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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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物忘れ悪魔


柔らかい布団に包まれて、目を閉じ体を休ませる。

俺達は館の三階にある客室に泊まらせてもらうことになった。部屋数が多く、一人一部屋も用意してくれたよ。

フェリュスは廊下に立ったままだけどね。


下の階からは小さな足音や話声が聞こえてくる。襲撃事件があったばかりだからね。

兵士達が現場を検証したり、情報共有したりと慌ただしくしている。


俺達も当事者なんだけど、アージリナが事情聴取に答えると申し出て、俺達は先に席を外した。

アージリナや兵士達には申し訳ないけど、休息は必要だからね。体を休ませるには横になるのが一番だ。


いくら肉体の無い悪魔でも、精神的な疲労は避けられない。

特に現世では破邪天明があるからね。黒衣があると言っても多少はダメージを受けているし、常に命の危険があるというストレスも蓄積していく。


そして何よりも、癒しが、癒しが無い。そう、それこそが一番の問題だ。

癒しがあれば何でもできる。精神的疲労なんて塵芥と化して散っていくのに。


はぁ、小動物が欲しい。

フサフサのモフモフに癒されたい。


道中は魔獣だらけで動物はいなかった。まぁ、普通の動物が生きていける環境では無かったからね。

期待していたけど、都市の中にも小動物は見当たらなかったし。

軍事都市だから、愛玩動物を飼っている人はいないのかな? 馬車を引く魔獣や家畜の豚はいたんだけど。


豚も子供なら可愛いんだけどね。牛並に大きい巨豚を見て可愛いという感情は湧かないよ。

品種改良っていうレベルを超えているよね。遺伝子操作? それともあれも魔獣だったのかな?



俺が死んでから千年。千年も経てば、そりゃ世界も変わるよね。

当たり前にあった物は消えて、有り得なかった物が生まれて。


現世の人達にとっては当たり前の世界でも、昔しか知らない俺にとっては同じ世界に住んでいたとは思えないよ。

異世界に転生したと言われた方が、すんなりと受け入れられそうだね。



はぁ、現世には癒しが無い。だから世界が荒れているんだよ。

癒しがあれば世界は良い方向へと巡るのにね。


小動物はいないし、軍事都市だから子供もいないし。



あーぁ、久しぶりにヨミに会いたいな。



『呼んだ?』



あぁ、駄目だ。幻聴まで聞こえてきた。

癒し成分が枯渇している証拠だ。


美味しいご飯を食べれば回復できると思っていたのに、あのメイドのせいで台無しになったからなぁ。

いくら効かないといっても、毒入りの料理を食べたいとは思わないからね。結局、ご飯抜きだよ。



『メア?』



幻聴がまた聞こえてきた。でも、もう幻聴でも良いのではなかろうか?

幻聴だったとしても、ヨミの声であることは変わりない。例え幻であろうと癒しであることに変わりは無いのだから!

……あれ? 何だか涙が出そうだよ?



『頭、大丈夫?』



いいえ、駄目かもしれません。

ヨミの言葉が辛辣。だけど、それが良い。



『駄目だって』

『それは既に知っておる』



はっ! 癒しの中に汚物が!



『天誅』



ぐぁ!?

痛い! どこがかは分からないけど痛い!

何をされたのかも分からないけど、誰がやったのかは分かる。


こんな芸当が出来るのは、俺に王の座を擦り付けた元王、フィンジスしかいない。



『何しやがるクソ爺!』

『漸く気づいたか』

『……メア、無視?』

『俺がヨミのこと無視するわけないじゃない! てっきり幻聴かと思っただけだよ』

『なら良い』

『ヨミ~、ありがと~!』

『……はぁ、お主は相変わらずじゃの』



幻聴かと思ったら本物の声だった! 通りでテンションが上がるわけだね。

クソ、雑音が無ければもっと良かったのに。



『天誅』



ぐぁ!?

痛い! さっきより痛い!



『何しやがるクソ爺!』

『魂が繋がっておれば、幻痛を与えることも容易じゃ。一つ勉強になったのう』

『喧しい!』

『ヨミ、五月蠅い?』

『五月蠅いのはヨミじゃなくて爺だよ! ヨミの声なら四六時中聞いていたい!』

『なら良い』

『ヨミ~、ありがと~!』



あぁ、やっぱりヨミは良い子だね。一緒に現世に来られたら良かったのに。



『捉えようによっては気持ち悪いが……。全く、お主の希望を叶えてヨミを呼んだが、早計じゃったな』

『今度から、ヨミがいなかったら通信に応じない』

『なお質が悪いのう』



爺に呆れられるのはどうでも良い。

ヨミがいるかいないかは雲泥の差だからね。



『まぁ良いわい。それで、受肉は出来たかのう?』

『全然。今それどころじゃないし』

『ふむ? どういう状況じゃ?』



俺はこれまでのことを話して伝えた。

爺のことだから俺の行動を監視しているかと思ったけど、プライバシーは守ってくれていたみたいだね。



『お主』



話しを聞き終えて、爺が溜息と共に言葉を零す。



『前にも言ったが、お主が死ねばアトネフォシナーと現世との繋がりは消える。現世の者達がどれほどの強者かは知らぬが、破邪天明の影響下にあるお主が勝てる相手なのか?』

『あー……』



……忘れてた。そういえば、そんなこと言われてたね。



『繋がりが断てば、もうヨミやミツメとも会えぬな』

『ぬあぁあああああ!!』



俺は、俺は何てことをぉおお!

他の有象無象のことはどうでも良い。けど、二人に会えなくなるのは嫌だ!

俺は今、そんな大きなリスクを抱えていたのか!



『メアに、もう会えない?』

『会えるぅぅ! 会えるから、そんな悲しいこと言わないでぇ!』

『もうお主の情緒不安定にも慣れてきたわい。できればアトネフォシナーの出入り口を設置することを優先してほしいところじゃが、お主にとって必要な戦いであるならば、それを止めることはせん。じゃが、危険を回避する為にも、保険は掛けておいてほしいのう』

『……保険?』

『深淵魔法の一つ、魂入を使って物質に魂を付与するんじゃよ』



魂入は爺のいう通り、魂の一部を対象物に付与する魔法だ。

今、俺の魂には爺の魂の一部が付与されている。魂入を使えば、俺の魂に混じって爺の魂も対象物に付与することが出来る。


爺は自分の魂の位置情報を把握できる。これは深淵魔法ではなく、空間魔法によるものだね。

それによって現世にいる俺の位置も特定している。けど、俺が死ねば魂は消失し、爺の魂も一緒に消失する。そうなれば現世の位置情報をも失うことになる。


そうならない為の保険。俺が死んだ後に下りる保険だから、死亡保険かな?

俺が死んだ後のことなんてどうでもいいけど、現世に送ってくれた恩は返さないとね。



『分かった。物質なら何でも良いの?』

『頑丈で魔力の付与しやすい物質が好ましいのう』

『なら魔鉱石か。……もうちょっと早く言ってくれればなぁ』



魔道具製造の施設には魔鉱石が大量にあったからね。

まぁ、軍事都市だったら魔鉱石もあるだろうし、アージリナに頼めば貰えるかな。



『大きさは付与する魂の量に比例する。あくまで保険じゃからのう、付与する魂はほんの僅かで良いぞい』

『分かった。王都に行く前に用意しておくよ』

『あぁ、頼んだぞい。では、通信を切るぞ』

『まだ駄目! 最後に聞いた声が爺とか悪夢だろうが!』

『もう、反撃する気も起きんわい』

『メア』



ヨミの声が雑音をかき消す。あぁ、やはりヨミは世界の癒しだね。



『またね』

『うん。またね、ヨミ。会えるのを楽しみにしてるよ』



声が聞けて嬉しい。

あぁ、ここ最近の穢れが浄化して心が満たされたようだ。


……けど、やっぱり直接会って話がしたい。

後回しにしていたけど、早くアトネフォシナーの出入り口設置しないとね。








====




空が明るくなり、窓から射し込んだ光が部屋を照らす。

人間だったら清々しい朝なのだろう。……俺は命の危険を感じるんだけどね。



さて、ヨミと会話してリフレッシュしたことだし、気合を入れ直して行動しよう。

だがその前に、昨日食べられなかったご飯! ご飯食べに行くぞ!


用意されていた料理は全て毒入りだったから断念。

残った毒料理は勿体なかったので、毒を盛ったメイドとフェリュスの胃袋に詰め込みました。


新しい料理を出してもらおうにも、料理人は治療院に運ばれていったからね。

料理人は出血が酷く昏睡状態で床に伏していたらしい。命に別状は無いらしいから一安心だけど、暫くは病床だね。


その他の使用人たちも、襲撃の後処理でバタバタしていたから頼むこともできなかったし。

さすがに空気を読んで就寝。まぁ、状況的に寝られただけでもマシだけどね。



廊下を出ると、一晩中立ったままのフェリュスと、それを見て引いているウェルとクリュス。もう起きていたんだね。

俺達はそのまま食堂へ。既に兵士達はおらず、散らかっていた物も綺麗に片づけられているね。



「皆様、おはようございます」

「ゲイン、おはよう」



ウェルが執事に挨拶を返した。この執事はゲインって名前だったのか。一度も名乗っていなかったから、ウェルは最初から名前を知っていたんだろうね。



「朝食をご用意しております。どうぞこちらへ」



ゲインの案内で席に着き、メイドが料理を運んでくる。

昨日の晩餐と比べれば品数も手の込んだ料理も少ないけど、素材を活かした料理で優しい味わいだった。

特に川魚の料理が良かったね。ホロホロとした身に爽やかなスパイスが効いていて、朝からでも沢山食べられるよ。


まぁ、川魚といっても魔獣らしいけどね。魔獣の中には食用に適したものもあるらしい。

調理後だからどんな姿だったのか知らないけど、どうせグロテスクだから知りたくもない。


今まで出会った魔獣の中では、黒狼は食べられるみたい。肉は硬くて美味しくは無いらしいけど。

昆虫系は基本的に食用に適さないらしい。毒持ちが多く、他にも細菌と共生しているタイプもいる。食べたら何かしらの病になるとのこと。

……そもそも、あの醜悪な姿を見て食べたいなんて思わないけどね。



「美味しかったぁ」

「ホンマ、こんな美味いもん食べたん生まれて初めてやわ」



食事を終えてマテ茶を啜る。あぁ、なんて優雅なひと時だろう。

このままゆっくりと寛いでいたい。まぁ、そんな余裕は無いけどね。



「ふふ、喜んでもらえて良かった」

「アンジー、おはよう」

「あぁ、おはよう」



食堂にアージリナが訪れ、席に着く。

食事は既に済ませていたのか、ゲインはマテ茶だけをアージリナの前に置いて背後に控えた。



「早速だが、昨夜の襲撃事件について話そう」



襲撃者の記憶を見たから知っていたけど、襲撃者の背後にいるのはハイエンスで間違いないようだね。

ハイエンスは配下の者に対して魔法陣を刻む。魔法陣には焼却の魔法が組み込まれている。魔法陣が発動できるのはハイエンスか本人のみ。自決する際に魔法陣を使って証拠隠滅する為に使われるが、一方でハイエンスが配下を縛る為の呪いでもある。


まぁ、魔法陣に魔力が流れ込まなければ発動しないから、魔道具付きの牢獄に閉じ込めれば焼却は防げるんだけど。

危険を察知すると直ぐに自害するように刷り込まれていたようだけど、その余裕を与えることなく無力化したからね。


また、魔法陣には視覚共有の魔法も組まれている。

襲撃者の目を通してハイエンスは同じ光景を見ることが出来る。本来ならね。

でも、ゲインの結界によって魔力が遮断されていたから視覚は遮られ、焼却もできない。

ゲインのお陰で俺もウェルも正体がバレずに済んだから助かったよ。

逆にハイエンスは何が起こったのかも分からずに苛立ち焦っていただろうね。ざまぁ。



「襲撃者は全員死亡した。だが、他にもこの都市に潜伏しているかもしれんからな。兵士達に調べてもらっているところだ」

「それなら、俺が探ろうか?」

「出来るのか?」

「うん。ハイエンスの魔力は、昨日感知した。同じ魔力を持つ者を探すだけなら、簡単だよ」

「ふむ……。それなら、お願いしたい。ゲイン、兵士を二人連れて同行しろ。相手の生殺はその場でお前が判断すれば良い」

「承りました」



兵士二人は軍事行動であることを周りに示す為で、ゲインは見張り役ってところかな。

まぁ、俺一人で潜伏している敵を殺して回るのも問題になるだろうからね。


わざわざ敵を探して始末するなんて面倒だけど、ここでアージリナに恩を売っておけばおねだりし易いからね。



「その代わり、魔鉱石があれば欲しい」

「魔鉱石か。どれくらい欲しいのだ?」

「大きい魔鉱石を一つ。大きければ大きいほど良い」



魂の一部を入れるのに、どのくらいの大きさが必要なのか分からないからね。

大きい魔鉱石で試した方が失敗が無くて良いよね。



「分かった。倉庫にいくつかあったはずだ。用意しておこう。それと、貴殿らの通行許可証の発行は本日中に完了する予定だ。夜には渡せるだろう」

「発行できるん? 地竜のせいで出来んと思っとった」

「地竜が人間に危害を加えず、指示に従って行動できることを昨夜確認したからな。私から領主に直接依頼したのだ。少し渋っていたが、最後には折れたな」

「……アンジー、脅して無いよな?」

「ふふ」



アージリナの表情を見て、ウェルは視線を逸らした。まぁ、そこはあまり聞いてはいけないだろうね。



「なら、とっとと終わらせよう」

「俺は都市ん中やと目立つし、地竜と遊んどるわ」

「ず、ズルい! 僕も地竜と遊ぶ!」

「いや、手伝ってよ」



俺の言葉を無視してウェルとクリュスはさっさと地竜の元に向かってしまった。

……クソ、子供たちめ。俺もとっととやること終わらせて遊びに行くからね!


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