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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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悪魔の油断


夜の訪れと共に館を出て襲撃者達の根城に向かう。

全員が灰色のマントで全身を覆い、フードを被って顔が見えないようにしている。


周りから怪しまれないか不安になったけど、都民に支給される衣服の一つだから目立たないらしい。

……だったら朝に渡してほしかった。ゲインに文句を言ったら無言で流されたよ。


まぁ、どんな格好をしていても、何者かが留置所を徘徊していたということは暗部に筒抜けだからね。

それなら全身黒ずくめの恰好に意識を向けさせておいて、夜に灰色のマントを被った方がバレにくいか。


いくら支給品でも集団でフードを被っていれば多少は怪しまれるけど、それでも顔は隠す必要がある。

特にアージリナとゲインはこの都市では有名人だからね。



アージリナとゲインには、二人が信頼している兵士達に要請を出してもらった。

お願いするのは後処理だから、招集を掛けるのは事が終わってからだけどね。



今回の戦闘は現状の戦力だけで問題無い。

襲撃するのは俺とアージリナ、ウェル、クリュス。


暗部の処分は俺とアージリナが受け持った。

あいつらは捕まえても自害するからね。だったら初めから殺すつもりでいた方が良い。


ウェルとクリュスには契約で縛られている都民を無力化してもらう。

複数人を拘束し、素早く無力化するには二人の方が適任だからね。


そして、フェリュスとゲインには裏方の仕事を任せている。

ゲインにも結界が使えるようで、二人の結界があれば敵の逃亡と被害拡大を防止出来るだろう。

破邪天明の影響ももう少し弱まってくれると嬉しいんだけどね。



「敵さんは全員店におるん?」

「いや、さすがに全員はいないだろうな。半分もいれば良い方だ」

「アンジー、良いのか? 派手に暴れれば残りの暗部は警戒して身を隠すのでは?」

「構わない。全滅させようとしても、害虫はまた集まってくる。今の内に潰せるだけ潰しておくだけで良いさ」



まぁ、この都市内の暗部を全員殺しても、また別の暗部が差し向けられるだけだからね。

アージリナのいう通り、見つけた時に潰せば良い。



すれ違う人達に多少奇異な目を向けられながらも、呼び止められることなくショーオンの店に辿り着いた。

店の中から仄かな明かりは見えるが、料理の匂いはしてこない。

扉も閉まっていて準備中のような雰囲気に、外を出歩いている都民もチラッと店を見ては素通りしていく。



ゲインの体から、ふわっと魔力が広がった。

魔力はかなり希薄で、意識していてもどこまで広げているのか察知できない。



「店の中にいるのは17人。店の外に2人見張りが居ます。外にいる2人は魔力量から考えて暗部でしょう」

「ふむ、そうなると外側にも戦力が必要か?」

「問題ありません。それよりも店の中の方が危険です。恐らく半数が暗部と思われますが、全員が武器を携帯しています。他にも何か……、薬品でしょうか?」

「昨夜使われた毒かも知れんな」

「懲りずに、また襲撃するつもりなのか?」



ゲインは結界内を覗くことが出来るのか、正確に情報を把握して報告してくれる。

その報告を聞いて、ウェルは溜息を零す。呆れた声の中には怒りが秘められている。



「ホンマ、碌なこと考えんな」

「そうだね。でも、分かりやすくて良い」



全員が武器を携帯しているなら、暗部以外の者は契約で縛られている都民だろう。

それなら、最悪は全員殺してしまっても問題は無い。



「……メア。店の中に入ったら、先手は僕にさせてくれないか?」

「うん、いいよ。じゃあ、行こうか」



俺の魔法だと威力の調整が効かないから、ウェルの方が適しているだろうからね。

俺達は全員店に向かって歩きだした。



「フェリュス」



ウェルが店の扉を開け放つと同時に、フェリュスに障壁を発動させた。

障壁が店全体を覆った。暗部の者でもゲインの結界には気づけなかっただろうが、フェリュスの障壁で気づかれたはずだ。


その証拠に、店の中から椅子を倒す音が複数聞こえた。

武器を抜いている者が複数いる。咄嗟に動けた者が暗部だろうね。



「"砂塵"!」



ウェルが発動した魔法が、床の石材を砂に変える。砂嵐と化して瞬く間に視界を防いだ。

そして、敵の足元から砂を這わせて硬質化させ、敵に足枷を嵌めていく。


元々魔法には長けていたけど、最近の戦闘経験が生かされているのか、魔法の練度が上がっている。

魔力の出力も上がっているし、魔法発動も早い。今戦ったら前よりも苦戦するだろうね。


砂塵発動から足枷を作るまで、三秒。

早業ではあるけど、訓練された暗部を捕らえることは出来ない。

咄嗟にジャンプして躱す者や、足枷を容易に破壊する者、瞬時に反撃に移る者と、やっぱり戦闘のプロは判断が早いね。


細長い針が複数飛んできた。目の前に迫る針の群れは、全てが左右に流れていき、一本も俺達には当たらない。

クリュスが風で軌道を逸らしたお陰だ。


敵は投擲武器を切り替えて、次にトマホークを投げ飛ばした。

魔力で強化されているそれは、風では逸らすことが出来ない威力を秘めている。

そのトマホークの刃に、石の礫がぶつかる。刃の腹に当たったことで軌道がズレ、これもまた俺達に当たることなく壁に突き刺さる。

壁を貫通し、フェリュスの障壁に衝突してトマホークが砕けた。直撃していたら危ないけど、投擲ならウェルとクリュスのお陰で逸らすことが出来る。



「ふっ」



アージリナが手を振るう。すると、近くにいた敵の腹部に穴が開いて鮮血が舞った。

アージリナが投げたのはウェルが作った石の鏃だ。軽く投げたように見えるのに、鏃は人間の腹部を貫通して奥の壁にめり込んでいる。



「"崩尖"! "削回"!」



敵が細い棒を投げ飛ばす。その棒は魔力で覆われて円錐の形となっている。

円錐を弾こうと石礫が飛ばされるも、円錐に触れた瞬間に砂に戻された。強力な分解の力があるのだろうか?



「"反衝"!」



俺は手を翳して反衝を発動させた。

二人の結界に加えて、ここの建物にも魔力が籠っている為、破邪天明の効果が大分削減されている。

反衝はコントロールが難しいけど、この環境下であれば問題は無いね。


生み出した魔法陣に円錐が突き刺さる。衝撃も魔力も全てを純粋なエネルギーとして取り込む。

そのエネルギーを圧縮して跳ね返すと、棒は衝撃で砕け散り、その先にいた敵の腕を弾き飛ばした。


アージリナが二つ目の鏃を投げ飛ばした。それが敵の額に当たって脳髄が飛び散る。


遠距離は不利と悟った敵が、砂地を駆けてアージリナに迫り寄る。

アージリナは今、青龍偃月刀のザイゲンを持っていない。

その代わり、両手には銀色に輝くガントレットが装着されている。


ニッと笑ったアージリナが、腰を落としてガントレットに魔力を籠める。

ガントレットから橙色の光が零れる。

危険を感じ、俺は黒衣に硬化を付与してウェルとクリュスを守る体勢に入る。


アージリナの姿が消えた。次に姿が見えた時には、迫ってきていた敵に拳を叩き込む瞬間だった。


拳がぶつかった瞬間に頭が吹き飛んだ。

衝撃が強すぎて、まるで頭部だけガントレットに飲み込まれたようだ。

頭を失った躯は前のめりに倒れ落ちた。衝撃で後ろに飛ばないほど、一点に威力が集中していたようだ。



「はっ!」



アージリナは突き出した右の拳を引き、左の拳を突き出した。それも魔法ではない、ただの正拳突き。

だが、突き出された拳から、魔力が塊となって放たれた。


橙色の丸い塊が、敵の体を容易に吹き飛ばす。

舞い上がっていた砂塵が拳圧で吹き飛び、石材やら肉片やらが派手に散らばった。


一応加減はしているのか、拘束した人間には当たらないようにしていたけど、間近に迫る衝撃だけで失神している者もいる。

まぁ、失神者は明らかに暗部じゃないから放置で良いか。



「なぁ、普段と戦闘時で性格変わり過ぎてへん?」

「本当、怖いよね」

「どこかの誰かと同じくらい怖いな」



そんな軽口を叩けるのは、ウェルの拘束が完了したからだ。

8人の拘束が完了し、首の下まで砂で固められている。既に死体が3体転がっている。敵は残り6人だが半数以上負傷している。


このまま行けば簡単に片づけれる。そう考えていた。

それは、油断だった。



「がああああああ!」



片腕を失った男が叫び声を上げた。

それに呼応して魔力があふれ出る。片腕から血が流れ落ちるのを無視して魔力を腹に流し込む。

注視すると、腹部に集まった魔力は収束して一点に蓄えられていた。そこでようやく、腹部に魔道具が埋め込まれているという可能性に思い至った。



何かされる前に潰す!



「"黒槍"!」

「"崩尖"!」



射出した黒槍に対し、敵は体に魔法を掛けて貫手で先端を合わせた。

崩尖により、黒槍の勢いを少しだけ削る。だが、それでも勢いを殺し切れずに黒槍が手に突き刺さり、そのまま腕を吹き飛ばして後方の壁を粉砕する。


それでも魔力の流入は止まらない。

アージリナも危険を察知して敵に向かおうとするも、その足を止めた。


敵の体が崩れている。皮膚が割れ、肉が裂け、骨が砕け、血に染まる。

崩尖には分解の効果があるが、それは外側だけでは無いようだ。


足の骨が砕けて敵が崩れ落ちる。

体が床にぶつかった瞬間、腹部に隠していた魔術具が発動し、肉体が爆ぜた。


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