向けて対策を考えなければならない。

今回の戦闘ではかなり苦戦したし、クリュスに怪我を負わせてしまった。

油断していたことは確かだ。敵が多少強かろうと、人間なら負ける気がしないと思っていた。


やはり、問題は破邪天明だ。

そのせいで俺は本来の力が発揮できず、無様にも隙を晒してしまった。



現世で行動するには、精神生命体のままでは不安定。

本来の力をいつでも発揮する為には、肉体が必要だ。



俺は眼下にある死体に目を向けた。

ニョチェラの死体は、図らずも損壊が無い。……変態の体の中に入るのは気が進まないけど、選り好みできる状況じゃないよね。


〈深淵のシンガ〉から読み取った知識を使い、俺は手をニョチェラの胸に突き刺した。

肉体に傷をつけず、手が胸の中に沈んでいく。そのまま魂をニョチェラの体に馴染ませていく。


少しずつ体の中に魂が入っていく。だが、肘に達する前に腕が止まった。

感覚で分かる。これ以上腕を突っ込めばニョチェラの体は崩壊する。



爺が言っていたのはこれか。

ニョチェラの体では、俺の体を入れる器として足りない。


精神生命体が受肉を果たすには、精神を移すための器が必要になる。

人間一人では到底足りない。何人、いや何十人の肉体が必要になるだろう。



ニョチェラは変態が故に、人間の中では強い精神を持っていた。

肘先までは入ったから、ニョチェラくらいの精神を持つ変態をあと十数人集める必要があるのか。

……変態で出来た肉体か、急に欲しくなくなってきた。というより、そんなに変態ばかりの世界は嫌だね。

変態じゃなくても、数さえ揃えば精神力の弱い人間でも問題ないし。



問題になるのは、死体をどうやって集めるかだ。

グラン連邦国の騒動で死体を集めることが出来れば良いけど、ウェルの手前、顔見知りや国民の死体を貰うのは躊躇われる。

それに、ウェルの仲間が死体を集めているなんて噂が出ると、ウェルの立場が悪くなるだろう。

そう考えると、ニョチェラの死体を持ち歩くこともできないか。


地道に死体を集めるしか無いけど、保管する場所も無い。

この都市に死体安置所があれば良いけど、望み薄かな。一応、アージリナに聞いてみようか。

まぁ、もしあったとしても、死体をくれなんて言えないけど。



そもそも、死体を集めたところで俺は肉体を再構築する魔法を知らない。

〈深淵のシンガ〉の中にその知識は無かったからね。まぁ、魂に関する知識しか無かったから仕方がない。


どうしようかと一人悩んでいると、頭の中に声が響いた。



『お悩みのようじゃな』

『……出たな、変態の生みの親』

『何のことかは分からぬが、馬鹿にされていることだけは理解したわい』

『ぐおっ!?』



そういうと、身に覚えのある激痛が全身を駆け巡った。

痛みの原因が捻魂だと理解できても、それを阻止する術がない。

痛みが消え去った後、俺は両膝を付いて倒れ込んだ。



「……この痛みで絶頂するのか。やっぱり、理解できない……」



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